平行で、垂直で、


大人のような恋がしたいと憧れたことがある。


互いが互いを必要とし、適度な距離をとりつつも決して離れない。


たまには駆け引きなんかもして、相手の気持ちを再確認して・・・・





・・・・・まぁ、そんな恋は私にはまだ早過ぎるっていう自覚がある












「・・・正直、ベクトルとか将来使わない知識だと思うんだよね」



「ほぉ・・・」



「ベクトルの平行条件だとか垂直条件だとか一体誰が何のために使うの?

日常会話で使うと思う?

ベクトルの何々がさぁ〜とか」



「さぁな」



「そんな役に立たない知識より、もっと大切なことがあると思うのよ私は!」



「へぇ、例えば?」





「・・・・・・上手なネットサーフィンの仕方・・・とか?」





「・・・・・・」





この沈黙と、私の事を心底馬鹿だと思っているであろうエドの視線が痛い。
















ここは私の部屋。


今日は休日。


いちおう今年から付き合い始めた私達なら、甘い空気になってもいいような環境なのに・・・・・・・・何、この冷めた空気は・・・








これも全て来週に迫っている期末テストが悪い。


ベクトルが悪いんだベクトルが。


まぁエドに言わせてみれば、「根本的なところから理解出来てないおまえが悪い」らしいが・・・





エドは私から視線を逸らして盛大な溜息をついた。









「・・・・・いいか?将来云々の前に来週のテストのために覚えるんだ!

まず10分以内にこの問題解けよ?

今度のテストにぜってー出るからな!

これ解けねぇ〜とマジで赤点決定だからな!」




「・・・・努力させて頂きます」







甘い空気も何もあったもんじゃない。

















何度も説明してもらった。


何度も説明図付きで教えてもらった。


さっきは理解できたと思ったのに・・・・






(・・・・・・どうして解けないの)





今目の前に広がる問題が何か幾何学的な模様にしか見えなくなっている。


正直投げ出したい。





でも私の背後にあるベッド脇に移動して座っているであろうエドの存在を思い出すと、さすがにそんな勇気は出てこない。


・・・・・怖くて彼氏を振り向けないってどうよ?


耳を澄ますと本棚から適当な本でも見繕ったのか、パラパラ音が聞こえる。





あっ、何の本だろ?


エドの興味をひくような本うちにあったかな?






・・・・・って、こう集中できないからダメなんじゃない!!


集中集中!


集中してどうにかなるような問題でもない気がするけど、それぐらいしとかないとほんと呆れられそうな気がする。






・・・・・ヤダよ、ベクトルなんかのせいで別れるとか





「 ねぇ聞いたぁ?2組のマイちゃんとエドワード君、数学のベクトルが切欠で別れたんですって〜 」



「 エルリック君成績いいものね〜。彼女が馬鹿だとやっぱり・・・ねぇ? 」




・・・・・あっヤバイ、ちょっと泣きそう



本気で凹みそうだから考えるの止めよ






見てろベクトル!おまえなんかに人の恋の邪魔をされてたまるか!














(あ〜なんか出た!答えっぽいの出た!!もういい!充分だよ私!!!)



エドに教えてもらったはずの知識を必死に掻き集めて、何とかそれらしい数字を出すことが出来た。


見たかベクトル!これが私の実力だ!!!





(って、もう20分も経ってる・・・・)




目の端に留まった時計の針の位置に、思わずガクッと肩を落とす。


エドは10分以内って言ったのに・・・






(これが私の実力か・・・)




少し泣けてくる。


って、ちょっと待て


・・・・・・・・・・20分?


さすがに倍の猶予をエドがくれるとは思えない。


まさか呆れて帰った?!







「っ!」






辿り着いた思考に、慌ててバッと後ろを振り返る。


そしてそこに広がる光景に・・・・







「ぎゃーーーーーーーちょっ、何見てるのエドワードさん?!」





思いっきり叫んだ・・・


そして焦ってエドの手からそれを奪い取ろうとしたが、寸前の所で避けられてしまった。


って何で避けるのよ!!!






「エドっ!ちょっ、それ返してよ!」




ジリジリと詰め寄りつつ隙をついて取り返そうとする私とは正反対に、エドはいたって飄々とした様子で口を開く。








「いいじゃねぇか、アルバムぐらい」





「ダメーーーー!そんな羞恥耐えられません!!!」






やっぱり見間違いじゃなかった!


本棚の隅の方に置かれていた私のアルバム!


それをエドが見ている?




・・・・・・・・・・・




あぁ〜〜〜〜考えただけで顔から火が出そう!






「返して返して返して返してーーー!!!」






必死になって手を伸ばすが、上手い具合にかわされる。


こっちはこんなに必死だっていうのに、エドといったら何ていい笑顔!!!





「いいじゃねぇ〜かちょっとくらい。

これとかこの間の研修の時のだろ?あとは・・・・ん?」






「っ!」





エドがページを捲ったところで動きを止めた。


・・・見てる、むしろ凝視してる。


研修の次のページ。


それはつまり一番最後のページと言う事で・・・


一番最後のページと言う事は、つまり・・・・











「・・・・・・・・・・なんで俺の写真があるんだよ」





「ギャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」







バッと今度こそアルバムを奪い返す。


胸に抱え込みながら、もう顔から火が出ているような熱さを感じながら背を向ける。






「おい、マイ。今の・・・」




「言わないで!むしろ忘れて!

今見た物も記憶から消去して!抹消して!

クリックして削除よ!ゴミ箱いきよ!

簡単でしょ!

