どんまい、サスケ! 8

それ以降もちゃくちゃくと巻物回収、もといナル曰くの狩りは順調に進んでいった。
天の書は、俺達の元々持っていた物とシカマル達から譲り受けた物、それにナルトが雨隠れの下忍達から貰ったという物で3つ。
地の書は、始めにナルが滝隠れの下忍達から奪い取った物と大蛇丸を瀕死にして奪い取った物で2つ。
つい20分ほど前までは確かに俺達の手元の巻物は5つだった。

しかし現在はそれにさらに天の書に5つ、地の書に4つがそれぞれプラスされていた・・・

俺が擦り傷の手当をしている間にいったい何が起こった?
二人ともちょっと近くの見回りをして来ると行って離れたが・・・・
いや、深くは考えまい。
考えたら手当の最中に聞こえてきた叫び声や、何かが爆発する音、それに命乞いをする声なんかについても考え始めなければならなくなる。
それは、非常に精神的によくないだろうきっと・・・


とにかく今の状況は手元に天の書が8つ、地の書が6つだ。
それぞれ13ずつ、全部で26ある巻物。
だとすればいつの間にか俺達は半分以上の巻物を手中に収めていた。
ちなみに第二試験が始まってからまだ半日も経っていない・・・
まるで悪魔のような所業だ。


「フッフー!
さてと、この辺にいる奴は全部狩っちゃったし、そろそろ移動しないとねー!」

「サスケ、もう怪我は大丈夫だってば?」


ニマニマと怪しく笑うナルと、心配げな顔で俺の方を覗き込むナルト。
本当に、双子とは思えない差だ。
・・・むしろ双子だからいけなかったのか?
優しさや思いやり等の感情はナルトへ、残忍さや無残さ等の感情はナルへと偏ってしまったのかもしれない・・・
そう考えれば妙に納得できた。
しかしそれと同時に・・・


「サスケ!とっととしないと置いて行くしー!!!
突っ立ったまま動かないならクナイの的にしてやるし〜」

「・・・今行く」


ほんの少しでいい・・・人並み程度と贅沢は言わない。
せめて少しだけでもナルト以外にも向けられる優しさがナルにもあればいいと思った。





「ん、次の獲物発見!」


前を行くナルが、ニヤリと笑ったのが分かった。
そしてそのまま進むスピードを緩めずに、少しだけ進行方向を変える。
それに何とかついて行きながら、俺は次の哀れな犠牲者にそっと手を合わせたい気持ちに駆られた。
だが次の瞬間・・・


「む!」


ナルから不機嫌そうな声が漏れた。
何だと視線を向ければ、ナルがチラッとこちらを振り返った。
正確に言えば、俺の斜め前を行くナルトへだが・・・


「ナー君、獲物に気付かれた。
ちょっと先に行って来る」

「わかったってばよ!」


ナルトが返事をすると、ナルは一瞬にしてその場から姿を消した。
いや、消えたように見えるほど早い速度で向かった、と言う方が正しいのかもしれない。
俺は自分に出せる精一杯のスピードでナルトと共にナルの後を追った。


そして現在・・・


逃げるとか超失礼だしー!
こっちはただ挨拶しようと思っただけなのに超傷ついたしーーー!!!」

「・・・・・・・・・」


知った顔がそこにはあった。
先日木ノ葉の病院まで案内し、俺と同じでナルの被害者なんだろうと妙な親近感を覚えた我愛羅達だ。
現在進行形でナルに文句を言われ、少し青い顔をして視線を斜め下へと向けている。
・・・・・気の毒で、哀れな光景だった。


「裏切られた気分だしー。
超仲良しだと思ってたしー。
あ〜〜〜ショックで相当な事してもらわないとザックリいきそうな気分だしーーー


そう言うナルの表情に、傷付いた部分を見つけ出す事は出来なかった。
どちらかと言うとニマニマと楽しそうに笑みを浮べているように見える。
そんなナルを目の前にして、言葉を発する事さえ出来ない様子の顔面蒼白の我愛羅達。
・・・・・・目頭が熱くなってきた。


