大気×亜美 | ナノ




7.君が愛しい

――その十分後

「っ!」
教室に忘れ物を取りに戻った人物――浦和良は教室の扉を入ったところで驚き息をのむ。
誰もいないだろうと思って戻ると、そこには一人の少女がいた。

窓際の席で眠る――自分が好きな女の子――水野亜美。

珍しいと思いながらゆっくり……ゆっくりと足音を立てないようにそっと彼女に近付いて行く。

浦和は持っていたカバンをそっと自分の席に置き、隣の席の亜美の寝顔を見つめる。

サラサラの髪
伏せられた長いまつげ
色白の肌
華奢で小さな体

彼女のすべてが夕日に染められてすごく綺麗だ。
(可愛い…な)
浦和の視線は、小さな寝息をたてる亜美の唇を見つめる。
吸い寄せられるように浦和は身をかがめ、彼女の唇に――



――――バンッ!!

「っ!」
扉が力一杯開かれた音に浦和は驚き、そちらを振り向く。

そこには――
「何をしているんですか?」
口調は丁寧だが、すさまじい目で浦和を睨む大気の姿があった。

「んっ?」
扉を開ける音と、大気の声に目を覚ました亜美が目の前にいた浦和を見つめキョトンとする。
「良…くん?」
亜美のその声に、浦和は亜美を振り向き、大気の苛立ちは一気に爆発する。

いつもなら冷静に考えられるはずなのに、さっき見た光景のせいで今はそんな余裕はない。

大気は亜美の席に向かうと、浦和を突き飛ばす。
「うわっ!」
突然の事に驚きつつも転ばずに済んだ浦和は大気を睨む。
――が、大気はもう浦和を見てはいない。

――――ダンッ!!
「っ!?」
大気は、窓と亜美の机に同時に手をつき、座る亜美を逃げられないように閉じ込める。
自然と大気の姿勢は前屈みになり、少し上から亜美を見据える。

「大気…さん?」
突然の事に驚く亜美は不安そうに大気を見つめる。
亜美の瞳をじっと見つめ大気は口を開く。

「何を…していたんですか?」
「え?」
「何をしてたのか聞いてるんです!」
「っ!」
突然の大声にビクッとする亜美。
大気が何故こんなにも怒っているのかが分からない。

「答えてください…亜美」
今度は静かに大気が聞く。
「…本を、読んでたんですけど」
「…」
「眠くなってきたので…」
「寝てたんですか?」
「はい…少し」
「……」
大気はがっくりとうなだれる。
「あの…大気さん?」
目の前の彼女は不安そうな、困ったようなそんな表情をしているんだろう。



どうして…?
どうして亜美は
こんなに
無防備なんですか?

誰もいない教室で
眠るだなんて…
自分の寝顔が
どれだけ
可愛いか
知らないんですか?

そもそも
昼に言ったでしょう?

『自分がどれだけ
 人を惹き付けるのか
 少しは考えてください』

なのに、何故?
無防備にも
ほどがあります

ここはひとつ…
体に教えるしか
なさそうです……ね



大気はゆっくりと体を起こすと、もう一度、亜美を見つめる。
「?」
不思議そうに、自分を見つめる亜美の細い手首をつかみ、グイッと強く引っ張ると、小さな体はいとも簡単に椅子から浮く。
「きゃっ…」
立たせた亜美の手首から手を離し、そのまま腰に回す。
そして、もう片手を顎に添えるとクイッと上を向かせて、前触れなく唇を奪う。
顎に添えていた手を、即座に後頭部へと持っていく。

「んっ!」
いつもの優しいキスなんかじゃない
「〜っ///」
噛みつくような
「っん」
激しいキス

逃げようとする彼女の後頭部に力を加え、逃がさないようにする。
「っ…はぁっ」
息苦しくなってきた亜美が、酸素を取り込むために少し口を開いた瞬間を見計らい、大気は舌を差し込む。
「っ!」
亜美は、驚いたようにビクリと体をふるわせる。
当然だろう。

二人は今まで、触れるだけのキスしかしていなかったのだから。



「ふっ…ぅ」
大気はそんな亜美の口腔内を容赦なく侵す。
舌で歯列をなぞり
「んっ」
逃げる彼女の舌を絡めとり
「ふ…ぁっ///」
きつく吸い上げる
「あっ…んぅ///」


