大気×亜美 | ナノ




4.“亜美”と「水野」

そしてお昼休み
「亜美さん」
お昼の準備をした亜美が席を立った時、浦和が声をかけた。
「なぁに?」
「あのっ!もし良かったら」
浦和が何かを言いかけた時だった。



亜美の席へと近付いた大気は一つ息を吸い込む。

そして

彼女の名を――呼ぶ。



「亜美」



いつもの
“呼び方”である
『亜美さん』ではなく
――『亜美』と呼んだ



他の男と
同じ“呼び方”で
“彼女”を
呼ぶなんて

そんなの
冗談じゃない

その“名前”を
呼んでもいいのは

自分だけだと
――教えてやる

“亜美”自身にも
「彼女達」にも
「仲間」にも
クラスメイトにも

そして
誰より
――「浦和良」に

彼女を誰よりも
――愛しているのは
自分なのだと
――わからせてやる



「っ」
亜美は、驚きのあまり息をのむ。

「亜美?」
大気は、亜美を浦和の視界から遮る位置に立つ。

彼女の瞳を正面から見据えて、もう一度――“名前”を呼ぶ。

「あ、は…い」
亜美は大気の瞳に吸い込まれそうになりながら、返事をする。

「行きましょう?」
そう言って亜美の手を握り、もう片方の手で亜美の弁当袋を持つ。
振り向き、みんなが待つ扉に向かう瞬間――大気は浦和にニヤリと微笑んでみせた。

「っ!」
浦和は驚いたようにこちらを見ていた。

星野や夜天も同じで『黒大気降臨』と口をそろえボソリと呟く。

その横ではうさぎ達がなにやら話している。
「亜美ちゃん…泣きそうになってるね」
「いやぁ、真っ昼間からすっごいもん見ちゃったわぁ」
「美奈子ちゃんは、さっきから何してるのさ?」
携帯を操作している美奈子に聞くと自信満々に言った。
「動画撮影よ!おもしろそうだからレイちゃんにも教えてあげなきゃ!」
「美奈…」
夜天が疲れた様子で美奈子から携帯を奪う。
「お願いだからこれ以上、大気の逆鱗に触れないで…」
「言っとくけど、俺たちの中で怒ると一番恐いの大気だぜ?」
星野も加勢し、美奈子は拗ねながらも諦めたようだ。

「お待たせしました」と言いながら大気と亜美が来たので、みんなで屋上に向かう。



教室は、先ほどの大気の行動で多少騒然としていた。
中には浦和に同情の眼差しを向ける生徒もいる。

大気と亜美の関係を知らない生徒はいない。
転入したばかりだから知らなかっただろうが普通にしていれば、いずれ二人の関係に必ず気付く。

もちろん、星野とうさぎ、夜天と美奈子の関係にも。



浦和が呆然としていると、同じクラスの男子が声をかけてきた。

「あーっ…と、良かったら俺たちと一緒に食わねぇ?」
「あ、はい」
気をつかってくれたのだろう、浦和は彼らのグループ――どうやら三人のようだ――に混ざって一緒にお昼を食べることにした。

「よろしくな。俺は柏木。ちなみに十番中学出身」
浦和に声をかけてきた生徒が人懐っこい笑顔で自己紹介する。
「僕は宮下。十番中だよ」
「オレ田沼。オレも十番出身だ」
「浦和です。よろしく」
お互いに自己紹介した四人は弁当を食べ始める。



「なあ?浦和って水野のこと狙ってんの?」
持ってきた弁当を平らげ、購買で買ってきたパンを頬張りながら、柏木が聞いた。

「…はい」
「そっか…」
「相手が大気じゃ勝ち目ねーぞ?」
田沼が言う。
「そーそ。僕たちも諦めたんだ」
宮下がサラッと白状する。
「え?」
「俺達がつるむようになったキッカケって水野なんだよ」
「亜美さん?」
代表して柏木が説明する。