「・・・・・・これで見逃してくれ」


そう言って我愛羅が懐から取り出したのは天の書。
ナルはそれを受け取ると、数秒巻物に視線を向けてからニコリと笑みを浮べた。


「一本?」


ニコニコニコと浮べられる笑みには、どこか確信があるようにさえ感じた。
気のせいか空気が重たい・・・
数秒後、我愛羅は無言のまままた懐に手をいれ、今度は地の書を差し出した。
ナルはそれもまた当然のごとく受け取った。


「ん!これで元通り超仲良しだね!!!」


・・・・・ナルの仲良しの定義を聞きたい。
きっと下僕や捨て駒等の同義語として使われているに違いない。
第二試験合格を目の前としていたのに、何の途惑いも無く天地揃った巻物はナルの手によって奪われた。

だが我愛羅達の表情には悔しさも怒りも見つけられなかった。
ただひたすらと、この場から去ってくれという切なる願いがそこにはあった気がする。
かける言葉も見つからず、俺は黙ったまま「フッフー!残り10個だしー」と駆け出したナルの後を追った・・・





次にナルに見つけられた哀れな班。
それは俺達と同期のキバ達の班だった。
笑顔のナルが突然目の前に現れ、キバは目を見開いて口を開いた。


「ゲッ!!!」


・・・・・素直な反応だが、命知らずだ。
心配する俺の気持ちなど知りもせず、キバは思いっきりナルを見て顔を顰めたまま戻そうとしない。
こんな恐い物知らずの奴だったのかとある意味感心までしてしまう。
そしてそんな俺達の横ではヒナタが顔を赤らめてナルトへと声をかけていた。


「ナッ、ナルト君、無事でよかった」

「俺もヒナタが元気そーで安心したってばよ!」


ニカッと笑うナルトと、途端に顔を真っ赤に染めるヒナタ。
微笑ましい光景だ。
命の危険に晒され磨り減った精神は思わず癒される。
だがそんなやり取りが行なわれる横では、その双子の姉がまさに黒い笑みを浮べている最中だった。


「ん、巻物出しなよ!」

「だっ誰がお前らに渡すかよ!!!」


・・・・・本当に命知らずだ。
バッと自分の懐を庇うように動いたキバに俺は思わず呆れる。
それでは自分が巻物を持っていると言っているようなものだ。
まぁナルの事だから、始めからキバが持っていると分かっていたんだろうが・・・


「キバ、早く巻物を渡した方がいい」

「なっ?!何言ってやがんだシノ!!!
これがねーと俺ら合格出来なくなるだろーが!!!
後は持って行くだけなんだぜ?!
何簡単に諦めようとしてんだよ?!」


どうやらキバ達は既に巻物を二つ揃えているらしい。
だから後は塔まで持っていけば合格だ。
何度も言うがこれは中忍試験。
俺達下忍が中忍になれるかどうかがかかっている大切な試験だ。
だから簡単に諦めるなと言うキバの意見は一見正しいように聞こえる。
だがこれも何度も言うが、相手はあのナルなんだ。
ここは素直に渡した方がいいと言うシノの意見は最もだ。
むしろナル相手ではそれこそが正しい。
唯一の正解と言ってもいい。
選択を間違えれば、試験不合格以前に命の危機に晒される。
・・・しかし、残念な事にキバは今まさに自分の命が儚い天秤にかけられている事に気付いていなかった。


「同期だろーが俺は容赦するつもりはねーぜ!
シノもいつもみてーに蟲で」

「無理だ」


即 答 だ 。
昔からシノは回りくどい言い回しをする奴だと思っていた。
だが、今回はキバに皆まで言わせず完結に言い捨てた。
それにはさすがに同じ班で長い付き合いになるキバも驚いたのか、目を見開いてシノを振り返っている。
しかしすぐに正気を取り戻したのか「何でだよ?!」と怒気混じりに問いを口にした。
するとシノは淡々と答える。


