空に恋して


自分が少々変わった人間だという自覚はある。


何せ幼い頃から散々と「変わった子ね」と言われてきたのだから。


周りの子が興味を示す物には全く感心を向けず、代わりに周りが何故?と首を傾げる物にばかり拘っていた。




例えばそう、周りの子達が公園の遊具で遊ぶ中、私は空に浮かぶ雲の形を追うのが好きだった。


決まりきった動きしかしない物よりも、思いもよらない形をたまに見せる雲の方が何倍も魅力的だったから・・・




それはこの歳になってからも変わらない。


やっぱり雲は見ていて面白いと思う。


けれど、観察力と洞察力がついてきてからは雲を見るのと同じくらいに人間もまた興味を引く対象になってきた。


でも誰でもいいってわけではない。






例えば、あのハクロ将軍とか・・・


見ていて何の面白みも無い。


意外性が無い。


行動がワンパターン。


思考回路が分かり易過ぎる。


観察していて全く面白く無い。



一度そう判断してしまうと、興味はその後一切湧いてこない。







そんな私が近頃興味を引かれる人物。


この東方司令部の大佐であるロイ・マスタングだ。


一番初めに彼の事を耳にしたのは、休憩場にて数人の男性同僚が偶々していた話の中で・・・


まぁその話の内容を完結に述べるなら、「俺の彼女取りやがってあの野郎!あんな奴のどこがいいんだ、顔か顔なのか?!」的な物だった。


部下の彼女を取るなんてどれだけ自分に正直な人間なんだろうとある意味感心したのが最初。


そして興味を引かれ一度その上司の面を拝んで見ようと思い、それが叶ったのはそれから3日と経たぬうちだった。


そもそも彼は目立つ。


きっと今までも目にしてきたことや擦れ違ったこと、もしかすると会話さえした事があるのかもしれないが、残念な事に私は観察対象以外の人間には基本無頓着。


どれだけ記憶を辿ってみても彼が出て来ることは無かった。


だから例え今までに会ったことがあったとしても、私にとっての彼との出会いはあの時だ。


いつものように休憩時間、外の大きな木の下に座り込んで雲を見ていた時・・・


















「何をしているんだね?」






後ろから聞こえてきた声。


思わず周りを確認する。


この場にいるのは私と、その黒髪に黒の瞳の彼のみだ。


なら今の問いは、彼が私に向けてしたものなんだろう。


相手はたぶん年上で、きっと雰囲気からして上司。


なら面倒だからと無視するのはダメだろうと結論付けて短く答える。







「雲を見てました」




「あぁ、今日は天気がいいな」







私の返答に、目の前の彼は少し眩しそうに目を細めて空を見上げた。


こんな反応が返って来るのは珍しい。


大抵は「何故?」と続けて疑問を投げかけられ、「雲が好きだから」と答えればよく分からないといった微妙な顔をされる・・・


だから珍しい。


だから興味が湧いた。


だからいつの間にか問いかけていた。






「失礼ですが、お名前を伺っても?」




「は?」







空を見上げていた彼は、私の問いに驚いたように視線を向けてきた。


何かそんなに驚くような事を口にしただろうか?


別に普通に名前を聞いただけだと・・・・あぁ!






「すみません、私はマイ・セイリィといいます」







名前を訊ねるときはまず自分から名乗るのが礼儀だろう。


そう思い至ってこちらの名を口にすれば、彼はさらに驚きの表情を浮べた。


しかしそれも少しの間だけで、次第にその顔には笑みが浮かんだ。


そして・・・







「私の名はロイ・マスタングだ」






あぁ、この人が?


今私の目の前にいる人が、部下の彼女も平気で横取りする顔だけはいい我らが東方司令部の大佐殿らしい・・・


もしかして先ほど驚かれたのは、大佐である彼を私が知らなかったからかもしれない。


それにしても・・・






「・・・・・・イメージと違う」






思わずマジマジとその顔を見て言葉が洩れた。


そんな小さな呟きも、この距離では相手にももちろん届いていたようで・・・







「私にどんなイメージも持っていたのかな?」






苦笑交じりに問いかけられてしまった。


問いを投げかけられたのなら答えなければいけない。


相手は仮にも上司なのだから。


だから私は思った事をそのまま口にした。







「部下の彼女も平気で取るダメな大佐と聞いていたのでもっと性格の悪さが垣間見えるような人物を想像してました」




「・・・・・・・・・」







私の答えに目の前の彼は浮べていた苦笑顔をそのまま引き攣らせた。


何とも器用な表情が出来る人だ。


しかし不躾な私の言葉に怒った様子も無く、どちらかと言うと凹んだ色の方が強い気がする。


なるほど、他愛無い噂からのイメージを受け流せるほどには器は大きいらしい。







(これは、久しぶりに面白い観察対象になるかもしれない)







