触れれば指先から凍っていくような夜は、記憶の施錠が曖昧になるようだ。内側から刔られるような感覚に見て見ぬ振りをして鏡を覗き込めば、こちらを笑いながら見ていた。そこに居る、自分じゃない、自分。

あの時消した筈の自分の顔が脳裏にちらつく。叫んで喚いて僕の記憶を掻き回して、今なお生きようとしている。

どうか僕を隠さないで。離さないで。
囁くように鼓膜を引き裂く、声を僕は知らない。記憶に触れてなぞって、僕が消える意味はどこにあったのと問い掛けて来る。

確かな意思を持ったそいつは消えてなんかなくて、鏡の奥から突き出した腕で僕を引きずり込んだ。
自分を殺すなんて僕には出来ない事だよ、耳元で妖艶に囁いた。
偽善の挙げ句

 
2010/11/12

|
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -