捧げ物 | ナノ


スター 4
「と、いう事があったらしいわねぇ?水野さん」
「うぅっ/// 柊先生情報が速いです」
放課後、呼び出されるより前に学校を飛び出した亜美は、一度家に戻り着替えをすませるとレッスン室になっているはるか達のマンションへと行った。
そこで、雪音が夏海から聞いたと話してくれた。

「さて、詳しい話はレッスンの後だとして……」
雪音がじっと亜美を見つめる。
「スコアには目を通した?」
「はい」
亜美の返事を聞き、一つ頷く。
「できるわね?」

「───やります」

雪音の視線を受け止め、亜美はしっかりと頷いた。

「いいわ。じゃあ早速はじめましようか?」
「はい、よろしくお願いします」
「今回は時間もそんなにないし……厳しいわよ?」
「はい」

「じゃあ私が一度頭から弾くから、しっかりと叩き込んでね?」
「はい。お願いします」

───♪

部屋に雪音のハープの音色が響き渡る。





そして───夜九時

レッスン室の扉を開けた瞬間、響いた音色にライツメンバーと美奈子は息を飲む。

(すっ...げぇ…)
(なに…この音)
(海王さんのリサイタルから、まだ少ししか経っていないと言うのに…)
(やっぱり亜美ちゃんはスゴイわ…)

───♪〜〜〜...

「はい、そこまで。お疲れさま水野さん。
さて、みんな揃ったんだけど……ちょっとだけ休憩させたげてね。
水野さん、五時からぶっ続けで弾いてるから…」
「っ、はぁっ」
「はい、どうぞ」
「ありがと、お姉ちゃん」
「水野さんも」
「あ、ありがとうございます」

夏海から差し出された水を受け取りこくりと飲む。

「いやぁ…二人ともすっごい集中力だねぇ…」
聞き覚えのない声に、四人がそちらを向くと柳井愛が感心していた。
「「「───誰?」」」
「音楽の柳井先生ですよ。知らないんですか?」
大気が呆れながら、三人にそう言う。
「あはは、私はみんなを担当した事はないからねぇ…はぁっ」
「マナちゃん落ち込まない落ち込まない」
夏海がよしよしと愛を撫でる。

「どうして、柳井先生までいらっしゃるんですか?」
「私が文化祭の舞台音響担当だからって言う理由がひとつね」
「他にも何か理由があるんですか?」
「まぁ、音楽教諭である私がいると色々と都合がいいわよ?」
「マナちゃ…じゃない…柳井...先生の存在は意外と心強いわよ?」
「そうそう、こう見えて柳井先生は案外たよりになるのよ」
「そこの姉妹!意外とか案外とか余計な一言を付属させない!」

「まぁまぁ。さて…そろそろいい?水野さん」
「はい」
「それじゃあ話を始めましょうか?
愛野さんから水野さんをシークレットライブに出せないかって言われた時、私は『今の状況では無理』と、言ったわね?」
「はい」
「水野さんの音を聴けばわかると言ったところで、先生方は聞き入れないでしょうからね。
猛反対を食らうことは目に見えていたし、最悪の場合シークレットライブ自体をなくされてしまう可能性もあった。
ここまでは理解してもらえたかしら?」
夏海の言葉にみんなが頷く。

「当日にこっそり仕込むにしてもハープは大きいし隠せない。
だから私と雪音は“ある作戦”を思いついたの」

「作戦?」

「そうよ。学校側には雪音をハーピストとして招く」
「ゆんちゃんは有名なハーピストだからね?
まぁ、普通に考えて嫌ですとか言わないでしょ?」
「でも残念ながら、私はその日“風邪をこじらせちゃう”のよねぇ」
「っ!」
亜美が息を飲む。

「せっかくのスリーライツとハープのコラボなのに肝心のハープがなかったら意味ないじゃない」
「だよね。僕らもプロだからね、シークレットとは言えライブに穴は開けられないんだよ」
「当然だ。
俺達スリーライツとしても、やるからには成功させたいんだ」
「さて、どうしますか?亜美」

