私だけの特等席


私だけが知ってる特等席


この時間この場所から見えるのは


太陽の光に照らされた、とても綺麗な金色の彼・・・


















「マイ 、また準備室で食べるの?」



4時間目終了を告げるチャイムが鳴ると途端にざわざわと騒ぎ始めた教室。


その中を出ようとドアへと向かう私にかけられた友人の声。


声に反応して振り向くと、友人の視線は私の持っているお弁当に向けられていた。


私が曖昧に笑いつつ頷くと、途端に友人が眉根を寄せる。




「係も大変だね〜。

3学期はマイ が担当なんでしょ?

ずっと準備室でお昼食べながら作業?」



「ずっとじゃないよ。

提出された課題の整理や確認が終われば、後は放課後の戸締りの確認だけだし」



「うわ〜大変・・・

しかもあの先生人使い荒いしね〜。

頑張って!」




私はその声に笑顔を返すと、ここ最近昼休みになるたびに向かう準備室へと足を進めた。




















「失礼します」



鍵は朝隣のクラスの係の子が開けてくれるから、ドアは軽く音を立てて開いた。


この時間帯、中には誰もいないと分かっていながらも一応声をかけて中を覗く。



資料や課題が置かれている以外、この準備室の用途はゼロに等しい。


もちろん今日も誰も中にはいなかった。



昨日のお昼から中の様子も変わっていない。


机に置かれたクラス別になっている課題の山。


カーテンが引かれたままの窓。



私はそんな中を確認すると、何故か笑みが浮かんで静かにドアを閉めた。


向かうのは窓際に置かれた椅子。


傍にある机にお弁当を置いて、カーテンにそっと手をかける。




(・・・・・いた)




2階にあるこの準備室からちょうど見える校舎裏の大きな木。


その下に今日も彼の姿があってどこかホッとする。





(エドワード・エルリック先輩・・・)





金色の髪に金色の瞳。


頭はいいけど、ちょっと素行が悪いって噂で聞いた。


私も以前まで遠くから目にする先輩の事は恐い人のように見えた。



でも・・・





(本当は優しい人なんですよね・・・)





浮かんだ笑みにさらに可笑しくなる。


でもここにいるのは私だけ。



私だけが知ってる特等席。
















カーテンを気付かれない程度に寄せて、そこから視線を向ける。


そこにはエルリック先輩と、温かそうな毛の色をした一匹の小さな猫。


購買で買ったのであろうパンを食べながら猫ちゃんを撫でるその手つきはとても優しい。


自分の食べているパンを小さく千切って猫ちゃんに食べさせたり、擦り寄ってくれば笑顔を向けて抱き上げる。



その光景はとても温かくて、私の顔にも思わず笑みが浮かぶ。


まぁ、一つ残念なのはその先輩の笑顔を正面から見ることが出来ないってことだけど・・・


それでも、こんな先輩の一面を知れてよかった。



始めは課題の整理の息抜きに外でも見ようと思って偶然見てしまった光景だった。



でも、その先輩の優しい笑顔が頭を離れなくて・・・


気付けばお弁当持参で準備室に来るようになった。



気付かれないようにカーテンの隙間から先輩と猫ちゃんの様子を見て、幸せな気持ちを感じるようになった。






(あぁ、私って変態かな・・・・・)






そんな考えが脳裏を過ぎって思わず苦笑してしまうけど・・・


それでも・・・・


食事を終えて寝転がる先輩の上で、猫ちゃんも安心して丸くなって寝るその光景を思えば・・・






(・・・・・もう何でもいいや)






ついついそんなことを思ってしまう。


それに・・・・・




(この特等席とももう少しでさようならだし)




私は机の上の整理済みの課題の山を見て、思わず溜息をついた・・・




















「えっ?今日3年の先輩達いないの?」



友人の話に思わず次の授業の教科書を出していた手が止まる。





「今日っていうか今日から月火水と3日間。

研修だってさ。あ〜来年は私らだよ・・・」



嫌そうに顔を顰める友人には悪いが、私の意識は違うところにいっていた。




課題の整理は先週の半ばに終えてしまった。


あれから様子を見たことはないけれど・・・・







(猫ちゃん、大丈夫かな?)






