大気×亜美 | ナノ




2.探り合い

(…なんだ?今の)
浦和は今の“大気光”の態度について考える。

教室に入ったら向かい合って座る二人の生徒がいた。

一人は自分が想いを寄せる少女。
振り向いた一人はテレビで見たことがある青年。

自分は亜美さんと挨拶を交わした。
それから“大気光”と自己紹介をした。
それで…“大気光”と握手をしたら、強く力を入れられた。
少し痛いくらいに。

驚いて“大気光”を見たら微笑んだ――それはもう完璧すぎる笑顔だった。
でも、目が全然笑ってなかった…

亜美さんを見ると、キョトンとした表情でこっちを見ていた。

――あ、カワイイ

“大気光”も亜美さんを見つめていた。
そして彼女を見つめたまま、微笑んだ。
とても柔らかい笑顔だった。

亜美さんもとてもかわいらしく笑った。

彼女のそんな笑顔を見るのは初めてだった。

(あれ?そもそもこんなに早い時間から二人で何してるんだ?
いや…大気光は昨日休んだ分のノートを、亜美さんに見せてもらってるだけなんだろうけど…
それにしたって早すぎないか?)

浦和は仲良さげに向かい合う二人を眺める。
さっきの二人の間に流れた空気は…

(まさか…付き合ってるの…か?)

しかし“大気光”はトップアイドルだ。
いくらなんでもそれは…と、思うが……

(そりゃあ亜美さんはとても魅力的な女の子だけれど…考えすぎだよな?
たまたま同じ学校で、
たまたま一緒のクラスで、
たまたま話が合うってだけだ。
付き合ってるわけじゃない…よな?)

浦和の視線に気付かない二人は、ノートを写しながら楽しそうに話をしている。

その空気は――自分が割り込めるようなものではなかった。



浦和良にとって『水野亜美』は“特別な女の子”だ。

それは
彼女と出会った
あの瞬間から――

模試会場の隣の席で
転がっていった
消しゴムを拾って
『もう少し
 落ち着いた方が
 いいわよ』

微笑んで

『がんばって』

励ましてくれた
彼女をみたときに

一目惚れだった



自分が本当は
妖魔七人衆の
一人だと分かって
『妖魔になったら
 殺してください』

そう言った
自分に

『未来というのは
 自分の手で
 つくるものよ』

彼女は
まっすぐに
自分を見て
そう言ってくれた

すごく嬉しかった
その言葉に救われた



その頃を境に
昔からあった
『未来を
 予知する能力』は
弱くなっていき

今ではもう
なくなった

今の
自分にとっての
【未来】は
“予知”ではなく
“未知”となった



十番高校に転入先を決めたのは偶然だった。
父の海外転勤の間、お世話になる叔父夫婦の家に近かったからだ。
そこで、彼女と再会して、同じクラスになれて、隣の席になれるとは思っていなかった。
亜美は出会った時と同じ、優しい微笑みで言ってくれた。
『久しぶりね良くん』と。

(亜美さん…)
大気光と楽しそうに話す亜美を見つめる。
(僕は、あなたのことが好きなんです)



亜美は浦和の視線に気づいてはいなかった。
しかし、その恋人である大気はその視線に気付いていた。
そんな視線を向けられた大気は心中穏やかではない。

昨日転入してきたばかりの男子生徒が自分の彼女を名前で呼んだ。
そして彼女もその生徒を下の名前で呼んでいた。

考えられるのは、二人が以前からの知り合いだということ。
そうでなければ、昨日今日知り合ったばかりの異性を亜美が下の名前で呼ぶわけがない。

(見るな…そんな目で彼女を――亜美さんを見るな)

浦和の視線が気に入らない。
その視線が、その瞳が――亜美を好きだ――と語っている。

わかるのだ。
大気自身も、そんな風に亜美を見つめているからこそ…
嫌でもその視線にこめられた想いに気付いてしまう。

それに気付いていないのは当人である亜美だけだ。

大気はノートを写し終え亜美を見つめる。

その視線に気付いた亜美が少し恥ずかしそうに微笑む。

(あなたは自分のことには鈍感だ…そこが可愛くてたまらないんですけど)

大気も自然と笑顔になる。





浦和は知らない。

大気光が
こんなに優しく微笑みかけるのは
水野亜美にだけだと言うこと。



浦和は知らない。

自分が想いを寄せる少女が
大気光にだけ
見せる笑顔があると言うこと。



彼はまだ――知らない



目次
Top
[*prev] [next#]






「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -