未来の自分


それは、ある日の出来事。


いつもと変わらない、暖かな日差しが射す昼過ぎの事だった・・・








ボンッ・・・・・








突如、東方司令部の一室から爆発音のような音が響いた。


だがこれと言って騒ぎ出す者はいない。


音の発信源が彼の・・・ロイ・マスタング大佐の部屋からだったからだ。


ただ数人の人間が、その爆発音の後に続くであろう銃声が聞こえない事に、少し疑問を持ったくらいだった。















始まりは今から20分ほど前の事。


珍しい客が東方司令部を訪れた事から始まった。





「あら、エドワード君にアルフォンス君に マイ ちゃん。久しぶりね。今日はどうしたの?」



廊下でバッタリと出会った3人に、リザは抱えていた資料を軽く持ち直しながら尋ねた。


提出しなければならない報告書もないのに、この3人が来るのはあまり・・・いやほとんどない事なのでリザは軽く目を見開いていた。


マイ がエド達と旅をし始めてからは、ないといってもいいくらいだ。




「あっ、リザさんお久しぶりです!」



マイ はペコッと頭を下げて笑顔で返す。


エドとアルも、その横で軽く頭を下げる。






「今日は大佐に用事があって来たんだけど、なんか執務室にいねぇ〜みてーなんだよな」



エドは頬をポリポリ掻きながら、執務室のドアを振り返った。



そんなエドの横で、アルは首を傾げて尋ねる。




「大佐は何時頃帰られますか?」




だが、アルの質問にリザは答えない。


いや、答えないと言うかエドの言葉を聞いた時からピクリとも動かない。



「えっと・・・リザさん?」



マイ は少し心配になり、リザの様子を窺おうと近づいた。


だが マイ がリザの一歩手前に来た辺りで、リザはスッと顔をあげて マイ に口を開く。



「ごめんなさい。ちょっとこの資料を持って先に執務室に行っててくれないかしら?