「ナルには蟲が通用しないんだ」

「「 ・・・・・・・・は? 」」


シノの答えに、俺とキバは図らずもハモってしまった。
蟲が通用しない?
どういう事だ?
毒が利かないとでも言うんだろうか?
だがそれなら人体に直接攻撃する蟲も確かいたはずだ。

蟲使いとして名を馳せる油女一族。
その血を受け継ぐシノも、蟲の性質を巧みに利用した知能戦を得意としている。
それがどういった理由で通用しないと言い切るのか・・・
俺達の疑問を察したのか、シノはその見えない目をナルの方へと向けてこれもまた淡々と答える。


「蟲で攻撃しようにも、ナルが殺気を発した瞬間皆死んでしまうんだ。
つまりナルに近付く事すら出来ない。
これではどんな攻撃も不可能だ。」

「・・・・・・マジかよ?」


シノの蟲を使った戦いを間近で見ているはずのキバは、俺よりも衝撃が強いらしくナルを信じられないと言った目で見ている。
シノの蟲の数は、数十といった可愛らしいものではない。
それこそ船数隻さえも沈没させられる程だ。
そんな数の蟲を殺気を放っただけで殺すとは・・・
・・・・・いや、だが信じられない事も無い。
なんせナルの殺気を一番多く受けているのは自分だと断言出来る。
あのアカデミーでの日々を思い出せば、小さな蟲の命など簡単に奪えるほどの殺気を出せるというのも十分信じられた。

未だナルへと視線を向け続けているキバに、シノは冷静に言葉を投げかける。


「キバ、俺達に勝ち目は無い。
巻物を渡してここは」

「んな事できっかよ!!!」


シノの言葉を遮るようにキバが叫んだ。
そして俺やシノの静止の言葉も無視して戦闘態勢に入る。


「行くぜ赤丸!!!」


姿勢を低く構えるキバは忍犬使いとしての自分の相棒へと声をかける。
だがいつもなら高い声を上げてそれに答える姿がいくら経っても見当たらない。


「フッフー!お探しの物はこれかな?」

「なっ、赤丸―――!!!!!」


ナルの声に反応してキバが視線を向けた先には、首根っこを掴まれた赤丸の姿。
きゅ〜んと力なく鳴いている。
どうやら殺されてはいないらしい。
だが、限りなくその小さな命はナルに握られていた。


「犬鍋ってのも乙だよね〜!」

「っ!?」



キバが絶句している。
首根っこを掴まれた赤丸はガタガタと可哀想なほど震え始めている。
その状況を生み出している人物が自分と同じ班の奴だと思うだけで、俺の良心は悲鳴を上げた・・・


「っ、ナル、お前・・・・普通ここまでするかよ!?」

「フッフー!何言っちゃってるのかな?
私も相手が同期だろーが容赦するつもりは毛頭無いしーーー!!!」


同じような台詞でも、言う人間が違うだけでここまで印象が変わるものなんだな・・・
悔しげに手を握り締めるキバ。
だが数秒後、その手から巻物はナルの手へと投げ渡された。
すると途端にニヤリと笑うナル。


「同期の好みでちゃんと赤丸返してあげるしー!
これが他人だったら目の前でサックリやっちゃうところなんだから感謝してよねーーー!」


・・・・・鬼だ
無事赤丸が手元に戻って来て抱きしめているキバは、顔面蒼白でナルを見ていた。
俺はそんな同情を禁じ得ない光景から意識的に目を逸らす。
そして・・・


「あっ、サスケ!
俺ってばヒナタに3段ばしご教えてあげたってばよ!」


ニカッと笑うナルトと、あやとりを手に真っ赤に顔を染めているヒナタ。
実に微笑ましい光景だ。
同期の憐れさに痛めた精神は何とか癒された・・・





とうとう俺達の手元には天の書が10、地の書が8集まってしまった。
つまり全巻物のうち約7割を手にしているというわけだ。
それはイコール潰された班の数・・・
まさか試験管も半日で全体の約7割の班が巻物を手放す事になるとは思っていなかっただろう。
しかもたった一つの班の手元にそれが集まるとは、それこそ夢にも思わなかっただろう・・・

