どんまい、サスケ! 4

波の国から何とか生きて帰って来れ、日々の平和を噛み締めていたある日・・・
今日も命の危険に陥らない任務へと赴くため集合場所へと向かう。


「やー諸君おはよう!
今日も素晴らしい朝だね!
やっぱり忍は時間厳守でなくちゃね!!!


集合場所には既にカカシの姿があった。
これはもう毎回の事。
サバイバル演習後、始めての下忍任務の際に3時間も遅れてきたカカシをナルが笑顔で瞬殺した結果だろう・・・
あれは見ていた俺にも恐怖を植え付けられた。
「躾け♪」と笑顔を浮べ火遁でカカシを火達磨にするナルはまさに悪魔そのものだった・・・
あれから一週間の入院後、一度もカカシが遅刻してきた事は無い。
そして今日もしっかりと集合時間30分前には来ていたらしいカカシは引き攣る笑顔で俺達を出迎えて任務へと向かった。



今日の任務はそれはもう平和に終わった。
特にナルが暴れることも無く、花で輪を作りナルトの頭にのせてやっては二人でキャッキャと遊んでいた程度だ。
もちろん任務である草刈は俺が全てやったが、一日の平和のためならこれぐらい安いものだ。
そして任務終了後、ナルは上機嫌な様子で口を開く。


「フッフー!最近特にチームワークがいいね!!!」

「そうだってばねナーちゃん!」


これはナルの「これからも黙って下僕のように働けよ!」という牽制だろうか?
若干最近の俺はネガティブ思考に向きやすくなっているようだが、今回は多分正解だ。
あのニヤニヤとしたナルの笑顔を見れば断言できる。
精神的にもどっと疲れを感じつつ、今日の任務はこれで終了なので家路に着こうと歩き始めた。
しかし・・・


「いてーじゃん、くそガキ!」


前方から聞こえてきた怒り混じりの声。
視線を向けると、妙な格好をした男が子供の襟元を掴んで持ち上げている所だった。
よく見ると額当てが木ノ葉のものではない。
他里の奴が何故いるんだ?
そんな疑問が頭を過ぎったその時・・・


「人様の里で何好き勝手やろうとしてくれちゃってるのかな?」


超絶笑顔のナルが男を蹴り飛ばしていた。

吹き飛んだ男は、岩の壁に減り込んで何とか止まる。
血の気が引く俺の横ではナルトが嬉しそうにブンブンと手を振りながらナルへと声をかけていた。


「ナーちゃん、カッコイイってばよー!!」

「ん、当然!!!」


いや、当然じゃねーし!!!
ヤバイ、下手をすれば里間での戦が始まる・・・
まさに顔面蒼白。
まさかの里の危機?!
壁に減り込んだ男が吐血するのを見て、これは真面目にヤバイと泣きたくなった。
しかし当のナルはクナイをくるくる回しながら上機嫌で傍にある木へと視線を向ける。


「久しぶりだね我愛羅!
何?まさか一尾を取り戻しに来たの?」

「・・・・・いや、違う」

「だよね!!!
もうタヌちゃんは私のものだしね!」



笑顔のナルに相対して、木の枝に立っていた我愛羅という男はどこか引き気味だった。
そんな二人のやり取りにナルトは不思議そうに首を傾げる。


「ナーちゃん、知り合いだってば?」

「ん!超仲良し!!
昔一尾を快く譲り受けたんだよね

「・・・・・・」


無言の我愛羅の様子を見るに、どうやら快くという部分には御幣があるらしい。
だが、この場でそれを口にするなど自殺願望者ぐらいだ・・・
そしてここには人生を早々に投げ出したいと思っている人物はいない。
自然無言となる俺達だが、ナルはそんな周りの様子を全く気にせず口を開く。


