どんまい、サスケ! 3

下忍になって暫くの間はそれなりに平和だった。
Dランクの任務は草むしりや迷い猫探しなどの子供の手伝い程度の内容ばかり。
たまに苛立ったナルが火遁で辺り一面焼け野原にしようとしたり、猫好きとしてあの成金ババアは許せないと幻術をかけようとしたりする以外は比較的平和だった・・・

しかし、平穏とは長く続かないものだ。

とうとう痺れを切らしたナルが、火影から任務をもぎ取った。
いつかやるとは思っていた・・・
だからそれなりの覚悟もしてきた!
さぁどんな死闘付の任務だと両手に知らず力が入った瞬間、出てきたのは酔っ払いの大工だった・・・
聞けばナルがもぎ取った任務はCランク。
ただの護衛任務らしい・・・
始めは信じられず、何度も火影に確認した。

本当にCランクなのかと
本当に野党警戒レベルの護衛任務なのかと
本当に俺の命に危険はないのかと

ウザがりもせず、火影は何度も丁寧にそうだと頷いた。
その目にどこか哀れみが含まれていた事は気付かないフリをしたい・・・
そもそもここで重要なのは、覚悟していた死闘が無さそうだということだ!
細く繋がる俺の命は何とか今回も大丈夫そうだと安堵の息を吐いた。

だが、その安心感は里を出てほんの数十キロの地点で脆くも粉砕された。
突如襲い掛かってきた抜け忍達・・・
その際妙に印象的だったのは、まるでこうなる事が分かっていたかのようなナルの嬉々とした表情。
俺はおろか、カカシが手を出すまでも無く2人の抜け忍はナル1人の手によって瞬殺された・・・
その後、護衛対象であるタズナから聞いた真実。
CランクどころかAランク並みの内容じゃないか!!!
一瞬の眩暈の後、この酔っ払いジジイを本気で殺したいと思った俺を責める権利は誰にもないだろう・・・





何とか辿り着いた波の国。
途中、桃地再不斬という奴が襲ってきたがナルがクナイ一本で返り討ちにした。
しかし止めを刺す前に追い忍によって処理され、何故かナルはそれを笑顔で見送る。
横取りされたと怒り出すかと思ったが・・・
その違和感が晴れたのは、タズナを無事家に送り届けた後。
何かに気付いたらしいカカシが、ナルへ投げかけた言葉によってだ。


「ナルちゃん。
・・・・君、わざと再不斬を逃がしたでしょ?


な ん だ っ て ?
言っている意味が分からず固まる俺の目に、それはそれは楽しそうに口端を上げるナルの姿が映った。
そして・・・


「だって、あのまま片付けちゃったら退屈になるしー」


そう微笑むナルは、俺の目には本気で悪魔に見えた。





それからの一週間はまさに地獄だった。

足を引っ張られては困るからと急遽始まった俺の修行。
内容は、手を使わずに木を登る。
お手本だとスタスタと登っていくナルは遥か高い地点から俺を見下ろし笑った。


「同じ七班ならこの程度出来てもらわないと困るしーーー」


好きで同じ班になったわけではない。
むしろお前の陰謀だろうがと両手に思わず力が入った。
しかしナルのそんな軽口よりよほど効いたのは・・・


「サスケ、もしかして登れないってば?


そんなナルトの純粋な問いだった。
ナルと違って悪意がない分ダメージがでかかった・・・





それからというもの、一週間半ば意地で木を登り続けた。
しかしチャクラコントロールを駆使しなければならないこの木登りは、今まで意識してチャクラをコントロールした事のない俺には難しいものだった。
さらにこんな長時間持続してチャクラを使った事がないため疲労が溜まるのも早い。
ようは要領が全く掴めない。
結局修行を始めて3時間経っても、自分の背丈ほどしか登れなかった。
そんな自分を不甲斐無く思いながらも木の根に背を預け小休憩を取る。
そんな俺の元までやって来て、ナルトは不思議そうに首を傾げた。