木の枝から枝へと移動する途中、新たな犠牲者が出るのを俺は察知した。
別に相手の気配等に気付いたわけではない。
ただ、ナルのニヤリとした笑みが目の端に映ったからだ・・・
まるで、捕食者が獲物を見つけたかのような笑み。
それから程なくして、俺も哀れな相手の姿を目にすることになる。


「やはりお前達か・・・」

「あっ!ヒナタのにーちゃんだってばよ!!!」


俺達の目の前にはヒナタの兄の姿。
どうやら今は単独行動中らしく、他の奴の姿は無い。
そんなヒナタの兄に向かって嬉しそうにブンブンと手を振るナルト。
だが当然と言うか何と言うか、相手は手を振り返しはしない。
本当に何度も言うが今は中忍試験中で相手と俺達は敵同士。
だから隙を見せないよう軽はずみに動かないのは正しいはずだ。
だが、ナルの目にはどうやら「ナー君を無視したね?」と映ったらしい。
本当にどこまでもナルト中心で物事を考え進めていく奴だ。
そしてナルはビシッとヒナタの兄を指差しながら口を開く。


ナー君を無視するとか万死に値するし!
氷漬けにして白眼奪い取ってから風遁で切り刻んでこの森の人食い動物達の餌にしてやるしーーー!!!」


怖っ!!!
ナルト無視しただけでそれか?!
しかもナルの場合は言うだけで終わらない。
ナルの脅しは実行と限りなく近しい位置に存在する。
つまり脅しだけに留まらず実行する、しかも軽くアッサリと、特にナルト関係だと非常に残酷に・・・

・・・ヒナタの兄の命が風前の灯状態だ。

さすがにヤバイだろうと顔面蒼白になる俺。
しかし、ここにはナルを唯一止める事が出来る人間がいた。


「ナーちゃん!
ヒナタのにーちゃんに酷い事したらダメだってばよ?」

「・・・・・・もちろんだしー!
巻物譲り受けたら無傷でさよならするしー!!
さっきのは冗談だしーーー!!!」


絶 対 冗 談 で は な か っ た
目がマジだった。
絶望を植え付けて殺してやるというオーラが確かに出ていた。
しかし、それを今ここで言えるほど俺は自分の命を軽んじてはいない。
ヒナタの兄の命が助かったんだ。
今はそれ一点のみに集中し、他は流せ、全力で!
その無茶な脳の指令に胃が痛くなるのを感じていると、ナルがスッとヒナタの兄へと手を差し出した。


「ん!早く巻物よこしな」

「・・・・・・・・・・」


ナルトの位置からは見えないだろうが、ナルの目は完全に据わっている。
どんな馬鹿でも分かるだろう。
この場において己に拒否権など存在しないという事に。
断れば後々凄まじい報復が待っているだろうと簡単に予想出来る。
ヒナタの兄、断るな。
素直に渡してしまえ・・・
下手なプライドや自尊心ほど愚かしいものは無い。
そんな物に骨子していれば寿命はいくらでも縮まる。
むしろ今死ぬ、即死ぬ。

俺の必死なアイコンタクトが伝わったのか、ナルのどす黒いオーラに嫌でも気付いたのか・・・
ヒナタの兄はゆっくりと懐から巻物を取り出すとナルへと差し出した。
ナルはそれをバシッと引っ手繰ると高らかにかかげる。


「地の書ゲットだしーーー!!!」

「ヒナタのにーちゃん、ありがとだってばよ!!!」

「・・・・・・・あぁ」


ナルトを無視する事の重大さを学んだのか、ヒナタの兄は何とか一言答えた。
だが顔は強張っているし、冷や汗も出ている。
いったい、あの目にはナルの禍々しいチャクラはどういう風に映っているんだろうか?
・・・・・いや、世の中には知らない方が幸せなことは沢山ある。
それこそナル関係なら目白押しの盛り沢山だろう。
現にヒナタの兄は一刻も早くこの場から立ち去りたちといった様子で口を開く。


