Out of the blue.


「監察課が、廃止…」

出勤してメールを確認すると、ACCA本部の全ユーザーに送信されたメールを開く。内容は監察課が今月をもって廃止になるという旨だった。遂にか、と思うと同時に昨日お茶をしたケリの顔が思い浮かんだ。

「大丈夫、かしらね…」

案の定、この日はどこへ行ってもこの話で持ち切りだった。この平和な世に何か起こるというのか。監察課は不要だ、そんな声。何かあった時にこそ監察課はそれを一番に見つける事が出来る。監察課は必要だ、そんな声。それから課内の人間が離れ離れになってしまう事を嘆く声。

「あの話題で持ちっきりですね」

「ええ…」

課の部下と美味しいと話題のACCAバードン支部の食堂に来てもあちらこちらからその話題が聞こえてきた。

「廃止の件、どう思います?」

「私としては…遂に来たかと思ったくらいだけれど、どうなのかしら…」

「平和ですものね、今のご時世…」

そんな話をしていたのに次の日に出勤し、メールを開けば監察課廃止はなしになったとのメール。この1日の間に何が起きたというのよ。

「副課長」

「うん?」

「課長がお呼びです」

「…ありがとう」

中央広場に佇みタバコを吸うジーン・オータスをそれとなく見ていればエルシーがその様に言ってきた。課長の所に行けばACCAバードン支部の警察局の新人局員を調べる様にと資料を渡された。

「検挙数トップか…」

そこまで急ぎではないという事でとりあえず置いておこう。携帯電話がメールの受信を知らせる音が鳴った。

「ん?」

モーヴ本部長から今晩は暇かな?、というメールだった。ACCAのアドレスの方に送って来ない当たり、仕事とはまた一線を引いた用事なのだろう。空いています、と簡単に返信し携帯電話をポケットに入れた。

「何かしら…」

モーヴからのこの様な呼び出しは初めてではない、色々仕事以外の事で彼女から調査を依頼される事も多かった。一般的に見て、本部長ともあろう人と私はどう考えても一緒に居る事は考えにくい。だからか呼び出されるのはレストランの個室であったり、こじんまりとしたカフェであったり彼女の家であったり、あまり人目につかない場所が多い。

・・・

呼び出されたのは小さなカフェの個室だった。指定の時間に着くと、既にモーヴは個室の席についていた。

「急に呼び出してすまない」

「いえ」

「この前の辞令、どうだった?」

「何の嫌がらせかと思いました」

口が裂けてもまともな答えは出てきそうにない。素直に口にすると彼女はフッと微笑んだ。

「おや、何かあったかな?」

「あなたならもうご存知でしょう…例の通り雨です」

私に水を浴びせた彼女を通り雨と隠喩していた事をあの晩の時点でモーヴは何となく分かっていそうであった。実際どうかは分からなくとも、だ。

「君は雨に性別などないと言った」

「ええ、敢えて言う必要もないと思ったので」

そう言うと彼女は少し笑い、君と彼女ならきっと上手くやれる。と穏やかに言った。私は上手くやれる気がしません、と言うとまたモーヴは笑った。

「そのエルシー・オルコットについて君に話しておきたい事があってな」

わざわざ職場外で呼び出して話しておきたい事とは何なのだろう。何でしょう、と問うとモーヴは髪を耳にかけ、話し始める。

「オルコットが付き合ってる彼の事は知っているな?」

私が頷くとモーヴは真剣な顔つきになった。その彼の事で最終的な判断を下したのは当然本部長だ、故に彼女も彼は知っている。

「まず彼女を君の下に異動させたのは、君の目の届く所にオルコットを置くためだ」

「それは、…またどうしてですか?」

一体何故私がエルシーを見張れる環境にするためにわざわざ彼女を内務調査課に異動させたというのか。また何だか厄介そうな匂いがする。

「エルシー・オルコットの彼、シリル・グレンヴィルの裏に大きなタバコ密売組織がついている事が分かった」

モーヴが声を抑えて言う。そんな名前だったなあと呑気に思い出す。

「当然だがオルコットも彼の素行は知っている」

「…寧ろ彼女の方もそれに関わってるという可能性はありませんか?」

「ゼロではないだろう…しかしどちらかと言えば彼女はグレンヴィルに逆らえない、とする方が自然だ…あくまで私の推測だが」

エルシーにあの人やめておいた方が良いわ、と言った時に彼女があなたに何が分かるのよ、と言っていた事を思い出す。この言葉だけでは流石に白なのか黒なのかを見定める事は難しい。

「どちらにしろ、内務調査課に彼女を置いた方が監視がしやすい…そういう事ですね?」

「ああ、君にエルシー・オルコットの監視を頼みたい」

「内務調査課、ではなく私、ですか?」

そう問えばモーヴは頷いた。何故私である必要があるのだろう。内務調査課の誰かでも問題はないはずだ。

「オルコットは内務調査課の副課長である君の事を良く思っていない」

「そこまで知っているのですね…調べられたのですか?」

尋ねると、彼女は頷いた。モーヴには優秀な秘書たちが居る。同じコロレー区の出身だがどう頑張っても敵わない程、鋭くて仕事の出来る人たちだ。

「君にだからこそ見せる一面もあるかもしれない、と私は考えた訳だが…」

「それはどうでしょうね…」

課内に置いた方が監視がしやすいとはいえ、犯罪に関わっているかもしれない人間と仕事をするのはやりにくい。だがそうも言っていられなさそうだ。

「いずれ君にはグレンヴィルが関わっている組織についても調べて貰わねばならないだろう」

「分かりました」

モーヴは本気でエルシーの彼が関わる組織を追おうとしている。ただタバコを密売している組織であるなら警察局に任せれば良い話なのだが、今回はACCA本部の人間が関わっているかもしれない。だから放っておけない、彼女はそういう強い信念と正義を持つ女性だ。ふと、私の仕事って何だっけ、と疑問が浮かんだ。それと同時に、だからモーヴがわざわざ職場の外に呼び出したのだと納得出来た。

(もしかしなくても私、また厄介事に巻き込まれてるわよね…)



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