結露した窓から水滴が垂れるのを眺めては、腹の中に沸き起こる苦い感情を噛み潰した。そうして、自分から目を背ける事で自分は自分を守ってきた。いや、今となってはもう、それは自分だけではなくなっているのかも知れない。床で寝そべるそいつは、寒いと呟いたきり動きやしない。

それはいつの日の事だったか、今となっては到底思い出せないのだけど。その日は今日のように雨が降っていた。
要は勘違い、だったのだ。浮気をされたと思い込んだ俺はこいつを無理矢理に組み敷いて首に両手を掛けた。俺だけのものにならないのなら今壊してしまって、そうすればもう他の奴には触れられないし、そうすればこいつを一生俺だけのものに出来る、だなんて、とんだ勘違いだった。結局こいつを殺せるわけもない俺は自分の思考回路の恐ろしさでも愚かさでもなく意気地の無さに震える手を離し、そいつの上から退いてその場にうずくまった。もはや意味の分からない涙を流す俺をそいつがどんな目で見ていたかなんて、その時の俺は気にも留めていなかった。

寒いんなら服を着ろよと投げ掛ければ、そいつはばたばたと腕を動かしてやがて触れたリモコンで暖房を付けた。そしてまたしばらく死体のように動かなくなったと思えば、地を這うような声で腹が減った、とぼそりと呟いた。あんたの不味い料理が食いたい、と。なあ、俺の料理はもうお前の思ってる程不味くはないんだよ。
結露した窓からはどろどろと水滴が流れ出す。窓の奥の景色がばらばらに溶けていって、そのまま無くなってしまうようだった。でも下に溜まった水滴は着々とその桟を蝕んでいく。べこべこに歪んで、しまいにはそこから剥がれてしまう。それに気付いていながら、結露した窓を拭わないのは、何故なんだろうな。

俺の作った炒め物を咀嚼しながら、やっぱ不味いしなんて言いながら顔を綻ばせる。お前にとっては俺の作った料理が美味かろうが不味かろうが関係無いんだろうな。ぺろりと一皿平らげて、やっぱり不味くなかっただろうにお前はそれに気付かない。
俺の作ったものなら何でもいいと、言えばいいのに。毎日貴方の作った御飯が食べたいと、言えばいいのに。俺が一生言えなくなってしまった言葉を、お前が言ってくれればいいのに。
なにひとつとして


 
2011/01/08

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