笑顔がむかつく。そう言えば君はまた笑った。ぱたぱたと揺れる尻尾まで見えそうで、その事にまた苛立った。まるで主人と犬の関係のよう、だなんて。

ぎゅうと抱きしめられても今更抵抗する気なんて無い。体格差からしても、僕のこの薄っぺらい体ではたかが知れているのだし。至近距離でまたにっこりと微笑まれて吐き気がする。そうしてお前は僕にキスをするのだろう。もう全て先が読める。ワンパターンな行動もまた僕を苛立たせる要因だった。触れる生暖かい唇はいつもの通りにかさついている。

「死ねばいいのに」
「ヒドイコトヲイウナァ。」

あからさまに棒読みされて思わず舌打ちをした。本当に死ねばいいのに。君が望みさえすれば、ナイフで刺して、ぐちゃぐちゃにしてあげるのに。僕が自らしてあげるんだから、僕の事が大好きな君は嬉しい筈でしょう。

「うん、嬉しいよ」

お前にされるんだったら、ナイフで八つ裂きだってロープで吊されたってなんだって嬉しいよ。そう笑顔で言う君の表情が読めない。嘘でしか無いその笑顔を剥がせ。


僕が君を殺したいと思うのと同じくらいに、君になら殺されてもいいと思っている事を、君は知っているのだろうか。いつだって君は笑って僕の言葉を肯定する事しかしないから、本当の君を僕は知らない。無責任な神に召されるくらいなら君に一欠片も残さず食べて欲しいんだと言ったら、君はどんな表情をするのだろう。笑って承諾するのだろうか。

何もかも受け入れてくれる笑顔にいつしか依存して、離れられなくなっていた。僕に依存している振りをして逆に依存させるなんて、やられた。
抱きしめられても抵抗しない代わりに僕から抱きしめる事は出来ない。殺したいくらい大嫌いな君に殺されたいのは君の事が大好きだから。君の笑顔が響かせる鈴の音に、その先の優しさを見越して涎を垂らした。
君の笑顔は僕の首輪だったのだ。
パブロフの犬


 
2011/01/21

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