「・・・俺は、もう行っていいのか?」

「ん?どこにでも好きな所に勝手に行けばいいしー!」

「テンちゃんにヨロシクだってばよ!!!」

「・・・・・・・・・・・あぁ」


しっかりと得た教訓を活かし、ヒナタの兄はナルトに返事をしてから即座にその場を後にした。





「ん、もう塔に向かってもいい頃だね」


突然聞こえてきたナルの言葉に俺は信じられずに目を見開いた。
手元の巻物は天地合わせて20。
残り6つの巻物を奪うまでこのナル曰く狩りは終わらないと思っていたが・・・


「ほっ本当か?!本当に塔に向かって試験終了するのか?!」

「ん、無意味に野宿なんてしたくないからね!
サスケがいないならもう少し散歩してもいいけど、ほら、サスケって足遅いしー!!
そろそろ向かわないと夕飯までに家に帰れないでしょー?」


鈍足の俺グッジョブ!!!
もちろん俺なりに精一杯のスピードを出しているつもりだが、本気のナルには到底追いつけないのは我愛羅達を追った時の速さを見れば分かる。
だから別に悔しくともなんともない。
それが現実なんだ、逆に何を悔しがる必要がある?
今はそんな事よりもこの恐怖の巻物争奪戦から開放される事が重要だ!
さらに言えばコンプリートをせず終了出来る事!
残りの巻物は天地それぞれ3つずつ。
最大俺達以外の3チームが合格出来る希望が出来た。
僅かな希望だが、それでも全て摘み取ってしまうはずだっただけに俺の良心は少なくとも救われた気がする・・・

空を見上げれば赤みがかった夕焼けが顔を覗かせ始めていた。
確かに今から向かえば完全に日が暮れる前に塔へと到着出来るだろう。
俺は隠し得ない喜びを噛み締めていた。
・・・・・・だから、深くは考えなかった。
ナルがゴソゴソとポーチから取り出した紙を空へと放り投げ白い炎を纏って消えた事も、また暗部の二人にでも連絡をしたんだろうと単純に思ってしまった俺は愚かだった・・・・・





一言で言えば甘かった。
なんのためのアカデミー時代だったんだ・・・
あの日々はナルの性格を把握するには十分過ぎる程過酷で死と隣り合わせだったじゃないか。
最近の子供の手伝い程度のDランク任務の日々で薄れかけていた。
情け容赦無いとはナルのためにあるような言葉で、それに関する事ならナルの有言実行率は100%だ。
それを俺が改めて思い知ったのは、塔へ到着して15分もしない頃。
すぐに塔へと入るものだとばかり思っていた俺だが、ナルは鼻歌交じりに入口で止まり森の方へと視線を向けた。
何だと首を傾げたが、ナルトも一緒になってその場に留まるから俺も自然とその場で森の方を振り返る。

そして、暫くすると聞こえてきた音。
ズリズリと何かを引き摺るような音に自然と嫌な予感が過ぎった。


「フッフー!来たね!!!」


ナルが上機嫌に見つめる先・・・
暗い木々の間を通ってやって来た存在に俺は目を見開いた。


「・・・・・・・虎」


そう、虎だ。
白く大きな虎がこちらへと真っ直ぐやって来る。
しかも、その口に何か赤い物をくわえ引き摺っているのが見えた。
徐々に近付いてくるその虎がくわえているもの。
非常に残念な事に、それには見覚えがあった・・・


「プップー!7回目も不合格だしーーー!ダサッ!」


ナルの心底馬鹿にしたような笑い。
それに俺は思わず目頭が熱くなるのを感じた・・・

割れているが片耳になんとか引っかかっている眼鏡は血に濡れ、着ている服は所々無残に引き裂かれていた。
意識の無い重い体はどれ程の距離を引き摺られて来たのか、両足とも靴は摩擦で脱げたのか素足で傷だらけだった・・・
そして血と泥に塗れ、見るも無残な姿だが確かにその顔には覚えがあった。
第一印象はどこにでもいそうな冴えないメガネをかけた男。
中忍試験前にナルに認識札をちゃちいと馬鹿にされていたカブトだ。


「偉そうに講釈垂れてた割にはやっぱり大した事ないしー!
しかも何寝てるんですか〜?
此処は遠足じゃないしーーー!


