捧げ物 | ナノ


花火 3
【星野&うさぎ】
「たこ焼き♪たこ焼き♪」
ご機嫌に口ずさみながら歩くうさぎ。

「あんまりはしゃいでるとそのうち転ぶぞ」
星野は、そんなうさぎの無邪気さに愛しさを感じながらも、ドジな彼女を注意する。

うさぎは「平気ですよ〜っ」と、言った直後に、石畳に躓く。
「あぶねっ」
星野は転びかけたうさぎをしっかり抱き止める。
「〜っ///」
「おだんご?だいじょぶか?」
「う、うん!ありがとっ///」
星野の腕にしっかり抱き止められたうさぎの頬は、ほんのり赤くなっている。
「どうした?足でも挫いたか?」
星野は心配そうに問いかける。

「う、ううん!だいじょぶだよ!」
そう言うとうさぎは星野を見上げ、ニコッと笑う。

──ドキッ

「そっか。よしっ!じゃあたこ焼き食いに行こうぜ!」
うさぎの笑顔に悩殺されそうになりながら、星野がうさぎに手を差し出す。

「おだんごはすぐに転ぶから、手繋いどいてやるよ」
星野が照れ隠しにそう言うと、うさぎはむぅっとむくれる。
しかし、そんな憎まれ口も星野の優しさのひとつだと知っている。
二人がどこか素直になれないのは、恥ずかしさからであることもお互いに理解している。
いつもならここで、売り言葉に買い言葉の口喧嘩(他人から見ればただのイチャイチャ)が始まるのだが、せっかくのお祭りなので、楽しみたいと思ったうさぎ。
「えへへ☆ありがとう」
と、とびきりの笑顔で答えると星野の手を握る。

しっかりと手を繋いだ二人はたこ焼きの屋台を目指す。

(さっきはビックリしちゃった/// 間近で改めて見ると星野の浴衣姿カッコイイんだもん///)
(おだんごよりも俺の理性が危なかった。
そーいや浴衣とか着物とか着る時って普通のブラはあんまりつけないんだったっけ?
それにしたっておだんごの浴衣姿ホントに可愛いな///)
などと、お互い内心で思いながら歩いていると、そこそこに人の集まるたこ焼き屋台を発見した。

「ここのたこ焼きでいいか?」
「うんっ!」

焼きたてを購入した二人は、人の波からそれて、熱々のたこ焼きを頬張る。

「うぁっち!」
いきなり一口で食べようとした星野があまりの熱さに叫ぶ。

「はふはふ、んむ」
こちらは少し冷ましてから食べたうさぎ。

「ん〜っ!おいしい♪」
「うっぐ、ん。確かにうまいな」

たこ焼きを飲み込んだ星野は、買っておいたペットボトルのお茶で口の中を冷ます。
「あ、あたしお茶買ってない!どーしよ」
「ん?俺ので良かったら飲めよ?ほら」
「ありがと☆」

星野から受け取ったお茶をコクコクとおいしそうに飲む。
「ぷはっ、夏はやっぱり冷たい麦茶だよね〜っ」
「だなっ!」
うさぎが返したお茶を星野が再び口に含む。
それを見たうさぎは赤くなる。

「あ///」
「ん?」
「な、なんでもないよ///」
星野はうさぎが突然真っ赤になった理由を考え、すぐに答えを見つける。
「はっはーん」
「な、なによぉ///」
「間接キスだな」
そう言って悪戯っ子のように笑う星野。
「バカッ///」
「今さら照れんなよ」
真っ赤になるうさぎを星野はからかう。

「今夜は念願のお代官様ごっこすんだろ?」
少し声をひそめて呟く。
「っ///」

熱々のたこ焼きもぬるく感じるほど、イチャイチャしながらたこ焼きを食べ終わった二人はゴミを捨てる。

「で?他には何食いたいんだ?」
「あと、お好み焼きと〜、やきそばと〜、焼き鳥と〜、フランクフルトも食べなきゃ!
デザートにフルーツ飴を制覇して、ミルクせんべいも食べなきゃだしっ!
ほら星野!時間は限られてるんだから早く行こうよ?」
「お、おうっ」

(ホントにそんなに食うのかよ…)
内心、ハラハラしながらうさぎと手を繋ぎ次の屋台を目指す。





【夜天&美奈子】
「見て見て!夜天君!ここの玉子せんべいはハート型でベーコン入りだって!ここにするっ!」
「うん…」
いくつもある玉子せんべいの屋台を見てまわった二人。