つまり亜美が“柊雪音の代役”としてステージに立つのだ。

大胆な作戦だ。
“プロ”である雪音と、“プロ”のスリーライツ。
そんな中に“無名”である亜美。

「あぁ、そうだ。もうひとつ言い忘れてました」
大気が思い出したように言う。
「亜美だと分かれば先生方が妨害するかも知れないので安全策として、変装してもらいます」

「変装って……“あれ”ですか?」
「もちろん」
「待って…ください」
「はい」
「今回は“あたし”が弾いた事を分からせないとダメなんですよね?
あの格好だと、おそらく分からないと思うんです…けど…」
「えぇ、だから演奏が終わったあとにネタバラシといきましょう?」

亜美はどこか楽しそうに笑顔を浮かべる大気を見つめる。
そして、星野、夜天、美奈子を。
協力してくれる先生達を。

そして
「分かりました。よろしくお願いします」
頭を深々と下げる。

大気は亜美の髪を優しく撫でる。
「っ///」
「頑張りましょうね、亜美」
「はい///」

「さて、そうと決まれば水野さん」
「はい」
「海王さん達に許可はもらってあるから、明日からまたしばらくはここに泊まり込むわよ?」
「はい、わかりました」

「十日よ。明日から十日でスコアなしで弾けるように練習すること」
「わかりました」
「それが出来たら、スリーライツのみんなと合わせていくわよ。
あなた達もそれでいいかしら?」
「「「はい」」」

「ひゃぁ〜…スパルタモードゆんちゃん降臨」
「まだ序の口よ」
「そこの二人は他の先生達にくれぐれも水野さんの件がバレないようにと、私が出る事の交渉よろしく」
「「はい」」
「それと、放課後水野さんをうまく逃がして。
水野さん自身が呼び出しに応じないと言ったところで納得はしてくれないでしょうから」
「まぁね…そこは担任の私に任せといて」
「なっちゃんがダメそうなら私がうまく逃がしてあげよう。
まさか私まで一枚噛んでるとは思わないでしょうから」

「なんか楽しいわねぇ♪」
「美奈もなるべくフォローしてよ?月野と木野にもバレちゃダメなんだよ?」
「分かってるわよ♪」
「星野もうっかりミスをして月野さんにバレないように気を付けてくださいね」
「分かってるよ」
「亜美ちゃんもよ〜?」
「えぇ、気をつけるわ」

「そうと決まれば今日は解散ね」
「お姉ちゃんてば先生みたい」
「そりゃあなっちゃんも私も先生だもんねぇ?」
「そうだけどさぁ…あ、水野さん今日はゆっくり休んでね。
荷物も運ばなきゃならないでしょうから、お昼すぎにマンションに迎えに行くわ」
「はい。分かりました」
「あ、そうだ大気君?話があるからちょっとだけ時間いいかしら?」
「なんですか?」
「水野さんは外で待っててね」
「え?はい」

「星野君、夜天君、愛野さん。気をつけて帰るのよ」
「「「はい」」」
「あぁ、私は亜美を送るので星野達は先に帰ってて下さい」
「おう、じゃあな水野」
「またね亜美ちゃん」
「バイバイ水野」
「えぇ」
亜美は部屋に出て大気と雪音の話が終わるのを待つ。

五分程で大気は部屋から出てきた。

「お待たせしました」
「いえ」
「さて、帰りましょうか?」
「はい。あっ!ちょっと待ってください」
亜美はひょこっと部屋を覗くと雪音達に挨拶をする。

「お先に失礼します」
「じゃあね水野さん」
「はい」
「また月曜に学校でね」
「はい」
ぺこりと頭を下げる亜美の後ろで大気も「失礼します」と言って、二人は帰って行く。

「雪音…アンタ担任の私の前でなんて事を言ってくれてんの?」
「ん〜?だって…ねぇ?」
「いやぁ、私も教育者という立場上ゆんちゃんの意見に手放しで賛同できないのよ?」
「はぁっ…まったくアンタって子は…」

夏海と愛はさっきの会話を思い出して、頭を抱える。
『大気君』
『なんですか?』
『分かってると思うけど……』
『はい?』
『明日から文化祭まで禁欲生活だからね』
『『!?』』
『わかりました』

((分かっちゃうの…))

