年もとっくに明けたというのに隣に座る親友はまだずるずると年越し蕎麦を食っていた。だからそんなに作るなといったのに。本当に馬鹿な、俺の、親友。


「なに。お前も食うか」

「いらねーよ。馬鹿だなーと思って見てたの」

ひでー、と口先だけで文句を垂れて、また蕎麦を掻き込む。さっきからつけっぱなしのテレビは下らない正月特番らしき映像と音声を垂れ流している。

「しっかしよぉー。初詣もおみくじも巫女さんもなーんも無い正月だなおい。お前初詣とかいいのかよ」

「別に。正月とかあんま興味ないし。またカレンダーが振り出しに戻っただけではいおめでとうございますってよく分かんねえし。つうか巫女さんって何だよ」

「お前捻くれてんなー。はー、巫女さんと姫はじめしてえ」

バーカと一言放って俺はまた本に視線を戻す。聞こえるのはテレビの音と親友が蕎麦を啜る音だけになる。
本当は安心していた。こうしていつもと変わらず二人で過ごせている事。互いに予定も相手もなく、暮れから親友の家に入り浸っていつの間にか年を越し、越した今もこうして去年と何ら変わり無く蕎麦を啜って二人でいる事に。
去年と、いつもと、何も変わらず。


「なあ、蕎麦食わね。俺もう入んねーわ」

そう言ったそいつは割り箸の斜めに突き刺さった器を俺にずいと押し付けて来た。俺別に腹減ってないんだけど。本当に馬鹿な奴。仕方なくずるずると蕎麦を啜って初めて、あ、間接キス、なんて事を考えてしまった。こんな事で、俺が馬鹿なんじゃないか。
一度考えてしまったらかあっと頭が熱くなっていくのが分かって、ごまかすように蕎麦を掻き込んだ。

「ん。」

空になった器を押し返して、その時、微妙な間合いで目が合ってしまった。さっきのと比じゃないくらいに、一瞬で体全体が熱くなる。

「…………顔、赤いですよー……?」

「……うっせえ」

別にそんなの、分かってるから。今さら言わなくていいから。
顔が赤い事も分かってるし、お前がこの気持ちに気付いている事にも分かってるし、それにさえ気付いている事も分かっている。だから今さら言わなくていい。だってお前は俺の親友だろう。そこんとこくらい、汲んでくれるだろ。

「……あのー…さ、あ」

「いいから」

肩に触れてきた手を振り払った。だから、いいんだって。全部分かってて、その上で言ってるんだからさ。触れてきた手の優しさだって、お前の気持ちだって、全部分かってるんだって。

「なあ、」

「黙れよ」

「聞けって!」

一瞬気圧されて、その隙を突かれて抱き寄せられる。
心臓がおかしくなったみたいにドクドクして、涙が出そうになるのを必死に堪えて突き飛ばした。


俺だって知っている、一歩進んだその先に、何があるのかくらい。
でもお前は知らないのだろう、一歩進んだその先の先に、何があるのか。

何も変わらず、俺のその願いは叶わないのか。もう変わってしまったのか。なあ、今さらなんて言わないから、俺の事をどう思っているのか聞かせてくれ。変わらない笑顔で、親友だと、答えてくれないか。
始まりは終わりを連れて


 
2011/01/04

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