「サスケ、木登りした事ないってば?」


悪意が無いって一番厄介だ・・・
純粋に疑問を持った瞳がこちらに向けられ答えを求めている。
だから俺は苦し紛れに視線を逸らしながら答えを口にする。


「・・・普通に手を使った木登りはしたことある」

「手を使った木登りなんて猿でも出来るっての、プップー」


悪意があるのもやはり厄介だ!!!
心底馬鹿にしたような瞳を向けられ泣きたくなってくる。
しかし俺が何か言い返すより先に、隣のナルトが口を開いた。


「ナーちゃん!俺達もサスケに協力するってばよ!
きっとすぐに上手く登れるようになるってば!」


そう言って向けられた笑みは眩し過ぎるほどに眩しかった。
疲れ果てていた俺は素直にナルトの言葉に感動してしまう。
だから休憩は終わりだと立ち上がり、ナルトにコツはあるのかと問いかけた。
するとナルトは笑顔で答えを口にする。


「こう足にチャクラを集中させて、バッと行ってサッと登るってばよ!


・・・わかるか!!!
あまりにも抽象的過ぎて何の参考にもならなかった。
だがナルトは言葉と同時に現に木を登っている。
それどころかキラキラした目が「やってみるってばよ!」と語っていた。

・・・とりあえず俺は俺なりのやり方を見つけよう。

そう決心すると、足にチャクラを集中させ勢い良く木へと駆け登った。
だがやはり背丈程の地点まで行くと限界が来て木から足が離れてしまう。
チッと小さく舌打を打った瞬間・・・


「っ!!!!!」


後方から俺の着地地点に向かって飛んでくるクナイに気付いて慌てて木にしがみ付いた。
木の根に刺さる3本のクナイ・・・
飛んできた方向へと視線を向けると、想像通りのナルの姿があった。


「ナー君が協力するなら、私も協力してあげるしー!
とりあえず今度から落ちそうになったら着地地点にクナイ投げるから!」


俺の修行開始時からずっと後方の枝に逆さに立ってこちらの様子をニマニマと見ていたナルを、俺は改めて化け物だと思った・・・





死と隣合せの修行に本気で恐怖しながらも、何とか手を使わずに木登りが出来るようになった俺。
「まぁ一応合格ね」とクナイをくるくる回しながら言ったナルの言葉に本気で嬉しさから涙が出そうになった・・・

しかし休む間もなく次はタズナの護衛へと向かう。
未だ眠るナルトを起こすのは可哀想だと言うナルの一存で、護衛には俺とナルとカカシの3人で行く事になった。
ちなみに俺が修行でチャクラを使い果たし寝過ごした時にはクナイが5本飛んできたが、俺とナルトの扱いを比べ始めるとキリが無いので忘れる事にした。





若干の精神疲労を感じつつも橋に辿り着くと、既に再不斬に待ち伏せされていた。
広がる霧、奪われる視界。
そんな中でもナルは楽しそうに鼻歌を唄っていた。
そして修行の成果を見せてみろといきなり押しやられた先には、追い忍のフリをしていた再不斬の仲間の姿。
これはやるしかないんだろうと、クナイを構えれば程なくして相手が動いた。
スピードは目で追える。
攻撃もかわせる。
正直ナルのクナイ攻撃の方が早いし殺気も込められていた気がする。

警戒していたが、もしかするとそんなに強い相手ではないのかもしれない・・・
そう思って一瞬油断したのがいけなかった。
気付けば周りを氷で囲まれていた。
その際ナルの「血継限界!氷遁忍術!秘術の魔鏡氷晶!!!レアだねレアッ、フッフーーー!!!」何て言う嬉々とした声が聞こえたが、だからと言って俺に手を貸す気は全く無いようだ。
元からナルの助けを期待していたわけでも無かったので別にいい。
アカデミー時代に俺が学んだのは、自分の身は自分で守る、だ!
誰かが助けてくれるなんて甘い考えはとうの昔に捨てた。
だから俺は目の前の敵にのみ意識を集中させる。