美奈子が、玉子せんべいを買った客のそれを見て自己審査をつけていった。

「ソースの範囲が狭い」
「玉子が固くなってる」
「天かすの量が少ない」
などと言っては、次の屋台を目指していた。

夜天がいい加減うんざりして
「別にどこでもいいんじゃないの?」
と、言いかけたところで美奈子の合格点が出た玉子せんべいの屋台にたどり着いた。

お金を支払い、めいっぱいに箸が刺さった箸立てを前に美奈子が真剣な表情で一本引き抜く。

──ドクンドクン

「えいっ!」

──印なし

「はーい。お姉ちゃん玉子一個ね」
手早く、ハート型の半熟玉子を一つのせ、美奈子に手渡してくれる。
「アリガトーゴザイマス」

「はい、次はお兄ちゃんの番だよ」
「あ、はい」
夜天は何も考えずに箸を引き抜く。
箸の先には赤の印。
「おぉっ!おめでとう!ラッキーだね。玉子三つのせだよ」
ところ狭しと玉子が三つのせられた玉子せんべいを受け取る。

美奈子の羨望の眼差しを受けながら。人の波から外れる。

「はい」
突然、夜天が持っていた玉子せんべいを美奈子に差し出す。
「えっ?」
「交換」
「でも」
「玉子三つのやつが食べたかったんでしょ?」
「うん」
「だから交換。僕は一つで充分だからさ」
そう言って夜天は微笑む。

「ありがと夜天君!」
美奈子がとびきりの笑顔で言って、二人は玉子せんべいを交換するとパリパリと食べはじめる。

「おいしーねっ♪夜天君☆」
「うん」

(まったく…玉子の数で一喜一憂するなんて可愛いったらないよ。
ホントに美奈といると退屈しなくて楽しいや)

玉子を落とさないように、とても幸せそうに玉子せんべいを食べる美奈子を見ながら夜天は思う。
「美奈、黄身がたれそうだよ。浴衣汚れないように気を付けなよ」
そう言われて、かじっていた玉子をモグモグと食べた美奈子は幸せそうににぱっと笑う。

「おいしーっ♪」
「ほら、ここついてるよ」
先に食べ終わった夜天は美奈子の唇の端についていたソースを親指でぬぐうと、それをペロリと舐める。

「っ///」
夜天のその仕草が、妙に妖艶で美奈子はドキリとする。
「美奈?食べないの?」
「んっ!食べるっ」
そう言って、再び玉子せんべいにかぶりつく。
そんな美奈子を優しい眼差しで見つめる夜天。





【雄一郎&レイ】
「ねぇ、雄一郎おなかすかない?」
「そうですね。少し…」
「実はあたしも///」
「じゃあとりあえず何か食べましょう。レイさん何食べたいですか?」
「そうねぇ…」
考えながら歩いていると、パチパチと油のはねる音とおいしそうなにおいが二人のおなかを刺激する。

「鶏の唐揚げね」
「今なら揚げたての熱々っすよ〜。いかがっすか?」
二十歳すぎの青年が人懐こい笑みを浮かべて声をかけてくる。

「うまそうですね!ひとつください」
「大と中があるっすけど、どっちします?」
「半分こでいいわよね?大きい方ください」
「了解っす!」
青年は揚げたての唐揚げをカップから溢れるほど入れて竹串で刺して雄一郎に渡す。
「熱いから気を付けてくださいっす。お姉さん美人だからこれはオマケっす!」
そう言うと、唐揚げを真新しい竹串で二つ刺して、レイに差し出す。
「こんなにたくさん入れてもらったのに、もらっていいの?」
「もちろんっすよ!」
「ありがとう。いただきます」
レイは笑顔でお礼を言って受けとる。

「どうもありがとうございました」
「まいどっす」

人の流れから外れると、レイはサービスでもらった唐揚げを食べる。
雄一郎はカップから抜き出した唐揚げを頬張る。
外はカリッとして、中はジューシーだ。

「うん。おいしいわ」
「はい」

たくさんあった唐揚げは程なく二人で食べきった。

「ごちそうさま」
「レイさん。ちょっと待っててください」

そう言うと雄一郎はゴミを持ってどこかへ行ってしまう。

(もう…どこ行ったのよ…雄一郎のバカっ)
行き先も告げずに行ってしまった雄一郎に腹立たしさを覚えるが、はぐれても困るので大人しく待つ。

戻って来たら、文句の一つでも言ってやらなければと思っていると雄一郎が戻ってきた。

「レイさーん!」
「もうっ!どこにっ…」
「はいっ!お茶どうぞ」
雄一郎はレイに烏龍茶のペットボトルを差し出す。
「なっ!」
「あ、緑茶の方がいいですか?」
「違うわよ!そういう時はちゃんと言ってから行きなさいよ!」
「あ、はい。すみません。レイさん喉渇いてそうだったので…」

確かに喉が渇いていたが、それを口に出して言ってはいない。

雄一郎はいつもさりげなく気遣いをしてくれる。
でも少し抜けたところがある、彼の優しさ。

「ありがと///」
「いえ」
そう言って雄一郎は優しく笑う。
「あとでべっこう飴も買いに行きましょう。あ、おじいさんのおみやげは何がいいですかね?」
「おじいちゃんもべっこう飴好きだから、それにしましょ?」
「はいっ!」
雄一郎とレイは笑顔で微笑み合うと腕を組み歩き出す。