先輩がいないなら餌だってもらえないし・・・


休みを挟んで今日から3日


あんな小さな猫だし、きっと今だってお腹空かしてるんじゃ・・・





「まぁ、そう言うわけで学食空いてるからさ、今日一緒に行かない?」



「・・・・・ごめん、今日私行くところがある」





気付いたら、私はそう言って友人の誘いを断っていた。























4時間目の終了を告げるチャイムが鳴ると、急いで教室を出る。


でも向かうのは先週まで向かっていた準備室ではなく、あの校舎裏の大きな木・・・





(あっ、ここだ・・・)





一度校舎を見上げて、準備室の窓を確認。


そしてもう一度視線を目の前の木へと戻す。


持って来たお弁当は適当に木の幹へと置いて、草むらの方を覗き込む。





「・・・・猫ちゃん?」




呼びかけてみるが、すぐにそれも意味が無いことに気付く。



(あの子、先輩になんて呼ばれてるんだろう・・・)



私が勝手に猫ちゃんとか呼んでも、あの子には伝わらないだろう。


それでも、諦められなくてその場にしゃがんで呼びかける。




「猫ちゃん・・・・猫ちゃん・・・・」




もしかしたら何かあったのかもしれない・・・・


そう思うと、準備室の窓から見ていただけの関係なのにとても悲しくなってきた。







しかしその時、視界の端で微かに草が揺れたのが見えた。


続いて小さな鳴き声も・・・





「っ、よかったぁ・・・・」





草陰から出てきたその姿に、思わず安堵の息をつく。


その温かそうな毛の色は、間違いなくあの猫ちゃんだ。


私はその小さな体をそっと抱き上げた。





「ごめんね、今日は先輩研修で来れないの・・・・

だから、私と一緒にご飯でもいいかな?」




私の言葉の意味を理解したわけじゃないと思う。


けれど、猫ちゃんは嬉しそうに小さく鳴いてくれた気がした。


















お弁当のおかずをわけながらの始めての猫ちゃんとのお昼。





「猫ちゃん、瞳は先輩とお揃いなんだね」





正面から猫ちゃんを見て、思わず口から出たのはそんな言葉。


猫ちゃんの瞳は、先輩と一緒の金色だ。





擦り寄ってくるその体を優しく撫でて、準備室の窓を見上げる。


なんか不思議な気分だ・・・


この前まであそこにいて、私は見てるだけだったのに




いつの間にか猫ちゃんにこんなに愛着が湧いて、いつの間にかこんなに先輩の事が好・・・・・





(っ、うっわ・・・・)





思考が思わず停止。


なんか私、今素で凄いことをサラッと認識しそうに・・・・




顔が熱くなっていく。



一方的で、ただ見ていただけなのに


それでも、いつの間にか姿が無いと寂しくて気になってしまうほどに






(でも・・・・・)






どんなに見ていても、どんなに自分の気持ちを自覚しても


所詮は一方通行で・・・・





(あっ、やめよ・・・なんか悲しくなってきた)





小さく鳴いた猫ちゃんを抱き上げて、その顔を覗き込む。



「私がここに来た事、先輩には内緒ね」



そう言って微笑めば、猫ちゃんはまた小さく鳴き声を上げ








「なんでだ?」








ビクッと肩が揺れた。


突然後ろから聞こえてきた声。


思わず固まる私とは反対に、猫ちゃんは小さく鳴いて腕から抜け出した。







「よぉ、チビ。今日も元気だな」







猫ちゃんは私の横を通って後ろの声の人物の元まで駆けていったのだろう。


嬉しそうに鳴く猫ちゃんの声に、私は後ろの人物が誰なのか確信した。


私はそっと振り向く。




金色の髪に金色の瞳、それに暖かそうな毛の色をした小さな猫ちゃん。




そこには何度も準備室から見た光景があった。


だが・・・







「どっどーして先輩がここに?けっ研修のはずじゃ・・・」






そう、そうだ!