無数の氷の鏡に入り込み、氷間を光速で移動しながら千本を投げつてくる術らしい・・・
何とか千本の動きは目で追えるし、半ば条件反射の域でかわす事も出来る。
だがただそれだけで反撃にまで手が周らない。
徐々に削られる体力。
長期戦になれば明らかにこちらが不利だ。
それで無くとも昨日まで行なっていた修行で酷使された体とチャクラの限界は近い。

これは本気で死ぬかもしれないと思う。
それと同時に、本当に俺が死に掛けてもナルは俺を助けはしないだろうと確信もあった。
そしてついに足に力が入らなくなったその時、これで終わらせる気らしく多数の千本が飛んできた。

・・・・・・いや、本当に俺よく頑張っただろ
死んだ父さんや母さんのところに胸を張って行けるくらいには必死で生きただろ
そう思うと微かに笑みが浮かび、襲い来るであろう傷みに体を強張らせた。

だが、次の瞬間耳に届いたのはキンキンッと何かを弾き飛ばす高い音。
そして・・・


「サスケ、大丈夫だってば?」


そこには心配げな顔で覗き込んでくるナルトの姿があった。
ナルトの手には一本のクナイ。
周りには大量の千本が散らばり落ちていた。
何が起こったのかすぐには理解出来ず、呆然と見上げる俺の目の前でナルトは苦笑を浮べた。


「わりぃ!寝過ごしたってばよ!」


・・・・・・神だ。
今の俺にはナルトが真面目に神に見える。
だが安堵感に包まれたのも一瞬で、状況は何一つ変わっていないという事に気付いた。
氷の内側に入って来たナルト。
いくらナルトでもここから抜け出すのは不可能じゃないのか?
そう思った瞬間、再び大量に投げつけられる千本。
さすがにこの量を全て防ぐのは無理だろうとナルトへと視線を向けたその時・・・


「口寄せ!」


氷の外から響いた声。
そして次の瞬間には禍々しいチャクラと共に氷は全て粉砕され千本は一本残らず吹き飛ばされていた。



今度こそ何が起こったのはわからなかった・・・
唖然とする俺の横で、ナルトは満面の笑みを浮べて両手をブンブンと大きく振りながら口を開く。


「ナーちゃん、ありがとだってばよーーー!!!」


その声に反射的に視線を向ける。
そして目にした光景に思わず意識が一瞬遠のきそうになった。
禍々しいチャクラの出所。
そこにはナルと、ナルに付き従うようにしている九尾の姿があった・・・


「ナー君危ないことしたらダメだしーーー
皆心配する」

「ナーちゃんがいるから大丈夫だってばよ!」

「ん、それはそうだけどね!」


そう言って笑いあう二人だが、何度でも言おう。
後ろには九尾が付き従っている。

それを当然のごとく扱うナルと、「九ちゃん元気だってば?」と話しかけているナルト。
もうこの光景を受け入れられない俺がおかしいのか?!
だが視線を彷徨わせれば、顔面蒼白で必死に目を逸らしているカカシの姿が目に映った。
だよな!やっぱり異常なのはあの二人なんだよな?!
だが残念な事に俺にもカカシにもそれを口に出して言う勇気も無謀さも持ち合わせてはいなかった・・・





その後ワラワラと現われたガトーの一味。
それをナルは九尾の尾一振りで一掃した。

そして「ん、これでガトー一味暗殺の任務終了!」なんて言う上機嫌の声が聞こえてきた気がするが・・・・・気のせいだろう!
さらに、気絶させられていた再不斬とその仲間の首根っこを引っ掴んで「鍛えれば少しは使えそうだからこれ貰うね!」とか言った気がするがそれも気のせいだ・・・ろう!
だからナルがその後さらに口寄せした生き物がどこをどう見ても二尾に見え、その背に二人を投げ上げ「木ノ葉まで適当にヨロシク」とか言った気がするが全ては夢だ・・・そう思いたい・・・


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