亜美は初めて味わう感覚と、酸欠により頭が真っ白になっていく。
教室内には、亜美の甘い声と、二人が激しく口づけを交わす水質的な音だけが響く。

亜美をたっぷりと堪能した大気はゆっくりと唇をはなす。
二人の唇を繋ぐ銀糸が夕日に照らされキラキラと輝く。
足に力が入らず、崩れ落ちそうな亜美を大気は軽々と片腕で支え、自分の方に体重をかけさせる。

「っ…はぁっ…はぁっ…」
自分の腕の中で、目尻に涙を浮かべ、息も絶え絶えな亜美を大気は満足そうに眺める。
濡れた亜美の唇を親指の腹で、グッとぬぐうとペロリと舐める。

「っ…はぁっ…たい…きっ…さんっ…?」
乱れた呼吸の中で、自分の名を呼ぶ亜美の声に、大気は笑みを浮かべる。
「わかりましたか?」
「はぁっ…えっ?」
「自分がどれだけ無防備かが…わかりましたか?」
「はっ…はぁっ」
「わからなかったのなら、何度でもしますよ?」
「わっ…わかり、ました…からっ」
亜美は真っ赤になり、一滴、涙をこぼす。
そんな彼女をしっかりと抱きしめると、大気はこの教室にいた亜美と自分以外の人物に目をやる。

『浦和良』は、今見た事が信じられないと言うような表情だ。

「あぁ、まだいたんですか?」
大気はわざと、挑発的に言う。
「くっ!」
浦和はギリッと歯を食い縛り大気を睨む。

「何…を、してるんだ?」
浦和は自分の目の前で起こった衝撃的な事実に軽い目眩を覚えながらも、なんとかそれだけを口にした。

「『何』?見ていてわかりませんでしたか?キスしたに決まってるじゃないですか」
あくまで平然と言う大気に、浦和は狼狽えながら聞く。
「っ…だからっ…なんで亜美さんにキスしてるんだよ!」

大気は、言い募る浦和を冷たい目で見る。
「…そんなの私と“亜美”が『恋人同士』だからに決まってるじゃないですか」
静かな声音だが、浦和の神経を逆撫でする大気の物言い。
分かっていたその事実が告げられた事により、浦和の頭に血がのぼる。

「ふざけるなっ!」
突然の浦和の大声に驚いた亜美が、大気の腕の中でびくりとふるえる。
大気はなだめるように亜美の頭をポンポンと優しく叩くと、腕の力をゆるめ、亜美を解放し自分の隣に立たせ、浦和と向き合う。

「ふざけてなんかいませんよ。私はふざけて女性にキスなんてしません」
大気は浦和の眼差しを真っ向から受け止め、先ほどまでと違い、至極真面目な声音でそう告げる。

偽りの感じられない大気の言葉に、浦和は静かに問いかける。
「トップアイドルの君なら、女の子なんていくらでも寄ってくるだろう?
なのに…なんで?なんで亜美さんなんだよ?」

大気はすぐには答えずに、亜美に向き直る。

一度ゆっくりと目を伏せ、そっと目を開く。
そして、目の前にいる一人の少女を見つめる。





自分よりも
小さくて華奢な体

サラサラで
ふわふわで
やわらかな
碧いショートヘア

髪と同じ
碧く大きな瞳
長いまつげ

小さく可愛らしい鼻

ピンクに染まる
やわらかい頬

プルンとした
艶やかで甘い唇

細い肩に
細い手首
小さな手
スラリとした指

きつく抱きしめると
折れてしまいそうに
細い腰

抱きしめた時に感じる
柔らかな胸のふくらみ

小さなおしり
細い脚



そして
優しい心

“セーラーマーキュリー”としての
強い志



すべてが
――亜美のすべてが
大気は愛しい

愛しくて
可愛くて
大切でたまらない



「他の女性なんてどうでもいい」
大気は静かに話し始める。
「私が好きなのは」
亜美をそっと優しく抱きしめる。
「亜美だけなんです。亜美だけしか――愛せない」

「大気…さん?」

「私は亜美を好きになって、はじめて人を愛しいと思った。護りたいと思ったんです」
その言葉を聞いた亜美は真っ赤になる。



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