【浅沼&まこと】
「ん?うわぁ、懐かしいなぁ」
そう言いながらまことがある屋台に近づいて行く。
そこの屋台は“おままごと”の小さな鍋やフライパン、野菜や果物などがたくさん置いてある。

「子どもの頃よく遊んだなぁ…」
それを見つめながら懐かしそうにまことが言う。

「あたしがおままごとで料理したのをパパに持っていくと“まことはママに似て
料理が上手だな”って誉めてくれたんだ。
そしたらママが“当然よ。私の自慢の娘だもの”って言ってくれたのがすごく嬉しくてさ。
それからあたしちょっとずつママに料理教えてもらうようになったんだ」
少しうつむきながらまことがポツリポツリと語る。

浅沼はまことの話が終わるまで口を挟まず黙って聞いている。

彼女がこんな風に家族の話をする事は滅多にない。
浅沼からは決して聞かない。
だからこそ浅沼は、こうしてまことが過去の話をする時は、ちゃんと最後まで話を聞くことを心に決めている。

「あ、ごめん。こんな話…」
「いえ、まこと先輩はご両親に愛されてたんですね」
「うんっ。そうだね」

まことは少し切なそうに笑う。
浅沼はまことの髪をそっと撫でる。
「わっ///」
「俺は年下だし、まこと先輩からすれば全然頼りないかも知れないけど、先輩を想う気持ちは絶対に誰にも負けません」
浅沼がまっすぐにまことを見つめ優しく語る。
「だから、もし寂しくなったら俺に甘えてください」

あったかい言葉。
あったかい手。
優しい彼。

「ん。ありがと///頼りにしてるよ」
まことは照れながら微笑む。
(浅沼ちゃんには今でも充分甘えさせてもらってるんだけど…)
思いながらも、それを伝えるのはすごく恥ずかしいので言えない。

「ここでは何か欲しいものないですか?」
浅沼にそう言われたまことは、ままごとの屋台全体を見る。
「あっ」
目に止まったのはストラップ。
ままごとをそのまま小さくしたもののようだ。
「へぇ、今はこんなのもあるんだ。ハンバーグだ。あ、人参とかキャベツもある。このフライパンとかお鍋もカワイイ!」
楽しそうにはしゃぐまことを浅沼は愛しそうに見つめる。

「うーん…よしっ!これにしよう!」
そう言ってまことが手にしたのはホットケーキのストラップ。
「はーい。400円ね」
まことが財布を出そうとしたら、横から浅沼がお金を渡す。
「はーい。ありがとね」

「浅沼ちゃん!?あたしのなんだからあたしが出すよ」
そう言うまことの手をそっと繋ぐと「いいですよ」と言う。
「俺のワガママでまこと先輩にあげるんで、気にしないでもらってください」
「でもっ」
「ほら、林檎飴買いに行きましょう?」
「え、あ、うん」
なんだかうまく言いくるめられた気がしなくもないが…

「浅沼ちゃん」
「はい」
「あ、ありがとう///」
「いえ」

二人は手を繋いだまま、林檎飴の屋台に歩いていく。

そこで浅沼は大きな林檎飴とぶどう飴を、まことは姫林檎飴といちご飴を買い、二人で食べる。

「この林檎のちょっとスカスカした感じ」
「林檎飴だから食べられる気がしますね」
「確かに」

「まこと先輩。はいあーん」
「あーん?」
反射的に行動したまことの口に串に刺さった一つ目のぶどう飴を入れる。
「っ///」
「おいしいですか?」
「うん/// (ドキドキしすぎて味わかんないや)」
「ん。うまい」
浅沼もぶどう飴を食べて、素直に感想を口にする。

まことは自分が買ったいちご飴を取り出すと、意を決してこくんとひとつ頷く。

「浅沼ちゃん!」
「はい?」
「あ、あーん///」
まことは真っ赤になりながら、いちご飴が二つ刺さった串を浅沼の前に突き出す。

浅沼はそんなまことを“可愛いなぁ”と思いながらくすりと笑う。
「いただきます」
ぱくりといちご飴を頬張る。

「おいし?」
「ん。いちごがちょっと酸っぱいですけど、それが飴の甘さと交ざるとおいしいです」
「あむ。んぐ。あれ?こっちは当たり、かな?いちご甘いよ?」
「良かったですね」
そう言って浅沼は優しく笑う。
「う、うん///」

まことは浅沼の笑顔にドキリとする。

「まこと先輩?」
「な、なにっ?」
「顔赤いですよ?暑いですか?」
「ううん!暑くない!大丈夫だよっ」
「そうですか?まだ時間もあるし
他の屋台も行きませんか?」
「あ、そうだね」

二人は自然に手を繋ぎ歩き出す。
「俺スーパーボールすくいやりたいです」
「あ、あたしも!」
「じゃあどっちが大きい方を取れるか勝負しましょう」
「よーっし!負けないからね」
「はい。俺も負けません!」



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