埃っぽい部屋に茜色が降り注ぐ。空気中の塵がきらきらと反射する様子が綺麗だと思った。僕の愛した人がただ君であったというだけなのに、それだけで僕の世界はこんなにも軋む。


「お母さん、泣いてる」
「ね、聞こえる」
「うん」
「父さんは、僕達なんかもう息子じゃないってさ」
「ふうん」

正直、ぜんぶどうでもいいのだ。もういつでもこの家を出られるくらいには成長したつもりだし、皮肉にも、彼らのお陰で。大体僕達はそれこそうんと幼い時から互いの間に生まれた感情に気付いていたというのに、あの人達は気付くのが遅すぎるだろう。

部屋の隅で膝を抱えているのをトンと倒して、フローリングの床に組み敷く。汚れた瞳には茜色が反射して僕を射抜いていた。言葉など無くしても分かる、君の考えていること、君の欲していること。
ゆっくりと顔を近付けて、ゆっくりと口付ける。ぬるりとした口腔は羊水に包まれていた時の記憶を呼び覚ます。僕達がまだひとつのいきものだった時の記憶を。


視界の端に映る写真立てを踏み潰した。派手な音を立てて割れたガラスが素足に突き刺さって痛いけど、そんなの気にしない振りして中の写真を取り出す。バイバイ、僕の大切な記憶。血塗れた家族写真を引き裂いて君に微笑んだ。明日、新居でも探しに行こうか。
愛しいだけで報われるなら


 
2011/01/15

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