寒くて寒くて、凍えてしまいそうだった。
世はすっかり暖かくなり夏も間近だと言うのに、この窓の内側、僕を取り巻く空間だけが未だ真冬のまま、時が動いていないようだった。カーテンから覗く満月は眩しく、僕の影をより一層濃くしている。

寒さで震える手を忙しなく動かしては鍵を探した。もうずっと長い間その鍵を探している。もう見付からないのかもしれない、そんな不穏な思いが脳裏にちらつくも、見ない振りをしてやり過ごした。未だ鍵は見付かっていない。

ふと満月に目をやれば、斑な模様が今夜はやけにくっきりと見えた。カーテンも窓も開けてしまって、そうだ。この部屋の中はもう何年も探した。でも見付からなかった。だとすれば外にあるのだろう。生温い風に頬をなぶられ、僕は久しく外の空気に触れる。

桟に手を掛けて、僕は身を乗り出す。
手を伸ばして、月に触れようとする。満月の裏側、まだ誰も探していない場所に。

探す事に取り憑かれてこのいのちが壊れたとしても、それでもいいとさえ思った。見付からなくて探し続けるのも、見付からないまま死んでしまうのも、同じくらいに苦しいものだと。


高層マンションの上階で僕は見失っていた。ありもしない扉の鍵なんかではない。僕自身を、僕を守る他でも無い僕自身を、見失っていた。
この凍える身体を抱き締めてくれる人が、その扉の向こうに居るのだと思っていた。

震える手を肩に添え、恐る恐る力を込める。そうして遂には、ぎゅうと抱き締めるように己の身体の温度を噛み締めた。
冷えきっていた身体が徐々に体温を取り戻し始めて、そこで僕はやっと今のこの体制が怖くなり、飛び退くように部屋の床に足を着けた。
生き続ける事も死んでしまう事も同じなのならば、僕は生き続ける。鍵を探し続ける。見付からなくてもそんなものは存在しなくても、それが僕の生きる理由なのだと。

開いた窓からは温い風が入り込む。
この部屋にもようやく時が流れるのだ。
絶えず息をする


 
2011/05/10

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