思わず私の顔にも笑みが浮かぶ。


しかしいつの間に立ち直ったのか、彼はそんな私を覗き込んで楽しそうに目を細めた。


そして・・・







「好印象、だったかな?」




「・・・・・えっ?」







彼のいきなりの言葉に思考が追いつかずに停止する。


するとそんな私の様子に彼はさらに笑みを浮べて言葉を続ける。








「イメージと違ったのだろう?

では君の持っていたイメージより私は好印象だったのだろうかと思ってね」




「・・・・・・」







なるほど、ただの能無しの女好きというわけではないらしい。


私は改めて目の前のロイ・マスタングという男へと視線を向けた。


世間一般的に言って整った顔・・・だと思う、私にはよくわからないけど。


でもその黒い髪に黒い瞳は素直に綺麗だと思う。


そして裏が読めないこの笑顔・・・


確信を持って言えるのは、この人はハクロ将軍何かよりよっぽどの曲者だ。




だから私は、彼の目を真っ直ぐ見返して答えを口にした・・・・・・・・・
































「出会って3年経つけど、ロイって一緒にいて本当に退屈しない」







始めて私がこの台詞を口にした時・・・


女性に対しては余裕を持った態度で接するを心掛けているらしい彼も、さすがにどう反応すればいいか分からないといった様子で固まっていた。


けれど今は・・・







「最高の褒め言葉だな」







彼が嬉しそうに微笑む程には、私という人間を理解してくれているらしい。


3年という月日を経て、彼は私自身より私の発する言葉の真意を汲み取ることが出来るようになったらしい。


そうでなければ、今のこの関係も成り立つはずがない。




隣から伝わる体温は温かくて、思わず瞳を閉じると微かに揺れるその体。


不思議に思って見上げると、どこか可笑しそうに笑う彼の姿があった。






「どうしたの?」




「いや、あの時の君の言葉を思い出していた」




「・・・あの時?」







首を傾げる私に、彼はゆっくりと答えを口にする。







「『あなた以上の人を、私は見たことが無い』」







それは、出会った日に彼からの「好印象だったか?」という問いに対する私の答えだ。







「私の人生の中で一番の口説き文句だよ。

・・・あの時の君に、そういった意が無かったとしてもね。」







確かに当時の私は、甘い意味合いなど全く含まずに発した言葉だ。


本当にただたんに観察対象として今までで一番面白そうだと思っただけだから。


けれど・・・







「・・・・・今も思ってるわよ?」







私の言葉に、驚いたように目を見開く彼。


そんな彼の様子に一度苦笑を浮かべてから、改めて真っ直ぐとその目を見つめる。







「あなた以上の人を、私は見たことが無いし知らない。

それに、きっとこれから先もそんな人現われやしないわよ」




「・・・・・君は」







それ以降絶句してしまった彼の様子に思わず笑みを浮べる。


私自身より私の発する言葉の真意を汲み取ることが出来るようになっているらしい彼には、私の秘めた想いもきちんと伝わったらしい。








「ほんと、ロイって一緒にいて退屈しない」







だから、彼からいつの間にか向けられていた好意を受け入れて今も隣にいる。


そして・・・・・





(これから先も、ずっと一緒にいるんだろうな)





確信に近い未来を思い描いて、そっと笑みを浮かべた・・・



























<後書きという名の言い訳>



遅くなってしまいましたが、夜桜 沙希さんへ相互記念品です!

ロイ夢で甘&ギャグとのリクだったんですが・・・

あれっ?両方ともどこ行った?(;゚∇゚)

こっこんなリクに添ってないような駄文ですが気持ちだけは無駄に込めてます!!!

・・・・こんなもんで良ければどうぞ貰ってやって下さいませm(__)m

返品や苦情等24時間年中無休で受け付けておりますよ!

ではでは改めまして、これからもヨロシクお願い致します♪



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