さぁさぁさぁさぁ!頑張ってエド!!!」






エドの声を遮って叫ぶ。


軽く、いや盛大にパニックに陥っている私は訳の分からない事を叫んだ気がするがそんな事を気にする余裕はない。


とにかく、私は今かなり恥ずかしい


この状況をどうにか出来るならなんだっていい!




だが・・・・






「・・・・・・・いや無理だろそれ」





呆れたようなエドの声。


もう、本当に泣きたくなってきた。


いや、実はちょっとうっすら涙が浮かんでいる気がする。


いいじゃない、好きな人の写真くらい持ってたって!


付き合っている今も宝物にしてたっていいじゃない!






「エドのバカ〜〜〜〜」




「何でだよ!つーかそれより、その写真どうしたんだよ?」





「・・・・・・・・」







言えるわけが無い。


エドの幼馴染、私にとっては友達のウィンリィ。


まだエドに片思い中だった頃、ウィンリィに頼み込み、半ば泣きつきながら貰った数枚の写真達。


私はアルバムを抱え込んだまま、必死に目を背けながら口を開く。






「・・・・・・・・・・サ、サンタさんがクリスマスに」




「何がサンタだよ。どうせウィンリィだろ?」




「分かってるなら聞かないでよ!!!」






どうしてこの人って、たまにこんなに意地悪なんだろう!


思わずエドに睨むような視線を向ける。


だが、目の前には実に楽しそうな笑みを浮かべたエドワードさん・・・・・







「・・・・・なっ何でしょうかエドワードさん。そのすごくいい笑顔は」




若干身を引きながら、それでも目を逸らすことが出来ず問いかける。




「ん〜〜〜?いや、おまえばっかり俺の写真持ってるって等価交換の原則に反するよな〜ってな?」



「いやいやいやいや、こんな事に等価交換も何もありませんから!

そっそれよりエドワードさん?

そろそろベクトルさんもお待ちかねですし、私も赤点はご免こうむりたいところなんですが・・・・」




ジリジリと近づいてくるエドに、私はアルバムを先ほどより力を入れて抱え込みながら後退する。






「ベクトルなんて将来使わない知識なんだろ?

いいじゃねぇ〜か別に。

赤点取らねぇ〜くらいには後でちゃんと教えてやるからよ」




「いえいえいえいえいえ、考え直してみたんですがやはり何事も勉強だと思うんですよね!

勉学は学生の本分ですし!

こう、「赤点取らなきゃいい!」なんて考え方間違ってると思うんですけど!

べっ勉強しましょうエドワードさん!私、とっても勉強したいなぁ〜」




お互い笑顔で口を開く。


だが、私の笑顔は若干、いやかなり引きつっているはず。


もう自覚がある。


顔の筋肉が悲鳴あげてる気がする。


おかしい・・・・・


これが恋人達の間に流れる空気だろうか?






「ね、エドワードさん?

そんな怖い笑顔止めて机に向かいましょう!

私今ならベクトルさんと仲良く出来そうな気がします!

ベクトルさんを理解できそうな気がしますから!!!」




「・・・・・・・本当だな?」





「本当です!!!」





エドの問いに、思いっきり首を縦に振って肯定を示した。


その途端、その場に流れていた緊張感のようなものが一気に和らいだ。


それを感じ取って、チラッとエドの方を恐る恐る窺う。


すると・・・・






「なら、さっさと始めるぞ!とりあえず、今日中に問題集10ページは進めるからな」




「・・・・・・・・はい」





さっさと机に向かうエドの姿。


なんか、上手いことエドに嵌められた気がする。


そうだよね、よく考えて・・・・いやよく考えてみなくてもエドが私の写真なんか欲しがるわけないか・・・


体に入っていた力がガクッと抜ける。


もう、なんでこんなに疲れないといけないんだろ・・・






「あ〜あとなぁ」




「・・・・何ですか?まだ課題増やすおつもりで?」




少し恨みがましいような目でエドの方へと視線を向ける。



「いや、それは後で考慮する。」




考慮するのか・・・・


思わずガクッと肩を落とす。


そんな私の耳に、エドの声が届く。







「それより・・・・・・・・・・・・・問題一問間違えたにつき、写真一枚だからな」










・・・・・・・・・・・・・・・・えっ?



脳が一時停止する。





「ほらっ、時間ねぇ〜からとっととするぞ!」




「ちょっ!エド?!エドワードさん?!いっ今何て?

てか、ほっ欲しいの?私の写真欲しいの?」




「だぁ〜〜〜〜〜いいからまずはこの問題から解けよ!」




「待って!ちょっ、いきなりこんなの解けないよ!」




「さっき10分以内にやれっつった問題だろーが!!!!」





















大人のような恋がしたいと憧れたことがある。


互いが互いを必要とし、適度な距離をとりつつも決して離れない。


たまには駆け引きなんかもして、相手の気持ちを再確認して・・・・





・・・・・まぁ、そんな恋は私にはまだ早過ぎるっていう自覚がある








そんな恋が出来なくても、ゆっくりと進んでいければいい・・・


隣にこの人がいてくれるなら、ゆっくりとだけど確実に前に進めそうな気がする。


それが今は、何よりも心地いい・・・

















<後書きという名の言い訳>



相互記念の品として「 Red Ling 」のもやしまめ様へ書かせて頂いたんですが・・・・

もう何か・・・・・・ほんっとうにすみません!!!

無駄にグダグダ長いだけで甘くも何とも無い・・・・(遠い目)

自覚あります、でもスランプの私にはこれが限界です(おいおい・・・)


・・・・こんなもんで良ければどうぞ貰ってやって下さい!

いやもう、返品や苦情24時間年中無休で受け付けておりますので!!!

こんな私とサイトでよければ、どうぞこれからもヨロシクしてやって下さい(>_<)



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