大気×亜美 | ナノ




3.昨日

そのうちに他の生徒達も登校してきた。

まことと美奈子が亜美たちの席の方にやって来た。
彼女たちが「おはよう」と声をかけてきたことで大気と浦和は互いの探り合いを一時中断して、彼女達と会話をする。

しばらくすると星野と夜天もやって来た。
窓際の席を見つめ、知らない生徒がいることに首を傾げる。
大気の時と同じように互いの自己紹介をすませる。
遅刻ギリギリでうさぎが登校してきた。

その後、いつものように授業はすすんだ。



休み時間
浦和はなにかと亜美に話しかけていたが、それを快く思わない大気の機嫌はどんどん悪くなっていった。





「おい…おだんご?あれ…なんとかならねーの?」
星野が言う『あれ』とは浦和良のことだ。

「そもそもなんであの転校生は水野の隣になったの?」
夜天も美奈子に聞く。
うさぎ、美奈子、まことは顔を見合わせひとつ頷くと昨日のことを話しはじめる。





――昨日
十番高校2年3組の朝のホームルーム

『はい。みんなおはよう。月野さん今日は遅刻しなかったわね』
入ってきた担任が、遅刻常習犯のうさぎに一言。
『連絡事項の前に、今日はこのクラスに転入生がいるので紹介するわね。
少しらしいけれど、十番中学に通っていたことがあったらしいから、もしかしたら知ってる子もいるかもしれないわね。
入ってちょうだい』

『はい』と、声が聞こえ、ガラリと前の扉が開かれ、一人の生徒が入ってきた。

その人物は――
『みなさん。はじめまして。浦和良です。これからよろしくおねがいします』

うさぎ達の知っている男子生徒だった。

『さっき先生がおっしゃったように、十番中学にも一ヶ月ほどですが通ってました。
そうですね…』
そう呟きながら教室中をぐるりと見渡し、ピタリと窓際の生徒の方で視線が止まった。

『知ってる人がいます…ね』

浦和の視線の先――水野亜美――を見た担任が気付いた。

『あぁ、水野さんも十番中学だったわよね。
じゃあ浦和くんの席は水野さんの隣にするわね。
水野さんお昼休みにでも学校案内おねがいね?』
『はい。わかりました』
『はい。じゃあそこの列、水野さんの隣からひとつずつ後ろにつめて』

担任は、素早く指示を出し亜美の隣は空席となった。
そこに浦和が近付いて行き、亜美に話しかけた。

『久しぶり…だね』
『ホントね』
『これからよろしく。亜美さん』
『えぇ。こちらこそよろしくね。良くん』





「え?なにあいつ水野の元カレなのか?」
「違うよ」
「亜美ちゃんにとっては“いいお友達”だろうね」
「水野にとってはってことは…」
「どう見ても浦和くんにとっては“お友達以上”よねぇ」





そしてお昼休み
いつも、みんなで屋上でお昼ご飯を食べるのだが、この日、浦和の学校案内を頼まれていた亜美は教室で食べると言った。
じゃあうさぎ達も一緒に教室で、と言う話になったところに、浦和が「僕もご一緒していいですか?」と、聞いてきた。
特に、断る理由もなかったため、快く了解した。

食事をしながら、浦和にどうしてまたこっちに戻ってきたのかを聞いてみた。

父が海外転勤になり母はついていったが、自分は日本に残りたいと言ったら、すんなりオッケーをもらえた。
一人暮らしは高校を卒業してからにするように言われ、今は東京の叔父夫婦のところで世話になっているとのことだった。

『まさか、またみなさんとお会いできるとは思っていませんでしたよ。
本当にすごく嬉しいです』
そう言った浦和の目線は隣に座っていた亜美に注がれていた。

そんな話もそこそこに昼食を終え、なんとなく二人きりにはしない方がいい気がしたうさぎ達。

『せっかくだからあたし達も一緒に校内案内回っちゃおうよ』と、うさぎが言うと、亜美が『でも、みんなせっかくのお昼休みなんだし、ゆっくりしたいんじゃ…』と、気遣いをしてくれた。
美奈子が『今日はお昼を食べ過ぎちゃったから歩きたい』と言って、結局五人で校内をまわった。



「水野って…」
「天然だよね…」
星野と夜天が今さらな事実を口にする。
「そこが亜美ちゃんの可愛いところなの!」
うさぎが言う。

「まぁ、昨日はそんな感じだったのよ」
美奈子が説明は終わりと言う感じで言った。

「ちなみに放課後は勉強会だったから特になにもなかったよ」
まことが補足する。

うさぎ、美奈子、まこと、星野、夜天は亜美の席を見つめる。

浦和となにやら話をしている。

「昨日の休み時間もずっとあんな感じだったんですか?」
「うん。浦和くんはなにかと亜美ちゃんに話しかけてたよ」
まことが答える。
「……そうですか…」
「ん?」

今の声は――
「大気さん!?」
いつの間にか近付いてきていた大気だ。

「ずっと話しかけられていたんですか…」

なにやら納得した様子で自分の席へ戻って行った。

「「大気…」」
「「「大気さん」」」
みんなは、大気のまわりになにやら黒いオーラが見えた気がした。



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