純愛
[01/02/03]

白蘭サンと出逢ってから1年と少しが経った。
その後は会っていないけれど、綱吉くんを通じて手紙のやり取りをしていた。手紙の中で僕らはお互いについての理解を深めて行った。
僕は結局ボンゴレに入る事を決意し、イタリアの大学に通いながらもイタリア支部に派遣され働いている。
実を言うと、イタリアの大学に行っているのは僕が望んだからであり、イタリア支部に派遣されているからではない。
白蘭サンとの邂逅によってイタリアの大学を志し、受験勉強の傍らイタリア語を独学で学び、両親を説得し、綱吉くんに無理を言ってイタリア支部の方に派遣してもらった。
なんと白蘭サンが仮釈放される事になり、その大学に入学する事が決定したからだ。
その知らせを聞いて僕はすぐに進路先を変更した。
元々行きたい所があった訳でも無く、適当に選んだので全く未練は無かった。

そして今日、1年ちょっとぶりに白蘭サンと会える事になった。
待ち合わせ場所はカフェテラス。
そこで落ち合い、一緒に昼食を食べる約束になっている。
僕はお昼前の講義が終わるとすぐに約束の場所へと向かった。
白蘭サンからは『先に行って待ってるね』とメールが入っていた。
急いで『今終わったので急いで向かいます』と返信したら『席を取って待ってるよ♪』と返信が帰って来た。
僕は携帯を閉じると荷物を肩に掛け直して走り出す。頬が自然に緩むのを抑えられなかった。

建物から出ると、外は気持ち良く晴れていた。
「正チャン!! こっちこっち!!」
久しぶりに会った白蘭サンは出逢った時と変わらない優しい笑顔を見せた。手を振って場所を教えてくれる。
ダメージの入った服と寝癖のようにラフな柔らかい髪。
ああ、白蘭サンなんだなぁ、と僕は思った。懐かしさが込み上げてくると同時に心が軽くなった気がした。
「お待たせしました!!」
「大丈夫だよ、正チャンてば大人っぽくなったねぇ」
白蘭サンはそう言ってクスリと笑った。
僕は照れ臭くて俯く。と、白蘭サンの大きな手が僕の頭を撫でた。
「わぁ、正チャンの髪の毛ってふわふわ♪ ……また会えて嬉しいよ、正チャン」
驚いて顔を上げると白蘭サンはあどけない笑顔を見せた。
白蘭サンの笑顔は子どもっぽくて純粋で、見てると元気を貰えるような、そんな気がした。
「僕も、嬉しいです」
「ホント? ありがと♪ よし、それじゃ、食べながら話そっか」
僕らは食事をしながら色々な事を話した。手紙だけでは足りない程、話したい事が沢山あった。
気付いたのは、白蘭サンは話し上手で聞き上手である事。
ちょうど良いタイミングで相槌を打ってくれるし、白蘭サンの話はユーモアがあって面白いと感じた。
午後からの講義は白蘭サンと同じで、始まるまでに時間が沢山あった。
食後に僕はコーヒー、白蘭サンはカフェラテを飲みながら、話題は今日の帰りについてに移った。
「正チャン、帰りはどうするの?」
「僕はボンゴレに帰ります。綱吉くんが部屋を用意してくれたし、仕事があるから」
「僕もボンゴレに寄らないとだからさ、待ち合わせして一緒に帰ろ?」
(待ち合わせ――白蘭サンと)
待ち合わせして帰る、それだけの事がなんだかとても幸福な事に感じられるのはこの人の持つ力なんだろうか。
恐らく他の人と待ち合わせして帰る事になっても当然のように受け入れてしまうと思う。
白蘭サンとだからこそ感じる、何気ない幸せ。いつの間にか白蘭サンが僕の中でとても大きな存在になっていた。
「講義が終わり次第メールします。正門集合でいいですか?」
「うん、いいよ。僕も終わったらすぐメールするね」
さて、と言って白蘭サンが立ち上がる。
「そろそろ移動する?」
腕時計を確認すると、講義が始まる15分前になっていた。
移動に時間が掛かるため、早めに出発しないと講義が始まってしまう。教授が時間どおりに来るとは到底思えないけれど。
テーブルの隅に置いてある伝票を取り上げ――ようとしたら白蘭サンの手が先にそれを掴んだ。
視線を上げると白蘭サンはニコッとして
「今日は僕の奢りね♪」
と弾んだ声で言ってレジへ向かった。
僕が払います、などと言い出す間も無く白蘭サンはスキップし出しそうな軽い足取りで行ってしまう。
「正チャン、早く早く♪」
「あ……スミマセン」
白蘭サンが振り向いて急かすので、置いて行かれそうになった僕は慌ててその背中を追い掛けた。
今度食事する時は僕の財布から出そう――、そう思いながら。



10.8.27.
まだ続く。


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