「で、何しに来たの?
もしかして中忍試験?」

「・・・そうだ」

「ふーん・・・・・まっ頑張って!
行こっナー君!!」


明らかにナルは「ふーん」と言いつつ、「これも?」って感じで壁に減り込んだ男を見ていた。
だが自分には関係ないと思ったのか、ナルトの手を引いてその場を何事も無かったかのように去って行く・・・
残された俺はとりあえず木ノ葉病院までの行き方を謝罪と共に教える事にした。
その際、お互いナルの被害者なんだろうと妙な親近感を覚えて軽く自己紹介を交わす。
風の国、砂隠れの里からやってきた我愛羅にテマリにカンクロウは今回木ノ葉の里で行なわれるらしい中忍試験を受けに来たらしい。
その時は「そうなのか、大変だな」と自分には関係ないからとサラッと流した。
そしてもう会う事も無いだろうと別れを告げた次の日・・・


「お前達を中忍選抜試験に推薦しちゃったから。」


そう抜けぬけと言いやがったカカシを本気で死ねばいいと思ったのは最早仕方のないことだろう・・・





カカシから渡された試験の志願書。
推薦は強制ではないらしく、受験するかしないかは各自の自由らしい。
受けたい奴だけ志願書にサインして明日の午後4時までにアカデミーの301号室に行けとだけ言い残し消えたカカシ。
俺はその志願書を手にしたまま考え込んだ。
ナルとナルトの実力なら今回の中忍試験で合格するだろう。
それに比べて俺はどうだ?
正直二人の足元にも及ばない。
アカデミーの時は周りから優秀だ何だと持ち上げられていたが、そんなの実戦の中では何の役にも立たない。
もしかすると、他の奴らも実力を隠していたのかもしれない。

・・・・ダメだ。
やはり最近の俺はネガティブ思考らしい。
こんな調子では中忍試験に受かるはずがない。
これっきりな試験なわけではないし、今回受けなくとも問題ないだろう。
別の方向から考えれば、中忍試験の間はナルとナルトから離れられるって事だ。
よし、やっぱり今回は受験せずに・・・


「ん!」


突然思考を遮るようにズイッと目の前に差し出された筆。
視線で元を辿るとそこには笑顔のナルの姿があった。
何か企んでいる時の顔だとビクッと肩が揺れる。
しかしナルはそんな俺の反応がまるで見えなかったように言葉を続けた。


「貸してあげる。
だからさっさとサインしなよ」


そう言ってガシッと手を掴まれ無理やり筆を握らされる。
痛みに引き攣る顔。
だが決めたんだ。
俺はナルから視線を逸らしつつ口を開く。


「俺、今回は」


受験しない、と続けようとした言葉。
だがそれはナルのにーーっこりとした笑顔によって遮られた。


「早 く サ イ ン し て ?」


・・・カカシは確かに言った。
受験するかしないかは各自の自由だと
しかし・・・


「サインしたら志願書は無くさないように私が当日までしっかりと預かってあげるから!」


俺に自由は無いらしい・・・

何故か滲む視界。
震える手でサインをすれば、その途端に志願書は俺の手元から取上げられた。


「フッフー!じゃー明日の午後3時にアカデミー前に集合ねー!」

「サスケ!一緒に頑張るってばよ!!!」


俺は上機嫌なナルと笑顔のナルトに力なく頷いた。





次の日、重く鈍る体を引き摺るようにしてアカデミーへと向かった。
正直行きたくなかった。
だが行かなければきっと俺は明日の朝日を拝む事は出来ないんだろう・・・
その予想が間違っていないと証明するかのように、既にアカデミー前で待っていたナルの手にはくるくると回るクナイがあった。


「ん、ちゃんと来たね!」

「サスケ、こっちだってばよ!」


俺の姿を確認してからポーチに収まるクナイ。
それに俺は安堵の息をついてからナルトへと目を向ける。
ナルトの手には二枚の志願書・・・
その内の一枚を俺へと差し出して笑顔を浮かべる。


「一緒に頑張るってばよ!」

「・・・・・・あぁ」


どちらにしろ、俺にはもう前に進む道しか残されていないんだ。
なら意地でも中忍になってやろう。
そしてこんな想いをするのはこれっきりにするんだ!
自然と俺の志願書を持つ手には力が入った・・・





