胸が裂けるような感覚、感覚だけで裂ける事は無いこの心臓を引き裂かんばかりに爪で刔った。はらり、それがビー玉のような瞳から零れるのを僕はただ傍らで観ている。

教室で猫のように飄々と振る舞う彼女と、今此処で音も無く涙を流す彼女はさながら別の人間のようだった。否、実際に別の人間なのだろう。彼女はそうでもしないと駄目になってしまうと判断したのだ。ただ少しだけ、仮面が、熔けてしまっただけの話。そう言って彼女は顔を歪めた。笑っているつもりなのだろうか。

熔けて、生身の肌に仮面が貼り付いて、離れなくなってしまった。そう言って彼女は仮面から雫を滲ませている。それが仮面の下から湧くものなのか、仮面から湧くものなのか、僕には分からなかった。もうきっと彼女自身にも分からないのだろう。
自分で自分を作って、自分に自分が占領された、彼女の感情は今どこに在るのだろう。感情なんてどこにも無いよ、そう言って仮面は嘘吹くけれど、そんな言葉を聞きたいんじゃない。僕はまだ彼女の言葉は聞いていないんだ。

涙を指で掬って、舐めでもすれば彼女の痛みが分かるだろうか。きっと僕には到底理解し得ない深い青の底に、舌先だけでも触れてみたい、そう思った。
一瞬驚いたような顔をした彼女も、ひとつ綺麗に笑って指を絡めて来た。存外冷たいそれに今度はこちらが驚いて。これが私の温度、愛してくれる、と鼓膜が振るう。
初めて聴いた彼女の声は、酷く冷たく、しかし人間味のある温かい音だった。
当たり前だと返して指を握り返す。その奥に潜む青が火傷しそうな程に熱い事を、僕は知ったから。

青の温度

 
2010/11/16

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