どんまい、サスケ! 6

第2試験官であるみたらしアンコに連れられて来たのは第44演習場。
別名『死の森』だ・・・
立ち入り禁止区域と書かれた注意書きや幾重もの錠前が俺達を圧倒する。
だが・・・


「俺ってば、ここ来るの久しぶりだってばよ!」

「ナー君は3歳の頃一緒にサバイバルに来て以来だよね」

「ナーちゃんは今でもよく来るんだってば?」

「ん、ここはもう私の庭だよ」


薄気味悪い森を目の前に楽しそうなナルトとニヤニヤ笑っているナル。
もちろんその表情には恐れも怯えも無い。
正直俺たち下忍達の中で明らかに浮いている。
だがそれに対して誰も何も言わないのは、201号室の前で犠牲になった2人組の有様等が噂で広がっているからだろう・・・
その証拠にアカデミー同期の者達以外は皆遠巻きに見てくるだけだ。
完全に警戒されている。
思わず溜め息を吐く。
そしてその直後、第二試験の説明が開始された・・・



まず試験管が懐から出したのは同意書。
これから先は死人が出る恐れがあり、それに付いて事前に同意を取るとの事だ。
いよいよ俺の死亡フラグが濃厚になってきた・・・
自然と顔面蒼白になる俺。
だが横では明らかに「面白くなってきた」という顔をしたナルの姿。
・・・・・胃も、痛くなってきた


そんな俺の状態になどもちろん関係なく続く説明。
それに何とか耳を傾ければ、早い話第二試験はサバイバルだ。
この第44演習場は鍵の掛かった44個の入口に円状に囲まれているらしい。
演習場内には川や森もあり、その中央には塔がありそこに辿り着けばいいらしい。
だがただ辿り着けばいい訳ではない。

『天』と『地』と2種類あるうちの巻物を1チーム1つ所持してスタートし、他のチームから対となる巻物を手に入れ塔へ向かわなければならない。
つまり、武具や忍術を駆使して天地両方の書を持って中央の塔まで行く事が合格条件だ。
期限は120時間。
ちょうど5日間で行われる。

ま さ に 地 獄 だ

極限状態で行われるサバイバル事態もだが、何よりも・・・


「5日間は自給自足よ!
森は野生の宝庫・・・
ただし、人喰い猛獣や毒虫・毒草には気を付けて」

「フッフー!そんなの超余裕だし!!!
ここの人喰い猛獣は何年も前から全部手懐けてるし、毒虫も毒草もシノといのから情報貰ってるから間違えるわけないしー!


・・・こんな危険人物と5日間も一緒だと思うと本当に地獄だ
本当に俺はここで死ぬかもしれない。
むしろ生き残れる可能性が見つけられない。
ズンッと気分が重たくなる。
とうとう膝から力が抜けそうになったその時、第二試験管が口にした言葉に俺は目を見開いた。


「最後に失格条件について話すわよ!
一つ目、時間内に天地の巻物を塔まで持ってこれなかったチーム。
二つ目、班員を失ったチーム又は、再起不能者を出したチーム。
ルールとして途中のギブアップは一切無し、5日間は森の中!」


・・・・・・・・今、何と言った?

失格条件、班員を失ったチーム?
・・・なら、俺の死=ナルとナルトの失格、だよな?
これは、希望の光が見えてきたんじゃないか?


「サスケ!一緒に頑張るってばよ!!」

「何でもありの巻物争奪戦なんてやっと私好みの試験だしー!
足引っ張んないでよねーーー!!!」


そうだ・・・
考え方を変えれば、これ以上心強い味方もいないだろう。
きっとこの二人と逸れれば、それこそ猛獣の餌食になる。
俺は、死ぬ気でナルとナルトについて行こうと固く心に決めた・・・





同意書3枚と巻物を交換し、今は決められた入り口前でスタートの合図を待っている。
ニヤニヤしているナルと、ワクワクしているナルト。
班員を失ったチームや再起不能者を出したチームは失格なため、最悪でも俺の命は保証されるだろう。
後は必死にこの二人についていくだけだと深呼吸をする。
しかし・・・


「どうせなら、コンプ目指すべきだよねー!!」


・・・・・・は?