「ん?何の騒ぎだってば?」


手続きをするために向かった301号室。
しかしその前には多くの人だかりが出来ていた。
ザッと見ればそれは試験を受けに来た下忍達だと分かる。
ナルトはその人垣の向こうを見ようと飛び跳ねたり動き回り始めた。
だが・・・


「〜〜〜っ、これじゃ見えないってばよ!」


お世辞にも背が高い方とは言えないナルトには何が起こっているのか見えないらしい。
この人の多さではそれも仕方ないだろう・・・
俺にもドアの前で何か揉め事が起こってるのが少し見えるくらいだ。
すると今まで黙っていたナルがスッと人だかりへと近付いた。
そして・・・


「邪魔。退いて」


その声に反応した数人の人間。
しかし振り返り、声の主がナルだと認識した瞬間に短い悲鳴を上げて飛びのいた。
そしてそれはまるで連鎖反応のように広がり、見事に人垣が2つに分かれて道が出来ていた。


「ん。ナー君、見に行こう!」


満足そうに一度頷いて、ナルはナルトを振り返る。
そして当然のごとく進んでいくナルの後を俺もそっと付いていく。
心の中で繰り返すは「三人一組、三人一組、三人一組」だ・・・
数人から寄せられる哀れんだような視線。
それにそっと目を伏せ、出来る事なら俺だって傍観者でいたいんだと涙を飲んだ。





拓けた人垣の間を通り前へと進めば、301号室の前に立つ2人の忍の姿が見えた。
どうやら近寄る者を問答無用で攻撃し、行く手を阻んでいるらしい。
現に今もまたオカッパで全身深緑色のタイツの男が顔を殴られ吹き飛ばされた。


「ふ〜ん、そんなんで中忍試験を受けようっての?
止めた方が良いんじゃない・・・ボク達?」


明らかに見下したようなその口調。
そんな二人の態度に流石に俺も眉根を寄せる。
だが威張る分、確かに実力はあるんだろう。
先ほど繰り出された拳もそれなりのスピードと威力があった。
試験前に問題を起こすわけにもいかないだろうし、どうするか・・・
そう思考を巡らせようとした時、人垣からスッと進み出る影があった。


「お願いですから・・・そこを通して下さい」


凛と通る声でそう言うと、今度は髪の毛を団子にした女がゆっくりと2人組に近付いていく。
だが射程圏内に入った瞬間、1人がニヤリと笑って先ほどと同様に攻撃を繰り出す。
しかし響いたのは鈍く顔を殴り飛ばす音ではなく、パシッと乾いた音。
そして・・・


「・・・女の子の顔を殴るってのは良くないってばよ?」


その声に驚いて目を見開けば、いつの間に移動したのか繰り出された拳を片手で受け止めているナルトの姿がそこにはあった。
殴られないよう団子頭の女を背に庇いつつ、受け止めていた拳からパッと手を離して笑みを浮かべる。


「女の子には優しくするもんだって綱手のばーちゃんも言ってたってばよ!」


ナルトの言葉に、一瞬怯む二人組み。
だがすぐに勢いを取り戻したのか、口元に笑みを浮かべた。


「これがオレらなりの優しさだぜ!」


中忍試験は難関だ・・・
受験して忍を辞める者や再起不能になる者もいる。
甘い考えを持って挑んでいいようなものではないんだ。
さらに部隊の隊長レベルである中忍は、任務の失敗、部下の死亡とその全ての責任を負わなければならない。
それを分かっていないような子供を此処で篩いに掛けて何が悪いと2人組は言う。
確かに言ってる事は正しいような気がする。
だが・・・・


「邪魔。退いて」


そんな正論が通じない相手だっているんだよ・・・

2人組の前に進み出たナルは先ほどと同様に言ってのけた。
だが今度はそう簡単に退くような相手ではないらしい。
そんな二人の態度に不機嫌そうに眉を寄せたナルはスッと目を細める。


「ウザイ、キモイ、消えて。
しかもそんな子供騙しな幻術とか超笑えるしーーー!」

「っ、見破ったか・・・
だがそれだけでいい気になるなっ!!!」


ッ、バカかお前は!!!

