春の香りの頃に


部活のコンサートを無事に終えて数日。


CMで使われている、最近お気に入りの曲をダウンロードして着信音に設定したのが一昨日


そして今日、その曲が鳴ったのはお風呂上りでのんびりしていた夜のことだった。






「な〜〜に?エド。人の優雅なコーヒータイム邪魔しないでくれる?」



ディスプレイに表示された名前を見て、自分でも自然と笑みが浮かんだのには気付いた。


でもそれを相手に気付かれるのはどうも悔しくて、わざと面倒そうな声を出す。


すると返ってきたのは呆れたような彼の声。






『おまえ、んなコーヒー飲まねぇ〜だろーが・・・・』




「失礼な、私もたまには飲むんだよ?」






ほんとーにたまにだけど。


普段私が好んで紅茶を飲んでるのはエドも知ってる。


だって元々私、コーヒーは苦手で紅茶ばっかり飲んでいたんだもの・・・





・・・・・思えば、私がコーヒーを飲み始めたのはエドがきっかけだったのだろう。


悔しいけれど、エドのコーヒーを飲む姿はかなり似合っている。





以前テスト勉強を一緒にした時・・・・


ブラックのコーヒーを飲みつつ眼鏡姿のまま参考書を見ていた時なんかものすごく絵になっていた。


えぇ、そりゃもう思いっきり見惚れてしまうほど・・・・





そうだ、私はそんなエドと少しでも釣り合いたくて・・・・







「・・・・・・・・はぁ・・・・私ってさ、何気に健気だよね」




『はぁっ?・・・・・何だよ急に?』






エドの『何言ってんだこいつ?!』的な驚きの声は聞こえなかった事にしよう。


さらにどこか不審そうな問いも聞かなかった事にする。


私は背を預けていたベッドにさらに体重をかけて、少し声を大きくしてから口を開く。







「あ〜も〜いいから!さっさと用件を言いたまえ!!用がないなら切っちゃうよ!」




私のその言葉に、急に電話の向こうが静かになった。


あれっ?と首を傾げ、軽く身を起こしてから呼びかける。







「エド?」




『あ〜マイ・・・・・・・・・・お前明後日暇か?』






私の呼びかけに、数秒の沈黙の後すごく言い難そうにエドが口を開いた。


いや、言い難そうというか口篭りながらと言うか・・・・


でも、私の意識が奪われたのは話の内容だ。







「明後日?」





その言葉に自然と視線は壁に掛けてあるカレンダーへと向かう。


示す月は3月。


一番に目に入った赤い丸は終業式。


あの書き込みがしているのは先輩の卒業式で・・・




えっと、明後日は・・・・・







(あっ・・・・・・)







目に留まった書き込みに思わず目を見開く。


あの、私にとっては整った字の書き込み。


あれはカレンダーを買ってすぐに書き込んだ・・・・







『・・・・・・・おまえ、明後日誕生日だろ?・・・・・・・・・・・どっか行かねぇ〜か?』




「えっ?」








エドの言葉に今度こそ驚きの声が零れた。


いや、そんなまさか・・・・・


いやいや、でもこの流れは・・・・







「えっ?もしかしてエド・・・・・・・祝ってくれるの?」





『・・・・・何だよ、俺に祝われるのじゃ不服か?』






少し拗ねたような、恥ずかしがっているような声。


そんなエドの様子に、思わず笑みが浮かんでしまった。



あぁ、なんか凄く可愛い・・・






「不服なんてとんでもない。・・・・・・・・・・・・・嬉しい。ありがと、エド」




自分でも声が柔らかくなったという自覚があった。


エドもそれに気付いたのか、電話の向こうから微かに笑い声が聞こえてくる。







『じゃぁ〜、1時に駅のとこでどーだ?』



「あ〜どの辺?」



『あのデッカイ変な絵の前』



「変な絵って・・・・・・了解」






エドの言葉に苦笑しつつも、立ち上がってカレンダーへと向かう。


目に留まったペンを使って誕生日の文字の下に小さく書き込む。




エドとデートv 1時、駅前






自分で読み返して、思わず笑みが浮かぶ。


そんな私の耳に、またエドの声が届く。






『あ〜あとよ・・・・』




「何?」






続くエドの言葉を聞いた瞬間、自分でもカァッと顔が熱くなったのを感じた。




















「・・・・・・・・・・・バカ」




熱くなった頬に片手をあてると、やっぱり熱くて・・・・






『・・・・オレがバカになるの、おまえの前だけ何だぜ?』





返された笑い混じりの言葉に、もう一度小さくバカと呟くことしか出来なかった。
























春の風が吹き始め、エドと新しい季節を迎える・・・・




きっと、来年も再来年もずっと・・・・・・一緒に・・・・・・







HAL様へ
日頃の感謝とお誕生日を心から祝って書かせて頂きました!

- 8 -

[*前] | [次#]
ページ:


捧げ物TOP
サイトTOP
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -