僕ときみのお家騒動のこと ]


「さもなくば、ボンゴレはナツに婚約者でも何でも宛がっただろう。それを回避できたのは僥倖だった。」

思わず眉を顰める。そうでなければいい、と願った予想は外れてくれなかった訳だ。そうして、はたと思い当たったことに、恭弥は口を開いた。

「ちょっと待って。まさか、あの手紙もボンゴレの意向なのかい?」
「…老いぼれどもが五月蝿くてな。地位があるのもなかなか厄介だ。」

表情を消して言外に肯定する男に、舌打ちする。アルコバレーノがボンゴレを神聖なもののように話すのを多々聞いていたし、実際ボンゴレはイタリアンマフィアのなかでは高尚なようだが、始まりこそ自警団とはいえ所詮はマフィアだ。薄暗い部分は数え切れないことはかつての経験と知識から恭弥も知っている。それさえも包み込むから、浅蜊貝の名を冠しながらも歴代ボスは海原でなく大空と形容されたのだろうか。限りなく神に近しい世界の名を、祈るように呼ぶのだろうか。
すっかり呆れてしまった恭弥は、家光を見定めるようにじっと見つめた。

「それでも、あなたはそれを捨てないんだね。」
「……。」
「僕なら捨てるよ。ううん、全部壊してやる。あの子を傷つけるものをむざむざ見逃してやれるほど、僕は寛容じゃない。それでも、あなたはこの群れを選ぶんだね。」

どうしても責めるような口調になってしまうのは、あの少年の抱えていた痛みを知っているからだ。だって、至って普通の子供だったのだ。人並みと言うにはあまりにも落ちこぼれだったが、お人好しで臆病で淋しがりな、優しい子供だったのだ。マフィアのボス候補になったからこそ彼は恭弥の目に留まったのだといえばそうなのだが、彼が傷つくぐらいなら出会えなくてもよかったとさえ思う。少年ならば、多くは望めなくとも、ささやかな幸福を甘受して穏やかに生きられただろう。その手のひらは振るわれることなく、誰かを優しく愛でただろう。
家光が眩しげに目を細めた。

「九代目の仰った通りだ。俺の娘は、本当にいい目をしている。」

答えになっていない答え。けれどそれで充分だった。ボンゴレがどうあったとしても、元より恭弥は奈都菜に関して譲る気は微塵もないのだから、これからも何も変わらない。
話は終わったと踵を返して客室に戻る。男は止めなかった。眠る娘が気がかりだろうに、入ることもしなかった。
奈都菜の微かな寝息が満ちた静かな暗闇で、恭弥はベッドではなくソファにずるずると沈み込んだ。どうにもやるせなくて、男を一発殴っておけばよかった、と今更に後悔した。明日の昼にはここを発ち、空港に行かねばならない。並盛に帰れるのは明後日だが、それが酷く待ち遠しく思えた。そっと閉じた瞼の裏、いつだって笑っている少年と同じ顔で奈都菜が笑う。きみを、守るよ。




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