言い終わるのと同時にナルに向かって蹴りを繰り上げた男に、俺は思わず心の中で盛大に叫ぶ。
だがもちろんそれが男に通じるわけも無く、次の瞬間俺の目に映ったのはナルの右足が腹に喰い込み息を詰まらせ吹き飛ぶ男の姿だった・・・





「プップー!その程度の実力で他人を篩いにかけるとか超笑えるしーーー!
幻術も変化もお粗末過ぎだし、顔洗って出直して来るのはそっちだしーーー!!!」


ナルは両手を腰に当て、ドアを突き破り教室内へと吹き飛んだ二人組を見下ろして心底馬鹿にするように言った。
二人組の意識は見事に失われている。
その為かけられていた幻術は解け、今まで301とあったネームプレートは元の201へと戻っていた。
だが今この場にそれを気にする者は少なく、吹き飛ばされた二人組の生死を案じている者が大半だっただろう・・・

その後ナルの暴挙に硬直していた者達も、次第に「・・・見なかった事にしよう」と賢明な判断をして301号室へと向かい始める。
しかしそんな中、俺達3人に近付いてくる影があった。


「さっきはありがとね、ナルト」

「テンちゃん!怪我してないってば?」


声のした方へと視線を向ければ、先ほどナルトが庇った団子頭の女の姿。
どうやらナルトとは顔見知りだったらしい。


「大丈夫よ。ナルちゃんもありがとね」

「ん。私は嘘でもあんなのに殴られるなんて嫌だし、何より凄く邪魔だったからね


・・・どこまでも自己中心的な考えの奴だ。
ナルトの思いやりの10分の1でもいいので見習ってほしいと本気で思う。
だが残念な事に、俺は今までナルの思いやりがナルト以外に向けられているのを見た事がない。
むしろナルの思いやり全てがナルトにのみそそがれている気がする。
たぶん、気のせいではない。
何故か悲しくなって目頭が熱くなったその時、スッと俺の前に誰かが来る気配がした。
顔を上げれば、そこには最初に二人組に殴られていたオカッパの緑タイツの姿。
濃いいパーツで出来た顔に、思わず顔を顰める。
そしてナルが「・・・ゲジ眉。キモッ」とか吐き捨てているのが聞こえたが、どうやら当の本人には幸いにも聞こえなかったらしい。
その証拠に目の前の男はスッと背筋を伸ばして口を開く。


「ボクの名はロック・リー。
今ここでボクと勝負しませんか、うちはサスケ君・・・」


突然の言葉に、不信感丸出しの表情で相手の真意を探ろうと睨むように視線を向ける。
だが、俺が判断するよりも早く目の前のゲジ眉は言葉を続ける。


「君と闘いたい!
あの天才忍者と謳われた一族の末裔に・・・
ボクの技が何処まで通用するのか試したい」

「うちはの名を知っての挑戦か・・・」


ゲジ眉の言葉にフッと笑みが洩れる。
うちはの名に挑んで来る者はこれが始めてではない。
木ノ葉のエリートと言われ、相手の体術・忍術などをコピーし幻術を繰り出す写輪眼を用いてあらゆる戦闘に長けた一族として知られているうちは。
その生き残りである俺に、力量を試すためにと戦いを申し込んでくる者は少なくない。
だが・・・


「断る」

「えっ?!なっ何故?!」


まさか断るとは思っていなかったのかゲジ眉が慌てる。
だがすぐに何かに思い至ったのか、神妙な顔つきで俺へと視線を向けてきた。


「・・・僕では相手にならないと?」

「いや、そうとは言ってない」

「なら何故ですか?!」

「名に挑むなど、それ自体がくだらないと言ってるんだ」


そう、勝手に周りが広めた名とそれに伴う評価に縛られ戦うなどくだらない。
俺は未だに写輪眼も開眼していないような七班で一番弱い人間だ。
そんな俺に挑むより、ナルトやナルに挑む方がよっぽど有意義だろう。
ただし、ナルに挑む場合は命の保証は出来ないが・・・


「とにかく、俺はお前と戦うつもりなどない」

「僕は君と闘いたい!」

「俺は戦いたくない。
何故平和の貴重さに気付かないんだ?!

