僕ときみのお家騒動のこと [


《沢田綱吉》はどこまでも大空なのだ。
恭弥の愛したこの子供が、守られるだけの立場に甘んじないことを知っている。何かを抱擁しただけ降りかかってくる悪意に、望まぬ拳を振るっていたのをずっと見ていたから。その姿を美しいと思っていたから。だからこそ、その愛が少なからず恭弥以外に向けられることが気に食わない。それも、彼女を傷つけると分かりきっているマフィア、その業を再び背負わせるなどと、誰が許しても恭弥が許せない。彼らがどこまでも大空で在り続けるなら、その空を満たし守るのは、やはり己であるべきだと思うのだ。
いつかそれらを背負うだろう彼女の弟を思った。同じ姿に同じ心を持つ綱吉を、恭弥はずっと気にかけている。もし彼が望むならボンゴレを潰してやろうとも思っている。きっと彼がその選択肢をとらぬことを知りながら。笑いこけていた奈都菜が、自身を包む腕に力が込められたのに気づいて、笑いを止めた。それに素知らぬ振りをして、その首筋に顔を埋めた。


その夜に開かれたパーティーは盛大なものだった。奈都菜の為のドレスなどはボンゴレ側にも用意されているという話だったのだが、恭弥が他人に彼女を着飾られるのを厭って持参してきていたので、それらを身に付けることはなかった。獄寺に関して誤解が解け落ち着いた家光はたいそう残念がったが、奈都菜がプリンセスラインの真っ白なパーティードレス姿を見せると、すぐに上機嫌になった。

「いやあ、ナツは白がよく似合うなあ!」

でれでれと格好を崩す男と初めて意見があった気がする。淡い異国の色彩を持つ彼女が純白を纏えばさぞ美しかろうと、雲雀の家にあったものから恭弥の独断で選んだものだったが、正解だった。

「…うっかり天使と見間違えたよ。」

素直な感想を述べて奈都菜の傍らに立ち、エスコートする為に腰を抱いて白魚のような手をとる。義父からの歯軋りと殺気をさらり無視しつつ彼女を伺うと、頬を染めて心ここに在らずといった様子で、思わず首を傾げた。

「奈都菜?」
「きょうやさん、かっこいい。」

恍惚と呟かれた言葉に、自身を見下ろす。漆黒のスーツは確かに上等な生地ではあるが、さしていつもと変わらないように思う。けれど奈都菜にはそれが至高のものに見えるらしく、これでもかとばかりに力強く主張された。

「だってだって、同じ真っ黒とはいえいつもは学ランじゃないですか!風に靡く学ランもそりゃあ格好いいですよ!?格好いいですけどスーツは別格ですよ!凄くストイックな印象なのに恭弥さんの腰の細さとか強調されてエロいんですよ!まだ中学生なのに何でそんなエロいんですか!しかもただでさえ肌が白いのにスーツの黒で臥しくれ立った綺麗なお手ての白さが尚更際立つんですよ!エロい!恭弥さんエロい!抱いて!」
「…分かったからエロいエロい言わないでくれる。」

最近小動物から肉食動物にジョブチェンジしそうな勢いの恋人をどうどうと宥める。背後の家光はとうとう無言で男泣きしていて、九代目に慰められていた。呼び寄せなければ愛娘に抱き続けていただろう幻想を粉々にされずに済んだろうに、哀れな男だ。
構わずパーティーに出ると、注目が一手に向いたのが分かった。騒めく群れを咬み殺せないのは癪だったが、風紀財団の研究に興味津々のマフィアのなかに、前世で取引していた信の置ける者との再会もあり、結果としては上々だった。
その気配にふたりが気づくまでは。
立食形式のディナーに舌鼓を打っていた奈都菜が、くいっと袖を引くのに、自らの手を重ねることで応え、さりげなさを装って彼女の背後に近づいてきた男達に対峙する。

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