僕ときみのお家騒動のこと \


『…我々はそちらのボンゴレ門外顧問の娘に用がある。退いて頂こうか。』
『彼女は僕の伴侶だし、あなた達の指示に従う謂れはないな。』

中心の男がみるみる顔を歪めた。広い会場の隅、彼らの恐れるボンゴレ関係者とは随分離れた場所で静かに食事をしていたところは彼らにしてみれば好機だったのだろう。傍らに恭弥がいる時点、いや奈都菜に手を出す時点で好機も何もないのだが、生憎男達はそれを知らない。
取り出される拳銃。照準は己の向こう、一切顔色を変えずに佇む彼女だ。にわかに殺気立った一角を九代目や家光含めた周囲が察知したところで、刹那、恭弥は一閃を繰り出して向けられた全ての銃口を弾いた。

『…あの子に武器を向けるということは、殺される覚悟があるってことだよね?』

瞬く間に男達を落とし、中心の男、恐らく主犯格だろうの背後から首筋にトンファーを突き付ける。硬直して動かない男に、仕込まれた刃を出して凄むと、白旗の意思を見せた。咬み殺し甲斐のない。

『奈都菜ちゃん、雲雀くん、無事かね!?』
『九代目。大丈夫ですよー、恭弥さんが片付けちゃいました。』

ギャラリーと成り果てた来賓達を掻き分けて、老人と家光が駆け寄ってきた。そして我関せずとケーキを頬張る奈都菜と、ぴくりともしない数人の男達に囲まれながら、聴取用に男を確保している無傷の恭弥を見て、安堵したように息を吐いた。

『それはよかった。…お手を煩わせてしまい申し訳ありません、代表殿。その男達がどこの者なのか、こちらで責任を持って調査したいので、家光に引き渡して頂けませんか?』

穏やかな好好爺の顔が一瞬にしてボスの顔になるのに、恭弥は内心で感嘆した。もう少し若ければ戦いを挑んだところだが、それが叶わないのが残念だと思う。

『分かりました。ああ、ただ一言だけ。』

家光に捕縛された男に向き直る。苦々しげな表情は、恭弥の存在という誤算ゆえか。まあそもそも、ボンゴレのお膝元でボンゴレ関係者、それも一般人を襲おうというのは流石に無理があっただろうに。唇を吊り上げて嘲笑う。

『この子は――沢田奈都菜は、門外顧問の娘の前に、僕の伴侶だ。手を伸ばすなら僕の手で死ぬ覚悟をしておいてね。』

今の己は相当悪どい顔をしているに違いないと、青ざめた男の顔色を見て何となしに思った。そんな顔さえ傍らの奈都菜は「格好いい」と誉めそやすのだから、彼女の趣味の悪さは大概だ。
どこからか現れたボンゴレの黒服達が伸びている男らを回収し、奈都菜が満足するところまでデザートを食したところで、ふたりは惜しまれながらパーティー会場を後にした。


与えられた客室に戻り、夜も更けた頃。すうすうと寝息を立てる奈都菜の気配に安堵を覚えながら微睡んでいると、扉の向こうに知った気配があるのに気づいて、恭弥は覚醒した。こんな時間帯に何用なのか、無視しても構わないだろうかと考えつつも、その人物が立ち去る風がなさそうなのに溜め息をひとつ。静かにベッドを離れ、廊下への扉を開けると予想通りだった。

「夜分にすまないな。」

今までとは打って変わって殊勝な雰囲気の家光が、壁に凭れて恭弥を待っていた。

「何か用?」

不遜な言葉を投げつけても、眉ひとつ動かさない男は、まるで別人のようだった。それどころか申し訳なさそうに苦笑されて、恭弥は目を疑わずにはいられない。

「どうしても、礼を言いたかったんだ。先程は娘をありがとう。」
「別に。僕にとってあの子を傷つけられるのが業腹なだけだ、あなたの為じゃない。」
「分かっている、それでも言わせてくれ。今じゃないと言えないだろうからな。」

父親ってのは難儀なんだ。笑う家光の顔は守るものを持つ男の顔だった。我が子達をマフィアに引き込もうとしているのは恭弥にはやはり頂けないが、それでも彼なりに愛しているのだろうことは窺えた。本当に難儀なことだ。
沈黙する恭弥に、吐き出すように男は呟いた。

「…本当は、娘がきみを連れてきてくれてよかったと思っている。」

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