「僕は自分にどれだけの力がついてるか試したいんです!」

「くだらん!そんな事に俺を巻き込むな!!!」


お互い一歩も引かずに言葉の応戦を繰り返す。
視界の端にナルが欠伸している姿が見えた。
その横には呆れた表情でゲジ眉を見ている同じ班であろう男の姿。
さらに少し離れた所では、どこから取り出したのかナルトと団子頭の女がお手玉をして遊んでいる。
・・・このままでは試験の手続きに間に合わなくなるんじゃないか?
それはそれでいいかと溜息を吐きかけたその時。


「そこまでだ・・・リー」


どこからともなく亀が現れた。
そして喋った。
見た目は大型の陸亀そのものだが、確かにこいつは喋った。
そしてゲジ眉は突然ピンッと背筋を伸ばして亀へと頭を下げている。


「み、見てらしたんですか・・・」

「リーよ、忍が己の技を明かすと言う事はどういう事かお前も良く知っている筈・・・。
無闇な戦闘を避け周りに己の情報を極力与えぬよう心掛けるとはさすがカカシの教え子なだけあるな」


いや、カカシとか関係ねーし。
勝手にいい方に解釈して亀は一人うんうんと頷いている。
その横では「そういう事だったんですかーーー!!!」とゲジ眉も感動して俺を見ている。
その熱さに誤解をわざわざ解く気力も無くなる。
しかし、その投げやりな気持ちがいけなかった・・・
亀とゲジ眉はお互いの相乗効果でさらに熱くなり、ついに感極まったらしい亀。
すると甲羅の上に突然煙が巻き起こった。
そして・・・


「まったく!青春してるなーお前らーっ!!」


煙が晴れ、そこに現れたのはゲジ眉のさらに上を行くオカッパ激眉タイツだった・・・


「激濃ゆ、激眉・・・キモッ」


その男を見て、ナルが心底嫌そうにそう吐き捨てた。
だがゲジ眉の時と同様にそのナルの言葉は聞こえていなかったのか、激眉男は普通に話しかけてくる。


「今回はリーが迷惑を掛けたがオレの顔に免じて許してくれ・・・
この爽やかなフェイスに免じてな」


そう言って己の顔を親指で示す激眉男。
後ろからナルの「ケッ!」という憎々しげな声が聞こえた。
チラリと振り向くと、コンクリの壁を蹴るナルの姿。
ザリザリと削れゆく壁は見なかった事にしたい・・・
だが一番その状況に気付くべき激眉男は、そんなナルの様子に全く気付かずに話を続ける。


「それより、カカシ先生は元気かい?
以前一週間ほど入院したと聞くが」

「・・・カカシを知ってんのか?」


あえて質問には答えずに問い返す。
激眉男、お前の言うそのカカシの入院の原因はすぐ傍にいる。
気付け!お前も二の舞を踏みたいのか!!!
だが俺の心からの願いも通じず、激眉男は口元に笑みを浮べた。


「知ってるも何も・・・クク・・・」


激眉男はそこで言葉を切った。
そして視線を上げたと思ったその瞬間、スッとその姿が消えた。
どこだと視線を巡らせようとした直後、後ろからかかる声。


「人は僕らの事を『永遠のライバル』と呼」

「キモイッ!!!」


後ろから聞こえてきた声を遮るように発せられた怒声。
さらに続くように何かを吹き飛ばす音と、グシャッ、ズズズズーッと廊下を何かが擦れる音。
振り向くと、イライラとしたナルが激眉男の顔面を蹴り廊下の端まで滑り飛ばしているところだった・・・