突然のナルの言葉に俺は目を見開いて視線を向けた。
意味が分からない。
だがナルトはナルの言葉に目を輝かせ始めた。


「それ楽しそうだってばね!」

「だよねー!
すぐに終わらせるのも退屈だし、片っ端から巻物回収するべきだよねー!!!」


何 を 言 っ て る ん だ !
俺達が持っているのは天の書。
対となる地の書が一つあれば十分だ。
その二つを持って塔へ行けば第二試験は終わる。
なのに何故それ以上の巻物を奪い取る必要がある?!
俺は慌てて二人に制止をかける。


「ちょっと待て!そんな事したら試験が滅茶苦茶になるぞ?!」


そうだ、この試験で合格出来るのは最高で13チーム。
半分は確実に落ちる事になっている。
いや、実際は巻物争奪で負傷する者やサバイバルの厳しさに耐え切れず死ぬ者も出るだろうからそれ以上か。
とにかくそんな極限の状況下でそんなふざけた事をしていいはずがない。
しかし、そんな俺の必死の訴えをナルは鼻で笑った。


「フンッ!何甘ったれた事言っちゃってるのかな?
これは何でもありの巻物争奪戦だしー!
周りは皆敵!
手っ取り早く潰して何が悪いしー」

「俺ってば、すっげーワクワクしてきたってばよ!」


・・・・・ダメだこいつら
既に常識が通じない。
いや俺が異常なのか?
・・・・・いや、俺は正常だろう、そう信じたい。
だがそれ以上の説得を試みようにも、無情にもスタートの合図がされた。
「狩りの始まりだしー!!!」と意気揚々と飛び出したナルを止める術を、無力な俺は持っていなかった・・・





スタート地点から数キロの地点でナルが楽しそうに口端を上げ止まった。


「フッフー!早速獲物がやって来たしーーー!!!」


その言葉に辺りを見渡して確認するが、どの方角にいるかも俺にはわからない。
だがナルとナルトにはしっかりと相手の位置が分かっているのか作戦を立て始める。


「何がいいかな〜。
焼こうかな〜埋めようかな〜・・・」

「ナーちゃん、焼いたら巻物まで燃えちゃうってばよ!」

「そうか!ナー君さすがだね!
じゃーまずは埋めてみよう!!!」

「そうするってばよ!」


・・・・・何かがおかしい
焼くとか埋めるとか、ただ気絶させるだけじゃダメなのか?
そんな俺の疑問などぶつけられるような雰囲気ではなく、結局数分後に最初の犠牲者として滝隠れの下忍達が巻物を残し土遁の術によって地中に埋められてしまった。
その場を足蹴にしながら、ナルは拾い上げた巻物を片手でポンポンと遊ばせる。


「空気穴あるから当分は大丈夫でしょ!
まぁ自力で抜け出さないと後は知らないけどねー!」


そう言って笑うナル曰く、狩りはまだ始まったばかりだ・・・





手元には既に天と地の巻物が一つずつ。
これを持って塔へ行けば合格なのだが、俺達はまだ塔へは向かわずに適当に森の中を散策している。
ナルとナルトが強くコンプを目指すべきだと主張したからだ。
・・・そもそも俺の意見など聞き入られるはずがない
もうこの際それはいい。
諦めた。
それよりも、この森はただ移動するだけでも何かと大変だ。
鬱蒼とした木々に、見た事もないほどでかい昆虫類。
これからの事を思うと神経も擦り切れてきて気も重い。
そんな俺を振り返って、前を行っていたナルトが立ち止まる。


「どうしたってばよサスケ?
疲れたってば?」

「いや、・・・・まぁ少し」

「なら俺ってば何か食べる物探してくるってばよ!
ナーちゃんとサスケはここで待ってるってば!!」


そう言うが早いか、ナルトはサッとその場から姿を消した。
引き止める間もなかった。
だが前方からただならぬ気を感じて恐る恐る目を向ければ・・・


「ナー君パシらせるとか、どんだけ偉いし・・・」


ケッと憎々しげにナルに吐き捨てられ、一刻も早いナルトの帰還を願った。
正直食い物とかいらないから傍にいてほしい。
ナルと二人っきりの方がよほど疲れる。
これなら一日中飲まず食わずで森を彷徨う方がマシだ・・・
そう思い周りへと視線を向けると、寄れる草陰。
その向こうから早々と戻ってきたナルトに思わず安堵の息を吐いた。


「お待たせだってば」


ドゴンッ!