・・・・・・・・・・大佐はすぐに捕獲してくるから」



リザはそれだけ言うと マイ に資料を手渡して、銃を構えて今来た廊下を戻っていった。









それから数分後。



軍服に微かな焦げ目・・・たぶん銃弾が掠った跡・・・をたくさんつけたロイが執務室に顔を青くさせてやってきた。



あぁ、やっぱり仕事は真面目にやらないといけないものなんだなとしみじみ思った・・・













「で、私に用事とは珍しいな鋼の」



先ほどまでの引き攣った顔はどこへやら・・・


ロイは椅子に座るなり余裕の笑みを浮かべて口を開いた。



エドはそんなロイの様子に、多少・・・いやかなりゲンナリしながらも机の上に分厚い本を一冊置いた。






「この本のこと、何か知ってるか?」



エドの言葉に、ロイは本を手にとってパラパラと捲る。




「ずいぶん古い物だな。この本がどうかしたのか?」



ロイは訝しげな顔をして、尋ね返す。


すると、今度はアルが口を開く。





「軍の施設跡から出てきたものなんです。大佐なら何かご存知じゃないかと・・・」




アルの言葉に、ロイは暫らく本をジッと見ながら考えを巡らす。


そしてもう一度、本をパラパラ捲る。


だが、あるページでピタリと止まる。



「ん?なんだこの練成陣・・・いやこれは・・・・・」



ロイはそう呟きながら、無意識にその陣に触れようとした。


だがそこでエドと マイ が慌てて止めに入る。





「だっダメ!!!」

「ばっ!大佐!!!」




二人の勢いに、ロイは思わず本を机の上に落としてしまった。


だがエドと マイ の勢いは止まらずに、二人は机の上に突っ伏した。












そして先の「 ボンッ・・・・ 」という爆発音のような音だ。



この瞬間、いつもと変わらない昼間の空気が180度と変わったのだった・・・




















ゴホッゴホッ・・・


ゲホッゲホッ・・・





爆発音と共に部屋中に白い煙が充満した。


ロイとリザは素早く口元を押さえて窓を全開にする。


だが、少し煙を吸ってしまったのか苦しそうに咳をする。





数十秒後。


部屋から煙が完全に去ると、そこにはエドと マイ がポツリと立っていた。





「えっ?!・・・・・・・兄さん?」


アルの戸惑った声が部屋に響いた。


ロイとリザは驚きすぎて言葉が出ないのか、ただ目を見開いて二人の姿を見ていた。







そう、3人の目の前にいるエドと マイ は、3人の知っている2人の姿ではなかった。










「どっどうなってるんだ?」


エドはどこかポカンとした表情で、辺りを見渡す。


だがその声は先ほどのものよりも落ち着いた、大人びたものだった。






「エド・・・・・・・」


マイ はどこか戸惑った表情で、エドを見上げて口を開いた。


そう、見上げて・・・


先ほどまではそこまで身長に差はなかった二人だが、今は明らかにエドの方が高くなっていた。







「どうなっているんだ?」



ロイの訝しげな声が、部屋に響いた。







そしてロイの目の前には、20歳ぐらいにまで成長したエドと マイ の姿があった・・・


















「つまり、この本に書かれている陣に触れるとなんらかの効力が発揮されるというわけか・・・」



ロイはアルの説明を聞き、本をジッと見つめる。






「はい。昨日の夜、兄さんが触った陣からは牛乳が・・・

陣が発動した後に説明文のようなものが浮かんできたんですけど、それによると触った者が一番嫌悪感を持っているものが現れるとかで・・・」



アルは昨日の夜の騒ぎを思い出しながら、どこか疲れきった様子で口を開く。


ロイはアルの言葉を聞いて、再び本を手に取り先ほどの陣が書かれていたページに目を落とす。


そこには簡単に言うと「未来の自分と入れ替わる」という内容の説明文が浮かび上がっていた。


ロイがいろいろと考えを巡らせていると、突然不機嫌そうな声が発せられた






「つまり、俺らは無意味に巻き込まれたってわけか・・・」



エドのあまりの言い方に、 マイ は慌てて口を挟む。



「エド、いくらなんでもそんな言い方ないんじゃないの?」


マイ の言葉に、エドはさらに機嫌を悪くさせる。



「おまえな〜〜〜!

さっきまでいい雰囲気だった所を、いきなり過去に呼び出されて誰が機嫌よくしねーといけねぇ〜んだよ?!

たく、久しぶりに マイ が素直だったっていうのに・・・」





エドの言葉に マイ はボッと顔を赤くさせ、アル、ロイ、リザは二人を見つめた。





「なっ何言ってるのよ?!私はそっそんなつもりなかったんだからね!!!」



マイ は顔を赤くさせたまま叫んだ。


だがエドはそんな マイ をニヤリと笑いながら見て口を開く。





「そうか〜?けっこー乗り気だったじゃねぇ〜か・・・つーか今さら恥ずかしがるような事でもねぇ〜だろ?」


エドの言葉に、 マイ はさらに顔を赤くさせた。


もう恥ずかしさからか涙目になっている。



「恥ずかしがるなって・・・・エドがそんなんだから、この前もウィンリィにからかわれたんだから!!!」




「それはおまえがあんな薄着してるからだろ?!」


「だから見えるようなところに付けるなっていつも言ってるじゃない!!!」


「おまえがあんな服着なきゃいいだけの話だろ?!」




ほっといたら何時までも続きそうな言い合いに、アルは3人を代表するような形で戸惑いながらも口を開く。





「・・・・・・・・・・もしかして(てゆーか絶対)・・・未来では兄さんと マイ 付き合ってるの?」



アルのその言葉に、エドは「あ〜」と思い出すような仕草をしてから口を開く。



「そうか・・・まだこん時は付き合ってなかったな・・・」



エドのその肯定を意味する言葉に、ロイは言いようの無い気持ちが浮かんできた。



無理やり表現するとすれば、大切な妹、または娘を、取られそうだとは思っていたが絶対に取られたくないと思っていた相手のモノになってしまったのを突然知ったような気持ちだ。


なんとも耐え難い・・・






ロイは一人額に手をついて、その複雑な気持ちを整理しようとした。



だが、その様子を見ていたエドはピーンッとある事を閃いた。





(邪魔されたし、等価交換だよな大佐)




