大気×亜美 | ナノ




8.僕は君の事

「……っ、はっ、ははっ」
大気の言葉を聞いた浦和は突然笑いだした。
「あはははははっ」
驚く大気と亜美。
「くっ…ははははっ……はぁっ」

浦和は、くしゃりと自分の前髪をかきあげると二人に向き合う。

「なんだよ。それじゃあ僕に勝ち目はないじゃないか」
「浦和…良?」
大気は亜美を離すと、彼女と浦和の前に立つ。
浦和が彼女に何かしてきたら、即座に返り討ちにできるように警戒する。

近づいてきた浦和が小声で大気に話しかけてくる。

「大気光。今から少しだけでいい。僕がする事を黙ってみてて欲しい」
「は?」
大気は拍子抜けして、呆れた声を出す。
「おねがいだ。やっぱり本人の口から振られないと、僕の“初恋”は終われない」

浦和の真意を察した大気は――頷く。

「先に言っときますけど、亜美にさっきみたいな真似したら容赦しませんよ?」
「分かってるさ」
浦和は苦笑しながら答える。

大気は浦和と亜美の間から少し移動し、二人の様子を見つめる。

亜美は、先ほど二人が小声で話していた事は聞こえていなかったようで、不思議そうに首をかしげている。



浦和はそんな亜美を見つめ、ゆっくりと深呼吸する。
振られると分かっていても、やはり自分の口から告げなくては終われない。

(よしっ!)

「水野亜美さん!」
「は、はいっ」
突然、名を呼ばれ亜美は驚く。

「僕は、中学の時に模試会場で君の隣の席になった時から」

もしかすると、そんな事は彼女は忘れているかもしれない。
だけど、自分にとってはすごく大切な思い出なのだ。

「ずっと君のことが好きでした。一人の女の子としてずっと…好きでした」
「ーっ!?」

亜美は驚きのあまり息をのむ。

知らなかった。
気付かなかった。
浦和の気持ちに。

あの時、
中学の時に
浦和から
自分に向けられた
感情は
恋愛感情だとは
思っていなかった。

“憧れ”なのだと
勝手に
思っていた。

だが、そうではなかったのだと
目の前の少年が告げている

しかし、亜美にとっての「浦和良」と言う少年は、いわゆる『はじめての男友達』だ。

うさぎやまことに色々と言われた事もあり、恋と友情の違いが分からなくて迷っていた時も、正直あった。

しかし、大気と出会って“本当の恋”を知った今ならわかる。

亜美が浦和に抱く感情はあくまで『友情』でしかない。

決して『恋愛感情』にはならない。

その事を、もう亜美は知っている。

だからこそ……亜美はまっすぐに想いをぶつけてくれた浦和の気持ちを、きちんと受け止める。

そして、答えを口にしなくてはならない。



大気は静かに、亜美の横顔を見つめる。
そして、浦和の横顔を見て目を細める。

『浦和良』は
自分の知らない
“亜美”を知っている
中学の模試会場で
二人は
どんな出会いを
したんだろう?

気にならないと
言えば嘘になる

だけど――

大気は、亜美に目線を戻す。

亜美が
自分のことを
心から
想ってくれていることを
知っている

だから、見守る。

目の前で、自分の彼女が、
他の男から
告白されているところをみるのは、
正直かなり複雑だけど、

とりあえず今は黙って見守る。

亜美は、浦和をまっすぐに見つめて静かに口を開いた。

「ありがとう。
気持ちはすごく嬉しいです。

だけど、あたしは良くんの事を
友達以上には思えません。

良くんはあたしにとっては、
はじめての男の子の“お友達”なんです。

そういう意味で良くんは
特別なのかも知れません。

だけど、今のあたしには、
すごく大切な人がいるんです。

その人に出会って
初めて自分から人を好きになったの…

だから、
良くんの気持ちには答えられません。

――――ごめんなさい」

そう言うと、亜美はペコリと頭を下げた。

浦和は少しだけ寂しそうに笑うと「ありがとう」と、言った。

「これからも、友達としてよろしく」
そう言うと亜美にすっと右手を差し出す。

「はいっ」
亜美はその手を握りかえす。

「大気…くんも。その…ありがとう」
浦和は大気にも礼を言う。

「…いえ」
大気は、亜美の気持ちを聞いて、うれしく思っていた。

「それじゃあ僕は帰ります。“亜美さん”。
あ、呼び方はこのままでもいい…かな?」
浦和は少し困ったように聞くと、大気が答える。
「私は構いませんよ?“亜美”がいいのなら…ね?」
「あたしは別に構わないわ。良くん」
「ありがとう。二人とも。それじゃあ亜美さん大気くんまた明日。さよなら」

「えぇ、さよなら」
「お気をつけて。また明日」

浦和は、二人に背中を向け教室を後にする。

浦和は教室を出て扉を閉じると、ゆっくりと下駄箱に向かいながら携帯を取り出す。
昼休みに教えてもらった柏木、宮下、田沼の三人に一斉送信で一文だけ打ち込み送信ボタンを押す。

『玉砕!』

明日になれば、彼らはきっとからかってくるに違いない。
それも笑って受け止められるだろう。

少し胸は痛むけれど、彼女の笑顔が見られるならそれでいい。



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