「リーも、カハッ・・・君達も、そろそろ教室に、グハッ・・・・行った方がいい、な・・・」


鼻と、どこかにぶつけたらしい腹部を押えてよろよろと戻ってくる激眉男。
「ガイせんせーーーい!!!」と駆けて行くゲジ眉は本気で心配しているのか薄っすらと涙目だ。
そんな二人の様子にナルは苛立たしそうにチッと舌打をして、ダンッダンッダンッと足先を地面に叩き付けている。
それをあえて無視し、時間を確認すれば現在3時40分。
受付締切まで残り20分だ。
確かにそろそろ行かなければヤバイだろう。


「じゃあお互いに中忍試験頑張ろうね!」

「頑張るってばよ!!!」


団子頭の女はそう笑顔で言うと、他二名とついでに激眉男を引きつれ階段へと向かっていく。
その背にブンブンと大きく手を振っているナルトの手には、何故かあやとり。
気がすむまで手を振って、笑顔でこちらを振り返る。


「俺ってば、3段ばしごまで出来るようになったってばよ!」

「ん、凄い!さすがナー君だね」


先ほどまでの苛立たしさを欠片も感じさせない笑顔でナルトの頭を撫でるナル。
とりあえず、中忍試験は開始前から平穏にはすまなかったなと溜息を吐いた・・・





階段を昇り、辿り着いた先の301号室。
その前の廊下にはカカシが立っていた。


「・・・そうか、サスケも来たか。
中忍試験、これで正式に申し込みできるな」


聞こえてきたカカシの言葉。
何だ、どういう意味だ?
疑問が顔に出ていたのか、カカシが口を開く。


「実の所、この試験は初めから『三人一組』でしか受験できない事になってる・・・」

「なっ?!お前、受験するかしないかは個人の自由だと」


ハッとそこで気付いた。
だからナルは俺に無理やりサインさせたのか・・・
まぁ、そうでなくとも暇潰しと称して無理やり受験させられていた可能性もある。
所詮、この場に来てとやかく言ってももう遅いんだ。
既にナルトとナルはカカシの存在を無視して301号室へと入って行ってしまった。


「・・・まぁ、頑張れよ」


そう哀れみを含んだようなカカシの言葉に送られて、俺も重い足を引き摺って301号室へと向かった。
ただただ生きて帰って来たいと願って・・・





「何て数だ・・・」


部屋に入れば、狭くないその空間に大勢の下忍が集まっていた。
額当ても木ノ葉以外の物が多く目につく。
その迫力と、これから試験だという独特な空気に知らず息を飲み込んだ。
しかし、そんな俺の前には上機嫌なナルトとナルの姿。


「何だかすげーってばよ!」

「フッフー!これを全部戦闘不能にすればいいわけね!」


ナルの言葉が聞こえたのか、一斉にギロリと睨みつけてくる受験生。
ヤバイ、既に生きた心地がしない・・・
だが睨まれている本人はどこ吹く風で全く気にしていないから恐ろしい。
もう誰でもいい・・・
この状況を何とかしてくれと本気で思ったその時、こちらへとやってくる足音に気付いた。


「あら〜!遅かったじゃな〜い!」


高いその声に視線を向けると、アカデミーの同期である山中いのの姿があった。


「あーー!いのだってばよ〜!!!」

「ん、ちょっとキモイ奴に時間取られて遅くなった」

「も〜二人とも遅かったから心配したのよー!」


そう言って笑いあうその3人の光景にどこか違和感。


「・・・お前ら、仲良かったのか?」


アカデミー内でそこまで仲良くしているのを見た記憶が無かったので、少なからず驚く。
するといのは俺へと視線を向け苦笑を浮べた。


「二人ともよく家の店に来るのよ。」

「店?・・・・あぁ」


確かこいつの店は花屋だったなと思い出す。
しかし、観葉植物が趣味なナルトは分かるとして・・・
ナルが花を愛でる姿が想像出来ない。
だがあれでも一応性別上は女。
やはりそういった物は好きなんだろうかと視線を向ける。
しかし・・・・


「俺ってば、よくいのの店でパキラとかベンジャミナとか見せてもらうんだってばよ!」

「いのの店にはいいウマノスズクサとかオオツヅラフジとかあるから好き」


って、ちょっと待て!!!
ナルトの言ったそれは観葉植物の名前だからいいが、ナルの言ったそれは毒草の名前じゃなかったか?!
・・・・・やはりナルはナルだ
俺は改めてナルが差し出してくる物には注意しようと心に決めた。