足元まで運ばれてきたカブトを見下ろして、ナルはこれでもかというほど馬鹿にしていた。
意識無い相手に普通ここまで言うか?
どうやらナルは相当カブトが嫌いらしい・・・
散々「蛇臭い!」、「ど三流!」などと馬鹿にしてから、ナルは満足気な顔でポーチから地の書を奪い取った。
そして虎の頭を撫でながら笑顔で口を開く。


「ん、後はお前の好きにしていいよ!
でもこんなの食べたらお腹壊すだろうから、適当なオモチャにするぐらいにしときな」


ナルのその言葉に、虎は低く喉を鳴らして答えた。
そして来る時よりも明らかに雑にその体は引き摺られて、また森の奥へと戻って行った。
もちろん、それを止める術を俺は持ってはいなかった・・・





その後、10分としない間に次々と動物たちによって巻物が集められた。
馬鹿でかい蜘蛛に糸でグルグル巻きにされて連れて来られた者や、凶暴そうな熊に俵担ぎされて連れて来られた者、または頭上高くより巻物だけを落としていった鷹もいた。
その鷹が落としていった巻物に血が付着していたように見えたが、それはきっと俺の見間違いだろうきっと・・・
しかし、カブト以上にボロボロにされていた奴はいなくてその点については安堵した。
あれは本当に酷い有様だった・・・
とにかく、経緯はどうであれ俺達の手元にとうとう26全ての巻物が揃ってしまった。
良心がズキズキと痛む。
あぁ痛む、かなりの痛みだ。
しかし多くの犠牲は出ただろうが、これでナルとナルトの目指すところのコンプは達成だ。
早く塔へと入って開放されたい。
その一心で重い足を引き摺って塔へと入ろうとした瞬間・・・


「っ!!!」


背筋を駆け上った悪寒。
反射的にその場から飛びのくと、大量のクナイが隙間無く辺りに突き刺さっていた。
この限度を超えた罠には嫌なほど覚えがある。
俺は恐る恐る後ろを振り返った。


「ん、サスケよく避けたね!
これもアカデミーでの私の修行の成果かな?」


や っ ぱ り お 前 か ! ! !
しかも何が修行だ、あれは明らかに殺人未遂だ!
そう強く言ってやりたいのは山々だった・・・
だが中忍試験が始まってから酷使され磨り減った俺の神経はもう既に限界だ。
文句や異議を唱えるだけの気力も残っていなくて、変わりに俺は盛大な溜息を吐いた。


「フッフー!もうお疲れさんかな?
この程度で根を上げるようじゃーサスケもまだまだだね!」

「・・・・・ナル、お前は俺を殺したいのか?」

「何を言っちゃってるのかな?
大切な仲間を殺すわけないしー!
せっかくコンプした巻物が無駄になっちゃうしーーー!


理由はきっと後者が主だ、絶対に・・・
むしろ後者オンリーだろう。
ナルはニマニマと笑いながら突き刺さったクナイを一本地面から引き抜いた。


「ちなみにこれは別に対サスケ用じゃなかったんだよ?
第二試験始まって即行影分身に作らせた、対他チームへの罠だったんだしー!
まぁ私らよりも先に塔へ辿り着いたチームはいなかったみたいだけどねーーー」