言葉の途中で、ナルが目にも留まらぬ速さでナルトを殴り飛ばした。
吹っ飛んだナルトはそのまま大木を3本ほど倒した所で何とか止まる。


「・・・・・ナル、おまえ、何して」


あまりの出来事に思考が上手く働かない。
だが視線を向けた先には、それは恐ろしい表情をしたナルの姿。
そして地を這うような低い声で倒れたナルトへと言い捨てる。


ナー君はそんなブスじゃないし!
もっとカッコよくて可愛いって分かんないかな、この三流下忍!!!
身の程をわきまえて変化しろって感じだしーーー!」


そう言い終わると容赦なく振り下ろされる蹴り。
どうやら戻ってきたナルトは偽者だったらしく、現に意識を無くした今は変化の術が解けている。
額当てから見て雨隠れの下忍だ。
いや、今はそんな事よりも大切な事がある。
そう、とてもとても大切な事が・・・


「・・・ナル、その辺にしとかないと、そいつ死ぬぞ?」

「こんな奴生きてる価値無いしーーー!!!」


ガスッガスッと振り下ろされる蹴り。
妙に顔を狙っているのは、相当ナルトに変化した事が気に食わなかったからだろう・・・
だがその命が尽きる前に止めるべきだ。
頭では分かっているが、冷静な部分が「お前死ぬ気か?」と問いかけてくる。
普段のナルでも敵わないのに、怒り心頭のナルなど論外だ。
俺に止められるはずがない。
いっそ安らかに成仏するよう願うべきかと目を逸らしたその時・・・


「巻物貰って来たってばよーーー!」


満面の笑みで現れたナルト。
しかし先ほどの事があり、迂闊に反応を返す事ができない。
するとナルトはナルの方を見てゆっくりと首を傾げた。


「ナーちゃん何してるってば?」

「ん?害虫駆除。
それよりナー君その巻物どうしたの?」

「食べ物探して戻ってきたら、近くに二人雨隠れの奴らがいたんだってばよ!
ついでだから貰って来たってば」

「ナー君超偉いしーーー!!!」


どうやら今回は本物のナルトのようだ。
ナルが笑顔で受け答えしているから間違いない。
とりあえずこれで俺達の手持ちの巻物は3つとなり、一人の瀕死者を残してその場をそっと後にした。





「なぁ、もし3人バラバラになった場合、今みたいな事になるのを防ぐために合言葉とか決めておかないか?」


小休憩として座った木の根本。
先ほどの雨隠れの下忍のように、またいつ誰に変化して敵が近付いてくるか分からない。
ならもしもの時のためにお互いを確認し合えるよう合言葉を決めておくのは決して悪い考えではないはずだ。
だが、俺の言葉に返ってきたのはナルの疑い混じりの視線・・・


「まさか、あ〜んな3流変化を見抜けなかったの?
むしろどこか似てた?
いや似てるわけないよね!
だってナー君は将来火影になる男なんだしーーー!!!

「そんなに似て無かったってば?」

「ん、天と地程の差があった!」


・・・・・正直俺には見ぬけられなかったよ!
いや、そもそもナルの反応が早過ぎたんだ。
よく見ればホルスターが逆の足についていたりと甘さがあったが、顔なんかは俺からしてみれば見分けがつかなかった。
もっと変化の上手い奴なら、到底判断がつかなくなるだろう。
だから俺はさらに言い募る。


「念のためと思って決めておかないか?」

「ん、面倒!!!」


いっそ清々しいほどバッサリと切り捨てたられた。
だがそれでもとさらに俺が口を開きかけた時、何かを思いついたらしくナルがニヤリと口端を上げる。


「なら今度別行動を取った場合は戻ってきた瞬間私が本気でクナイ投げてあげる!
避けられたら本物で、刺されば偽物!
確認もできるし、敵だった場合は戦闘不能に持ち込めるしで一石二鳥!!!」

「無理だ!!!!!!」


誰がナルの本気のクナイを避けれるものか!
あぁ、ナルトは出来るだろうなナルトは!
だが俺は間違いなく刺さる!
間違いなくだ!!!
顔面蒼白になっているだろう俺。
そんな俺にナルトは笑顔で肩を叩いてきた。


「大丈夫だってばよサスケ!
俺ってばサスケを見間違えたりしないってば!!」

「そうそう!何だったらサスケはクナイ投げれば?
私もナー君もサスケのクナイなんて目を瞑ってても余裕で避けれるしー!!!」


・・・きっと本当にそうなんだろうが、素直に認めたくない。
自然と落ち込み俯く俺。
だがそんな俺の様子など既に眼中にないらしく、ナルは立ち上がるニッと笑みを浮べて狩り再開だと目を輝かせた。






それから数分後・・・
コンプを目指すと豪語していたんだ。
その時点でこの時が来るだろう事は予想していた。
ただ、実際にその時この二人がどういった行動をするのかは予想できなかった・・・