研修で先輩がいないと分かっていたからここに来たんだ。


なのにどうして・・・・



私の疑問に、先輩は猫ちゃんを撫でる手を止めて答える。





「俺が真面目に研修なんかに行くわけねーだろ?」



「あっ、そうか・・・」



「・・・・・お前、思ってたより失礼な奴だな」



「えっ?

あっ!ちがっ、今のはそういう意味じゃなくて、えっと・・・」





どうやら私は相当パニックに陥っているらしい・・・



素行が悪いという噂を聞いていたとは言え、それを本人目の前にして認めるような発言は失礼そのものだ。


だがさらに焦る私には、言い訳の言葉も何も出てこない。


すると・・・





「ぶっ、ははは・・・冗談だっつーの、おもしれー奴」




慌てて言葉の継げない私の様子を見て、途端に先輩は笑い出した。


そして猫ちゃんを抱いたまま私の横へと座る。




「チビはそろそろ昼寝の時間だろ」




その言葉に猫ちゃんへと視線を向ければ、確かに眠そうに丸まっていた。


でも、私が今気になっているのは・・・




「・・・・この子、チビって名前何ですか?」



「ん?あー俺はそう呼んでるけどな。

・・・だって俺よりこいつチビだろ?」




そう言う先輩はなぜだかとても嬉しそうだった。


それを不思議に思いつつも、今の私には猫ちゃんの名前が分かったことの方が重要で嬉しかった。


思わず笑みを浮かべる私には、先輩にニィッと意地の悪そうな笑みを浮かべた。




「で、俺が研修に行ってこいつが一匹になるのが心配で来たわけね、マドコちゃんは」



「・・・・・マドコちゃん?」





先輩の口から聞きなれない名前が出て、思わず私は何のことだか聞き返す。


すると先輩はゆっくりと上を指差しながら答える。




「あそこから俺らの事見てただろ?

だから、マドから覗き見る女のコで、マドコちゃん」



「っ!」





先輩の言葉に思わず赤面する。





「気付いてたんですね・・・・」



「そりゃーあんだけ見られたらなぁ」





ニッと笑みを浮かべる先輩は、本当に意地悪そうに見えた。


だからついつい私も顔を背けて意地を張ってしまう。





「なっならガンでも飛ばしてくれればよかったのに!」



「・・・・・お前、思ってたより本当に失礼な奴だな」





苦笑混じりの先輩の言葉。


私の反応を面白がっているようにも聞こえて、逸らした顔を戻すことも出来ない。


そんな私に先輩はさらに続ける。





「けっこう前から気付いてたんだけどよ、お前すっげー幸せそうな顔で見てるからな・・・」




そう言って向けられた笑顔は、いつも上から見ていたもので・・・


正面から見る日がくるとは思っていなかった





「先週の半ばぐらいからいねーからさ、これでも気になってたんだぜ?

そしたら今日ここにいるからよ、おもしろそーだからあっちから覗いてた」



「はっ?!なっ、えぇっ?!」




再び先輩の顔が意地悪そうな笑みを浮かべた。


そして先輩の示す先を見ると1階の使われていないはずの書庫室。


もう先輩の笑顔を正面から見れて喜べばいいのか、見られていた事に赤面すればいいのか分からない。


また軽くパニックに陥りかける私の様子を面白そうに見た後、先輩はスッと私の方へと顔を近づけて口を開いた。





「で、お前の名前は?」



「っ・・・・・私の、名前は・・・」





次の日から私の特等席はこの木の下になって・・・


ちょっと素行が悪くて意地悪で、でも優しい先輩の他の一面を知ることとなるのはまだ先のこと。






















<後書きという名の言い訳>



遅くなってしまいましたが、アイさんへ相互記念品です(>_<)

リクエストが学パラということで、もう好き勝手に書いてしまいました( ̄▽ ̄)(えっ?)

・・・・・・・・・・・・・はい、もう本当にすみませんでした!!!
こんなものでよろしければ、どうぞ煮るなり焼くなり好きにして下さい_| ̄|○ il||l


えーーーこんな駄文ですが・・・これからもサプリとサイトをヨロシクお願い致します♪



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