その原因を作った人間が何を言うか・・・
クナイをくるくる回す姿はまさに悪魔。
例え俺達に遭遇する前に巻物を揃えて塔に辿り着いたとしても、この罠にかかって終わりだったという事か・・・
つまり、ナルとナルトがコンプをすると言った時点から他チームの合格への道は無くなっていたのだ。
これは本当に無駄な抵抗をせずに巻物を差し出したシカマル達が大正解だったと言えるだろう。


「さーってと、さっさと行ってとっとと合格するよ!
夕飯に間に合わなくなっちゃうしー!」

「今日の夕飯楽しみだってばね、ナーちゃん!」

「ん!肉がいいね肉!!!」


和気藹々と話しながら塔へと入って行くナルとナルト。
その背を見つめて、俺も肉体的にも精神的にもボロボロになった己を何とか引き摺るようにしてその後を追った・・・





こうして、第二試験の合格者は俺達の班のみとなった。
この結果にはやはり火影を始めとする皆が顔を青褪めさせていた。
いや、第二試験管のみはケラケラと笑っていたが、きっとあれはナルに近しい属性なのだろうから気にするまい・・・

とにかくこのままでは中忍試験として成り立たないという話しになり、急遽行なわれた話し合いによって第二試験のやり直しが決定された。
その判断が下された瞬間、またあの地獄のような時間に戻るのかと絶望しそうになった。
だが続けて火影から伝えられたのは中忍試験の真意だ。

この中忍試験の真の意図は早い話が同盟国間の戦争の縮図らしい。
次世代の忍びの戦力を競い合わせ、無駄な潰し合いを避けるために行なわれているそうだ。
第三試験からは仕事の依頼をする諸国の大名や著名な人物が多勢招かれ、その者達を前に自里の威信を背負って力を示す。
ようは里の力量を示し依頼の確保をするのには絶好の場と言える。
そう説明を聞き終えた瞬間、ナルは思いっきり眉を顰めた。


「里の威信とかどうでもいいしーーー!
力示したいなら手っ取り早く全部叩き潰せばいいだけだしーーー!

「俺ってば難しい話はよくわかんねーってばよ!」


イライラとするナルと、首を傾げているナルト。
不安からキリキリと胃が痛みを訴え始めた。
それは火影も一緒なのか、俺達はこの場で中忍試験合格だと告げられた。
突然の話しの進みに俺は己の耳を疑った。
だが続く火影の説明にある意味納得する。

多大に偏った力は里間のバランスをも崩す。
例え第二試験をやり直し、第三試験から再び俺達が参加したとしてもナルやナルトの実力は分かりきっている。
正直二人と勝負になるような奴はいないだろう・・・
一方的に他里の者を血祭りにあげるナルの姿が容易に想像出来る。
それこそ同盟国間の戦争の幕開けになるかもしれない。

それを避けるためにも、俺達の班をここで合格にして以降の試験に出さないと話がついたらしい。
そしてさらにその事に異を唱える者は受験者の中からも挙がらなかったらしい。
第三試験は一対一方式の戦闘試験。
ナルとあたるかもしれないという恐怖は、受験者の口を噤ませるには十分過ぎる程の効果があったらしい。


第二試験のやり直しは3日後。
現在班員が既に欠けている班は失格とし、14班でのやり直しが決定しているらしい。
班員が欠けている班・・・
俺が知っているだけでも最低4班は心当たりがある。

一番初めに出くわしナルの土遁の術によって地中に埋められ再起不能のなっているであろう滝隠れの班。
ナルトに変化した事でナルの怒りを買い蹴り飛ばされ踏みつけられ意識不明の雨隠れの班。
虎に八つ裂きにされ引き摺られていった生死不明のカブトの班。
そして言わずもがな瀕死の重症、確実に再起不能であろう大蛇丸の班。

他にもいくつか「もしかすると・・・」と思う班もあるが、簡単に言えばナルに無謀にも挑んだ班は返り討ちにあっているはずだ。
26班中14班無事だっただけいいと思った方がこの場合は正解かもしれない。

とにかく、こうして俺達七班の中忍試験合格は決定された・・・


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