02

眠たい数学の授業を何とか乗り切った。
だがまだ2時間目・・・
後2時間も授業受けねーと昼飯になんねーのかよと机に突っ伏した。
するとそんな俺の頭上から嬉々とした声が降ってくる。


「ねぇ赤也!」

「んあ?」

「可奈代と別れたってほんと?」

「あ?・・・・・・あぁ」


その名が5日前に別れた元カノのものだと気付くのに時間がかかった。
しかしあれからもう5日も経ってんだ。
ならすぐに思い出せなかったのもしかたがないと、元カノが聞いたら怒り出しそうな事を思う。
しかし、そんな俺よりさらに酷い奴が目の前にいた。


「やった!なら今度は私と付き合ってよ!」


お前、あいつと友達じゃなかったか?
思わず呆れるが、まぁ俺の知ったこっちゃない。
いつものように了承しそうになったが、ハッと思い出して手を振る。


「わりぃけど、俺もう付き合ってる奴いるから」

「えぇ〜〜〜?!先越された!誰?」

「お前には関係ねーだろ」

「ん〜〜〜・・・なら別れたら言って!
その時は今度こそ私と付き合ってよね!」


そう言って軽いノリで去っていく背に、さすがにスゲ〜奴と溜息を吐いた。
そしてそのまま思い出すのは、あの日新たに彼女となった聖莉麻衣の存在。
この5日間、何の音沙汰も無いので忘れてかけていた。
今までの奴なら、次の日からそっこー休み時間になるごとに顔を出しに来ていた。
もしくはメール。
そういや、聖莉とはメアドの交換もしてないんだなと携帯を掌の上で遊ばせる。
・・・・・・変な奴
でもラクだからいいかと、俺は再び机に突っ伏した。










聖莉の顔を次に見たのは、ちょうどその日の昼休みに入ってすぐの事だった。
昼飯は大抵テニス部の先輩らと屋上で食ってる。
ちなみに雨降ったら部室。
毎日朝練があるから、持って来た弁当は昼休みまでには食っちまう。
それは今日ももちろん一緒の事で、俺は購買でパンでも買おうと教室を出た。
・・・今月の小遣いも既にピンチだな
そう顔を顰めたその時、廊下で聖莉と出くわした。


「あっ、切原君・・・」

「おぉ、久しぶり。
わりぃけど俺今昼飯買いに行くとこだから」


そう言って聖莉の隣をそのまま通り抜け購買へと足早に向かおうとする。
しかし、「あのっ!」という声に視線を向けた。
すると、そこには紙袋を両手で差し出す聖莉の姿。


「これ、よかったら・・・」

「ん?何だよこれ?」


俯いてよく顔が見えない聖莉の変わりに、紙袋の中を覗きこむ。


「おっ!これってもしかして弁当?」

「う、うん!作って来たんだけど、よかったら・・・」

「マジ?!サンキュー聖莉!」


ラッキーこれで今日の昼飯代が浮くっと笑顔で紙袋を受け取った。
だが、すぐに以前の出来事を思い出してヤバかったかと動きを止める。
弁当作ってきてくれる奴は聖莉が初めてではない。
以前にも何人かいたが、その全員が弁当を渡し終わった後に一緒に食べようと続けるんだ。
先輩と食うからと断れば嫌そうな顔をされるし、なら別の日にと約束させられ面倒になる。
思わず顔を顰めそうになったその時・・・


「じゃあ放課後にお弁当箱取りに来るね」


そう言って笑みを浮べた後、普通に背を向けて去っていく聖莉。
その姿にどこか拍子抜けしつつも、すぐにまぁいいかと結論付けて俺は屋上へと向かった。










「おっ!赤也何持ってんだ?見せろぃ!」


本当に丸井先輩はこういう物には目敏い。
俺は既に昼飯を食い始めている先輩達の輪に混じりつつ答える。


「弁当っすよ」

「なんだ彼女の手作りか?」

「いやジャッカル、こいつこの前別れたばっかだから」

「・・・・・新しい彼女から貰ったんすよ」

「はぁっ?!」


丸井先輩の大声に思わず距離を取るように体を傾ける。
しかしそんな俺の様子も気にせずに飛んでくる言葉・・・


「お前この間別れたって言ったばっかだろぃ!
新しい彼女っていつからだよ?!」

「・・・・・5日前からっす」

「5日前〜?
・・・・・って、お前5日前の部活の時に別れたって言ってたじゃねーか!