『まぁ、でも明日からハードだから手加減はしてあげてね?』
『そう───ですね』
『雪音…大気君…』
『ん?』『はい?』
『私達が高校教師って事を忘れてない?』
『忘れてないよ?』
『だったら、私達の前でそんな会話をしない!!』
『やだなぁ♪お姉ちゃんたら〜♪
具体的に“何を”とは言ってないじゃない?』
『ゆんちゃんそれを屁理屈って言うんだよ?』
『まにゃひゃん、いひゃい」
『まったくもう……』

『私からもひとついいですか?合同レッスンに入ってからのお話なんですが…』
『えぇ』
『実は、私達のマンションの空いてる階があるんです。
必要になるかもしれないとダンスレッスン室と、完全防音の部屋があるんですが……
そこを使うと言うのはいかがでしょう?』
『それは、大気君だけが決めていいの?』
『大丈夫です。もう星野と夜天とは話し合いは終わってるんですよ』
『なるほど…分かったわ』

『それで柊さんにハープの手配をお願いしたいんですが?』
『ここにあるやつを運べばいいんじゃないの?』
『ここはここで、また使う時が来るかもしれないでしょう?』
『それはまぁそうだけど…大気君…ハープ一台っていくらするか知ってる?
高校生のお小遣いでほいほい買えるような物じゃないのよ?』
『分かってます』
『……本気なのね?』
『当然です』
『分かったわ』
『ありがとうございます。では失礼します』



「しっかし大気君てあんな子だったんだねぇ…。もうちょっと大人な子かと思ってたんだけど…」
愛が言うと夏海が苦笑する。
「水野さんが絡むと凄いってのは割と有名な話だと思うんだけど?
今日の五限の話とか……」
「まぁ…うん。ちらっと聞いたことはあったけど…ハープ一台を彼女のために買っちゃうとは…恐るべし……」
愛が感心しながら言う。
雪音も苦笑いする。
「まぁ、うん。手配はしましょう。頼まれたしね」



「亜美」
「はい?」
「今夜、泊めてもらって構いませんか?」
「え?」
「明日から学園祭終了まで亜美の練習の邪魔をしないようにします。
だから、今夜だけ亜美を独り占めさせて下さい?」
「っ//////」
「ね?」
“にっこり”と微笑む大気に亜美は頷くしかできなかった。



次の日から雪音の猛特訓が始まった。
学校が終われば、みんなが驚くほど速く学校を去り、朝も登校前に一時間のレッスンがメニューに組み込まれた。
そうして、亜美は本当に十日でスコアなしで“流れ星へ”を弾きこなせるまでに至った。

「どう?感想は?」
亜美が完璧な演奏を終え、雪音がポカンとしていた三人に声をかける。
「すっげ…」
「うん…すごいとしか言えない…」
「……」
三人は本気で驚いた。

大気の話で、亜美が自分達の曲を弾いていた事は聞かされていたが……。
まさか本当に十日でスコアを見ずに弾きこなせるとは…。

「さて、あなた達の歌が入ればまた雰囲気も変わってくるわ…
いきなりだけど、一回やってみる?」
「そうだな。ぜひお願いします!
水野もよろしくな?」
「えぇ、よろしくお願いします」
「僕からもよろしく。頑張ろうね?」
「うん。よろしくお願いします」

「亜美との演奏のあと、柊さんとも合わせた方がいいですね」
「そうね。表向きは私とのジョイントって事になるわけだから、一度スタジオてリハーサルをして他の先生方にも見てもらわなきゃならないものね?」
「はい。そんなわけなので、柊さん、亜美。
よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「お願いします」

そうして、亜美と雪音、スリーライツの練習はその日から学園祭前日の夜まで続いた。

途中、表向きの雪音とスリーライツのリハーサルがあったりして、亜美は彼らのマンションでこっそりと練習して待った。

相変わらず亜美に対して、なにやら言いたそうにする教員がいた。
しかし、以前の一限を利用してまで説得しようとした件が校長と学長の耳に入ったようで「節度を持つように」とのお達しが出たらしい。

うさぎやまことも何かをしようとしている事に気付いてるようだが、事情を知っているからこそ、知らない振りをしてくれた。

たくさんの人の協力により、作戦は着々と進められた。



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