「あっ!シカ達だってばよ!」

「ん!そうだね!」


とうとうアカデミー同期と遭遇してしまった。
まぁ遭遇と言っても、俺にはシカマル達がどの辺りにいるかも分からないし、きっと向こうもこちらには気付いていないだろう。
この二人の察知能力が桁違いに高いだけだ。
とりあえず二人が揃って視線を向けている方角にいるんだろうと一応意識を向ける。
そしてどうしても引き攣る顔をそのままに問いかけを口にする。


「・・・・なぁ、同期からも奪うのか?」

「もちろんだしーー!
戦場に同期とか関係ないしー

「全部集めて綱手のばーちゃんに褒めてもらうってばよ!」


ナルの明らかに悪い笑顔。
ナルトのある意味純粋で真っ直ぐな笑顔。
その二つを見て「あぁ、マジでやるんだな」と同期の身の事を思えば自然と涙が出そうになった・・・





それから数分もしない内に視線の方角から現れた3人。
まさかいきなり襲い掛かりはしないだろうなとハラハラしながらなナルの様子を窺う。
だが意外にも動いたのはナルトだった。
様子を見るために留まっていた枝から3人の前に飛び降りた。
そして・・・


「シカもいのもチョウジも元気だってば?」


笑顔で話しかけたナルト。
これが木ノ葉の商店街等での会話なら、偶然出会った友人との会話として普通に受け入れられる。
だが今は中忍試験の最中で、しかも巻物争奪戦中であり敵なのだ。
周りは鬱蒼とした木々と不気味な獣の鳴き声が聞こえる薄暗い場所で、ナルトの笑顔と楽しげな声は逆に恐ろしい。
突然のナルトの出現に固まっていた3人だが、やはり一番に状況を理解して口を開いたのはシカマルだ。


「よぉ、ナルト。調子はどうだ?」

「俺ってばすっげー元気だってばよ!
今ナーちゃんとサスケと一緒に巻物集めしてるってば」

「へぇ〜〜。ちなみにいくつ集まったんだ?」

「今は・・・3つだってばよ!」


思い出すように考えた後、ビシッと3本指立てた手をシカマルに見せながら答えるナルト。
しかし、これは体よく情報を引き出されてるだけじゃないのか?
そんな不安と疑問が湧きあがったが、その考えは次のシカマルの行動ですぐに否定された。


「なら、これで4つ目だな」


・・・は?

思わず自分の目と耳を疑う。
まるで借りていた物を返すような自然さで、シカマルは懐から出した巻物をナルトへと放り投げた。
それを難なくキャッチしたナルトは、心底嬉しそうな笑顔を浮かべる。


「ありがとだってばよシカ!いの!チョウジ!」

「おう、頑張れよ!」

「それよりナルト!ナル達はどこにいるのよ〜?」

「あっちだってばよ!あの木の上」


いのの問いかけに、ナルトはこちらを指差しながら答えた。
さらにブンブンと大きく手を振られ、ナルは素早く枝から飛び降りて向かう。
俺も慌てて後を追えば、そこには何とも言えない光景が広がっていた・・・


「ナルト達もお菓子食べるかい?」

「貰っていーってば?」

「もちろん!」

「ありがとだってばよチョウジ!」


「何?あんた達もしかして巻物全部集めるつもり?」

「もちろんだしー!」

「でもこうしてる間にも巻物揃えちゃったチームが塔に向かってるかもしれないわよ?」

「ん、その辺はもう手を打ってあるから心配いらないし〜」


・・・・・何でこんなに普通なんだ?!

何度も言うが、今は中忍試験の途中で巻物争奪戦中だ。
仮にも俺たち七班はシカマル達十班から巻物を奪った。
と、言うより呆気無く渡された。
とても中忍になれるかなれないかがかかっている場面とは思えない。
いや、別に同期が無残に沈められ巻物を奪われる場面を見たかったわけでもないが・・・
何とも心中複雑だ。
そんな俺の気持ちが顔に出ていたのか、シカマルが一つ溜息を吐いて隣に立った。
そして・・・


「あいつら相手に巻物かけた勝負なんてすると思うか?
んな勝敗が分かりきった事出来るかよ、めんどくせぇ〜」


どうやらスタート前から俺達七班と出くわしたら巻物を渡すと決めていたらしい。
なるほど賢明な判断だと、俺は既に犠牲となった2班の姿を思い出してそう深く同意した。


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