「だ、だから部活終わった後に告られたんすよ!」


まるで責められているような居心地の悪さに半ば自棄のように答えれば、次に聞こえてきたのは大きな溜息だ。


「俺、なんでこいつがモテんのかマジわかんね〜・・・」

「そんなの俺もっすよ」


俺だって好きでこんな事を繰り返してるわけじゃないと脹れれば、仁王先輩の小さな笑い声が聞こえてきた。


「くくっ、赤也は猫みたいに可愛いけぇーの。
だからじゃろ」

「猫って・・・」

「始めは気まぐれなところも含めて可愛く見えるんじゃが、いつまで経っても懐かんから苛立ったり寂しくなったりするんよ」

「・・・・・・」


本当にこの先輩は喰えない人間だと顔を顰める。
しかしそんな俺の表情はさらに仁王先輩の笑いを誘ったらしい。
それに対して文句の一つでも言いたくなるが、口でこの先輩に勝てる人間は多くないだろう。
少なくとも俺は幸村部長ぐらいしか知らない。
だからここは無視するに限ると、紙袋から弁当を取り出した。
一緒に入っていた割り箸に気付き手に取ると、丸井先輩と隣にいるジャッカル先輩の視線を感じつつも蓋を開ける。


「美味そうじゃねーか」

「おぉ、これはマジで手作りだな。
冷凍の詰め合わせじゃねーぜ!」

「丸井先輩、そんな事まで分かるんすか?」

「天才的だろぃ?」


同意するのは何故か嫌で、俺は改めて弁当へと目を向けて入っていた肉団子を口へと運ぶ。


「あっ、うめぇ・・・」

「どれどれ?俺にも一つ・・・」


素で出てきた俺の言葉に反応して、持っていた弁当へと丸井先輩の手が伸びてくる。
そして俺と同じ肉団子を一つ摘み上げてから口へと放り込む。


「おっ!確かに美味いな!
ん〜、生姜とゴマが入ってるとみたぜぃ!」

「ブン太、お前将来そっち関係に進んだらどうだ?」


ジャッカル先輩の感心しているような呆れているような声が聞こえてくる。
それから始まるやり取りを半分聞き流しつつ、俺は綺麗に握られた俵型のおむすびに噛り付いた。










聖莉から貰った弁当は確実に今まで貰ったどの弁当より美味かった。
だからって訳でもないが、放課後自分から弁当箱を返しに5組へと向かう。
本当は昼休み屋上からの帰りに返そうと思って行ってみたが、その時は聖莉の姿は教室内に無かった。
仕方なくそのまま自分の教室に戻り、現在HRが早く終わったのをラッキーだと思いつつ5組へと足を進める。
そしてもう少しで5組だという所で、教室から出てきた聖莉と出会った。


「おっ!ちょうどいいタイミング!」

「えっ?」


俺の姿を見て驚く聖莉だったが、すぐに手に持っている紙袋の存在に気付いて慌て始める。


「あっ、ごめんなさい!
私取りに行くとか言って遅くなっちゃって・・・」

「たまたま今日は俺のクラス早くHR終わったんだよ。
それより弁当すげー美味かった!
サンキューな!」


そう言って紙袋を差し出せば、不安そうだった顔に笑みが浮かぶ。


「良かった・・・急に持って来ちゃったし、無理して受け取ってくれたんだったらどうしようって思ってたの」

「んな事ねーぜ?
マジで美味かったって!
また作って来てくれよ」

「ほっほんと?
・・・・な、なら明日からお昼持って来ても大丈夫?」

「おぅ、楽しみにしてるぜ!」


俺の言葉に安心したように浮べられた聖莉の笑み。
それは5日前に見た笑みと同じで、この笑顔は嫌いじゃねーなと笑い返した。
すると少し顔を赤く染めた聖莉は視線を逸らすように彷徨わせた後、行き着いた時計へと目を向けて口を開く。


「あっ、急がないと部活に遅れるよね。
これ持って来てくれてありがとう。
部活頑張ってね」

「おう、じゃーな!」


聖莉の言葉に手を上げて応えると、そのまま部室へと向かった。
そしてその次の日からも、本当に聖莉は昼休みになると弁当を持って来てくれるようになった・・・










「で、弁当の子はどれなんだよ?」


ニヤニヤと楽しんでいるような目でそう問われ、思わず顔を顰めて逃げようとした。
だが僅かに丸井先輩の腕が俺の首に回る方が早かったらしく、逃亡は断念するしかなくなる。


