Side A - 10.5


初めは興味本位だった。面倒事が減るのならそれでいいと思っていた。いつの間に君はこんなにも僕の中にいたのだろう。



大会の表彰式、僕は当然真ん中に立つ。優勝以外はあり得ない、百戦百勝。それが帝光中学。もう何度目になるかわからないトロフィーを受け取り掛けられる定型文の言葉に義務的に頭を下げた。

夏の全中2連覇を成し遂げた時はチームメイトと手を取り合って喜んだが、今はもう仲間と勝利を分かち合うことはなかった。


「今日も楽勝だったっスね〜」

「ホントめんど〜〜」


控え室で帰り支度をしながら1試合ほとんどフルで出場していたはずのメンバーも疲れたような素振りを見せることはない。粗雑に置かれたトロフィーには誰も興味を示さなかった。


「お前たち、よくやった」

「でも赤司よぉ、今日はいつもよりノリノリだったじゃねーか」

「そりゃあ、ねぇ?赤司っち!」

「僕はいつも通りだよ」


えぇ、と抗議の声を上げる黄瀬を無視して使っていたタオルを畳んでカバンにしまい込む。確かに思い返せば誰かに応援に来てもらうことなんて母以来のことだと気付く。もちろんクラスの友人や自分に好意を寄せて試合を見に来てくれる女子生徒はいたけれど自ら招いたことなど記憶を遡っても見つからなかった。


「…そういえば赤司くんの彼女さんをさっきお手洗いに行った時に見かけましたよ。1人だったようですが」

「迷子だったりしてぇ〜」


ここ無駄に広いしよく迷うんだよね〜、お前はもう少ししっかりするのだよ、と呑気に言う紫原に緑間がいつものように叱りを入れる。


「藤原さん1人じゃカワイイしナンパされちゃうかもしれないっスよ!探しに行って来なよ、赤司っち!」


明らかに面白がっている黄瀬にとやかく言われるのはわかっていたが、紫原の言う通りこの会場は広く初めてなら迷ってもおかしくはない。1人で来ないように忠告してきちんと守ってくれたと思ったのにこれでは意味がない。


「…そうだね。真太郎、ここは任せてもいいかな」

「あぁ、わかったのだよ」


ジャージを掴んで肩に羽織りながら控え室を出る。彼女は一体何をしているというのだ。

小春の姿を探して少し歩けば他校の選手と歩く小春の後ろ姿が見えた。大きめの荷物を持った彼女は何か楽しそうに話しているように見える。名前を呼べば彼女は振り返り、つられて隣の選手も振り返った。


「征くん!会えてよかった。探してたの!」


自分だとわかれば花が舞うような笑顔を見せてくれる小春から隣の男に目を向ける。少し前にうちと当たった学校の選手じゃないか。まるで睨むようにこちらを見ているが、過去の対戦相手からこんな視線を受けることはいつものことだった。


「君は?」

「控え室まで案内してもらうところだったんだ。ありがとう、助かったよ!」

「そうか、僕からも礼を言おう」


そう言えば彼はヒラヒラと手を振って去っていく。それにニコニコと手を振り返す小春を見ると何故だか心がモヤモヤとした。その瞳が自分を写していないことに苛立って短く名前を呼べばようやくこちらを見上げてくれた。


「こんなところに一人でいたら危ないだろう。さっきのように、」


そこまで言葉を紡いでから我に返って口をつぐんだ。小春は首を傾げて続きを促してくるがまぁいい、何か用かい?と不自然に誤魔化すことしかできなかった。

僕は一体何を言いかけたというのだ。彼女が誰かに声をかけられていたって、笑顔で応えていたって、そんなこと僕の知ったことじゃないというのに。

差し入れを持ってきてくれたのだと言う彼女に礼を伝えて受け取る。ずしりと重みのあるそれはかなりの量があるようだ。


「試合はどうだった?」


どうだったも何も、圧倒的で見ていてつまらなかっただろうと思うが小春から返ってきたのは予想していない言葉だった。


「すごい、格好良かったよ。それから楽しそうだった。征くんはバスケが好きなんだね」


偽りのないその笑顔と瞳で見つめられてオレの気持ちが揺らいだのがわかった。


「……!…あぁ、そうだね。オレはバスケが好きだよ」


勝ち続けなければバスケを続けることは出来ない。負けることは許されない。たとえそれがチームメイトでも。だから僕はもうただ楽しいだけでバスケをすることは出来ない。だけど彼女は気付いてくれた。久しぶりに口にしたその言葉はもう二度と思うことは出来ないのではないかと思っていたのに。

少しの間口を開くことができなかった僕を見て小春は遠慮がちに口を震わせたが言葉を発することはなかった。今日は少しだけ昔を思い出していけない。

頭を巡る思考を強引に消し去ってこの会話はもう終わりだと言うように笑って見せた。


「ところで、友人と一緒だったんじゃないのかい?」

「あ、そうなんだけど。あっちで待ってるから行ってきてって言われちゃって」


人使い荒いよね、と呆れながら笑う小春に、きっと彼女たちは僕と二人にさせてあげたかったんだろうな、と他人事のように思う。


「そういうことか。じゃあ行こうか」


控え室とは逆方向を向き小春に空いた方の手を差し出せば、やんわりと拒否されてここでいいよ、と言われた。


「また迷いたいのかい?」


我ながら少し意地悪を言った自覚はある。断りにくい理由を選べば案の定小春は少し迷った後に僕の手を取った。

また君が誰かに声をかけられたら、と思うと心が落ち着かなかった。だなんてそんな気持ちを口にすることは出来なかった。だってこれではまるで、君のことが本当に、

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