エドがニヤッと笑ったのに気づいた者は、悲しいことに誰もいなかった・・・

















「なぁ大佐・・・」



エドは真面目な顔をして、急にロイに近づいた。


そしてロイにしか聞こえないほどの小さな声で話しかける。


ちなみに マイ はリザと何やら楽しげに話しをしている。




「なんだ、鋼の?そんな深刻そうな顔をして・・・」


ロイはエドの様子を見て、訝しげな表情をする。


エドはそんなロイを見て数秒黙った後、意を決したような顔をして口を開く。




「・・・・・・・俺からの忠告だけど、中尉大切にしたほうがいいぜ?」




エドの言葉に、ロイは表情を固めた。





「・・・どういう事だ?」



無表情を装っているが、エドには焦っているのが手に取るように分かった。



笑いたくなる気持ちを抑えて、なんとか深刻そうな口調で答える。





「だからそのまんまの意味だよ・・・大佐が他の人とデートばっかりすっから、中尉呆れて他の男の所に行くんだぜ?」



エドの言葉に、ロイは数秒黙った後小さく笑って口を開く。






「中尉に限ってそんなことあるわけがないだろう・・・・だいだい誰の所に行くと言うんだ?」



余裕そうに振舞っているが、無理をしているのは見ていて明らかだった。


顔が妙に引き攣っている・・・


エドはどこか同情するような表情を作ってから静かに答えた。




「ハボック少尉だよ・・・少尉あれでけっこう女の人には優しいからさ・・・」




エドはそこまで言うとロイの様子を窺おうと横目でチラッと見た。


案の定、ロイは顔面蒼白・・・


もちろんリザはハボックの所になどには行かない。


だが、これくらいの仕返しは当然だろうと思って、ロイに見えないように笑った。


これに懲りて少しはデートなどを控えたら、東方司令部のためにもなるだろう・・・











だが、人間立場が上になると図に乗るというものだ・・・


エドは今までの様々な仕返しと言わんばかりに、さらに口を開いた。





「しかも大佐、中尉にフラれたショックから仕事どころじゃなくなってさー、もう出世どころじゃねぇ〜し・・・」


ロイは目を見開く。






「おまけに自棄で賭けやってボロ負けするし・・・」


ロイは頭を抱える。





「中尉と少尉の結婚式の当日なんて、酒飲み過ぎてぶっ倒れるし・・・」


ロイはとうとう撃沈した。




「あ〜それに・・・」







エドが次の言葉を発しようとしたその時・・・






「何嘘ばっかりついてるのよ!!!」



突然後ろから怒気を含んだ声が響いた。


エドが慌てて振り返ると、腰に手を当ててこちらを睨んでいる マイ の姿があった。





「 マイ ・・・・・」



エドは「はははっ・・・」と誤魔化し笑いを浮かべたが、もちろんそんな事で マイ は誤魔化されない。




「誰と誰が結婚するって?リザさんはハボック少尉と結婚なんてしないでしょ!嘘ばっかりついてどういうつもり?」



マイ はエドを覗き込むようにして問い詰めた。



だが「大佐に仕返ししたかった」なんて答えられるはずもなく、エドは苦笑いを浮かべることしかできなかった。









しかし・・・・・・・












「ほぉ・・・ずいぶん口が達者になったものだな鋼の・・・・」



後ろから冷たく響く声・・・


エドの表情が固まったのは言うまでもない。









数秒後、本日2度目の爆発音が東方司令部中に響き渡った・・・


その後、エドがどうなったのかはロイ以外誰も知らない・・・




















響さんすみません!!!
リクとかけ離れたものができてしまいました・・・
しかも、なんとも流れが強引・・・
こんなものでよければ、どうか貰ってやって下さい!
感謝の気持ちは沢山詰めたつもりなんですけど・・・
もっもちろん返品可能です!!!

ちなみに、エドとヒロインちゃんは1日で元に戻りました。
皆の記憶は・・・・・・・・・消えてたほうがエドのためですよね・・・



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