「俺と宮下は去年、水野と同じクラスだった。田沼は月野達のクラスだった。でな――」



十番中学出身の彼らは当然、亜美の事を知っていた。

つねに学年トップの天才少女。
それどころか統一模試でも、必ず5位以内に入る彼女を知らない生徒はいなかった。

彼らは皆、最初は、亜美のことを頭がいいだけの少女だと思っていた。

学校でも本ばかり読んで、あまり人と話さない。
いつも参考書を開いて勉強ばかりしている。

それが二年生になり、うさぎ達と仲良くなってから雰囲気が変わった。

表情が明るくなり、よく笑うようになった。
話をしてみると、普通の女の子だった。

わからない問題を聞くと、わかりやすく教えてくれた。

その頃から亜美は密かに人気があった。

笑顔が可愛い。
意外と天然なところがある。

そのギャップも可愛いなどが理由だった。





「で、いつの間にか水野のことを話してるうちに…な?」
「うん」
「それで?告白とかは?」
『した』
三人が口を揃えて答える。

「でも、なぁ?」
「うん」
「『ごめんなさい。今は恋とか考えられなくて』ってさ…」
「あ、ちなみにこれは中学の時の話だよ」
宮下が捕捉する。

「僕、この五月に水野にもう一度告白したんだよ」
「「なにぃっ!」」
柏木と田沼が驚いて宮下をみる。

「そしたら…『気持ちは嬉しいです。だけどごめんなさい。気になる人がいるんです』って言われてさ」
「それって…」
「大気だよな?」
「多分ね」

「……あの、その頃にはもう二人は付き合ってたんじゃ…?」
浦和が不思議に思い聞くと、田沼が「いや」と返事をした。
「そもそも大気達って一回どっか行って、またここに戻ってきたんだ。
夏休み明けに再転入してきたんだよ」
「え?」
浦和は知らなかった事実に驚く。

「あいつらがどっか行った時、すでにクラス割りが決まってたらしいから、もしまた転入してくるならこのクラスって確定だったらしいぜ」
「えっ?僕そんなの始めて聞いた」
「まぁ、あくまで噂だけどな」

「じゃあ、あの二人が付き合い始めたのって最近?」
「うん?多分ね。二学期に入ってからか、その少し前なんじゃないかな?」
宮下が少し考えながら言う。

「君達は、すぐにあの二人の関係を認められたんですか?」
「認めるっつーかなぁ…」
「水野のあんな嬉しそうな笑顔を見せられた日には」
「オレ達の完敗だって話だ」
「え?」
「水野さ。あ、これは月野と愛野もだったんだけど、あいつらがいなくなってから元気なかったんだ」
田沼が思い出しながら言う。

「笑ってても、なんか辛そうだったよ」
「俺達はそんな水野を見てたからさ…。大気が戻ってきて、また前みたいな笑顔が見られるようになったってだけで満足したんだよ」
「…そうなんだ」
浦和は彼らの話を聞きながら、朝の亜美の笑顔を思い出す。



“大気光”に
向けられた笑顔

見たことのない
亜美さんの笑顔

可愛くて、
綺麗だった。

あれは
恋人である
“大気光”にしか
見せない
笑顔だったのか…



「浦和?」
「どうしたの?」
「ダイジョブか?」
三人が心配そうに自分を見ていたことに気が付き「平気です」と、言うと、弁当箱に残っていた唐揚げを口にほうりこむ。

「なぁ、水野に告んの?」
「ぐっ!」
突然そう聞かれ、驚いた浦和は喉に唐揚げをつめそうになる。
宮下がお茶をくれたので、それで流し込む。
「っ、いきなりなに言い出すんだよっ!」
「おっ」
浦和の反応に田沼が嬉しそうに笑う。
「いい感じにほぐれてきたじゃん。同級生なんだしさ、丁寧語やめようぜ?」
「あ、うん」
「俺らは浦和を応援するぜ〜!」
「当たって砕けろってね!」
「レッツ玉砕!」
あまり励ましになっていない彼らの言葉に苦笑しつつも、浦和は少し心が軽くなるのを感じた。

(当たって砕けろって…応援じゃないよな)
苦笑しながら、浦和は一人の少女を想う。

(告白…か)



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