「なんなんすか急に・・・」

「だってあれから2週間だろ?
お前毎日弁当は貰ってくるくせに、それらしい奴全然見ねーからよ!」


そりゃそーだ。
聖莉と顔を合わすのは昼休みに弁当を持って来てくれる時と、俺が放課後弁当を返しに行く時くらいだけだ。
いくら丸井先輩が面白半分に見ようとしても、かなりタイミングが合わねーと無理だろう。


「で、どれなんだよ?見に来てんだろ?」

「何で丸井先輩そんなにあいつの事見たがるんすか」

「どんな奴があの弁当作ってんのか気になんだろぃ?
始めは1回限りで気合入って手が込んでんのかと思ったけどそうでも無さそうだし?」

「・・・そもそも本当にあの弁当をあいつが作ってるかなんて分かんねーっすよ?
親に作らせてるとか」

「その可能性は低いな」

「うわっ!柳先輩いつからそこにいたんすか!」


急に後ろからかけられた声にマジでビビる。
しかし丸井先輩は気付いていたらしく、柳先輩の言葉に首を傾げていた。


「何でお前がそんな事分かるんだよ?」

「・・・聖莉麻衣。
2年5組在中。
高校から立海へ入学し、両親は1年の時に父親の仕事の都合で広島へ行っている。
つまり現在彼女は一人暮らしだ。」

「なるほどね〜。
なら弁当も自分で作るしかないってことか」

「その可能性が高い、と言っているだけだ」

「やっぱどんな奴か気になるな!
赤也にしちゃ長続きしてるしよ!
おい赤也さっさと教えろぃ!!!」


そう言ってコートを取り囲むように設置されたフェンスの方へと目を向ける丸井先輩。
そこにはテニス部の部活の様子を見に来ている女達が学年問わず多くいた。
徐々に首に周る腕に力が入ってきて、仕方なくその一人ずつの顔にサッと視線を向ける。
しかし一通り見終わってもここ最近で見慣れつつある顔は見つからない。
見逃したかと、今度はゆっくりと目を移していくがやはり聖莉の姿はそこには無かった。


「・・・・・いないっす」

「嘘吐くんじゃねーよ」

「いや、マジでいないんすよ」

「はぁ?」


意外そうな声を上げられたがいないものはいない。


「まだ来てねーだけじゃね?
後でメールしてみろよ」

「・・・・・・・・俺、あいつのメアド知らないから無理っす」

「お前彼女のメアドも知んねーの?!」


今度は呆れたような声を上げられて俺は顔を顰める。
するとそんな俺の様子に誤魔化しのための嘘じゃないと分かったのか、丸井先輩は不審そうに眉根を寄せた。


「・・・お前ら本当に付き合ってんのか?」

「・・・・・・・・・そのはずっすよ」


丸井先輩に疑われるように問われ、正直自信を持って返事をする事が出来なかった。
好きだと言ってきたのは聖莉の方だ。
いや、でも付き合う付き合わないの話を持ち出したのは俺か?
でも普通告白って付き合いたいからするもんじゃねーの?
そもそも俺がいいなら付き合いたいって言ったよなあいつ・・・
で、ちゃんとその後宜しくだとか言い合ったし・・・


「・・・・・ちゃんと付き合ってるっすよ」

「でもよぉ〜・・・弁当は作ってくるけど一緒にいるとこも見ねーし、練習の応援もない。
その上メアドも知らねーって・・・」

「まるで猫の餌付けじゃの」


クツクツと小さく笑い混じりに届いた言葉。
丸井先輩が濁すように途切れさせた言葉を、わざわざ棘付けて俺へと投げつけてきた仁王先輩に思わず睨むように視線を向ける。


「・・・告ってきたのは向こうっすよ」

「相手の真意が分かるほど赤也は彼女ん事何も知らんじゃろ?」

「それは・・・・・」

「・・・一応付き合っとるなら、少しくらい相手の事を知ってもいいんじゃなか?」


仁王先輩の言葉に思わず口を閉ざす。
どうせまたあいつともすぐ別れる事になるんだろう・・・
なら知っても意味なんて無い。
そう言い返したいのに、空の弁当箱を受け取る時の聖莉の嬉しそうな顔が浮かんでは消える。


「ちなみに、明日は俺ら3年は課外授業で一日おらん。
赤也には悪いが一人で昼飯食べてもらう事になるの」


そう言ってわざとらしく浮かべられた笑みに、俺は顔を顰めつつも何も言う事が出来なかった・・・


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