その後自然と集まったアカデミー同期達。
何気に面倒見のいいシカマルはアカデミー時代もよくナルトと一緒にいるのを見かけた。
それに伴ってチョウジもよくナルトに菓子をやってたな・・・
キバともよくイタズラをしているナルトの姿を見た事があるし、ヒナタはそんなナルト達を微笑んで見てた記憶がある。
そして・・・


「ねぇ、また変わった毒虫頂戴よ」

「・・・そろそろ5年に一度だけ孵化する猛毒の虫がいたな」


・・・ナルとシノが裏で不穏な会話をしている事もよくあった
アカデミー時代を思い出して何故か泣きたい気持ちに陥る。
だがそれは、突然降ってきた声によって遮られた。


「おい、君達!もう少し静かにした方が良いな・・・」


声のした方へ視線を向ければ、どこにでもいそうな冴えないメガネをかけた男。
ずれたメガネを押し上げながら、俺たちへと視線を巡らせる。


「君達が、忍者アカデミー出たてホヤホヤの新人9名だろ?
可愛い顔してキャッキャッと騒いで・・・・
全く、此処は遠足じゃないんだよ?」

「プップー!そんなの言われなくてもわかるしー!」

「兄ちゃん、誰だってば?」


ナルの言葉に一瞬顔を顰めた男だったが、ナルトの問いに気を取り直したのか顔を上げる。


「ボクはカブト・・・それより、辺りを見てみな。
試験前でみんなピリピリしてる・・・・
どつかれる前に注意しとこうと思ってね」

「フッフー!どつかれる前に再起不能にするから問題無しだしー!!!


問 題 大 有 り だ !
試験前にそんな問題を起こせば確実に失格だ。
だがナルは実際にクナイを取り出しくるくる回している。
正直俺は色々な意味で生きた心地がしない。
これからの試験の事を思うと気分が重い。
他の奴らが試験前の緊張感でピリピリする中、俺だけはナルの一挙一動に緊張感と恐怖でギリギリと胃を痛めていた・・・
しかしナルは相変わらずだが、ナルトはカブトとの話に喰いついている。
特にこれで7回目の受験だと聞いた時は「すごいってばよー」と目をキラキラさせていた。
その横でナルが「プッ!つまり6回も落ちてるって事じゃん!ダサッ!とか噴出していたが幸いにもカブト本人には聞こえていなかったらしい。
現にカブトはナルトの反応に得意げにポーチからカードを取り出した。


「可愛い後輩にちょっとだけ情報をあげようかな」


そう言って広げて見せたのは認識札。
情報をチャクラで記号化して焼き付けておく札らしい。
実際に床に置いた一枚の札にカブトがチャクラを送り込むと、軽い破裂音と共に煙が巻き上がり地図が立体図で現れた。
どうやら今回の中忍試験の総受験者数と総参加国、そしてそれぞれの隠れ里の受験者数を個別に表示したものらしい。
突如現れたその地図に皆が目を見張る中、ナルだけは目を細めそれ見つめ・・・


「ちゃちい」


ボソッと呟かれた言葉は、カブトにストレートなダメージを与えたらしい・・・
しかしカブトの認識札に飽きたらしいナルは、そんなカブトの様子になど見向きもせずに歩き始めた。


「ナーちゃん、どこ行くってば?」

「ん?ちょっとあそこの人達にご挨拶!」


そう笑顔で答えたナルの指先には、先ほどからこちらをイライラしそうに睨みつけていた草隠れの下忍が3人。
・・・・・嫌な予感がする。
だが残念な事にナルを止めるほどの力は俺にありはしない。
ソッと黙ってナルを見送れば、数分後どういった挨拶をしたのかガタガタと震えるながら部屋から飛び出して言った草隠れの3人。
ナルだけがその場で妙に晴れ晴れとクナイをくるくると回していた・・・


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