僕ときみのお家騒動のこと Z


「親父…。」

奈都菜が先程まで甘く潤んでいた瞳を半目にして睨んだ先に立つ男は、こちらを認識した途端にぶるぶると震え始めた。そう言えば彼女の上に覆い被さったままだった。

「貴様、俺の純真無垢な娘に手ぇ出しやがってー!!!!!!」

男が叫んだ。気の所為かどこかで聞いた台詞だ。イタリアくんだりまで来てまさかのデジャヴか。彼女をそう表現したくなる気持ちは己にもよく分かるが。
至極冷静な恭弥に家光が殴りかかってくる。それに目の色を変えて、下に組み敷いていた筈の奈都菜が飛び出して、その鳩尾に鮮やかな飛び蹴りを食らわせた。ちなみに彼女が今履いているのは夜会に合わせて恭弥が贈ったヒールである。痛みは想像を絶するだろう。「がはっ」という生々しい呻き声を実の父親に上げさせた奈都菜が、忌々しげに肩で叫んだ。

「これから手ぇ出してもらうんだよクソ親父!!!」

うん、凄く論点が違う気がする。というかずっと疑問だったのだが、この子いつからこんなにも積極的になったのだろう。憤慨する彼女と沈んだその父親を尻目に、何となく疎外感を感じるのが面白くなくて、恭弥は奈都菜を手招いた。

「奈都菜、そんな汚い言葉使うんじゃないよ。ほらおいで。」
「はあい。ごめんなさい恭弥さん。」

素直に謝れるのは彼女の美徳だ。謝るべき相手が違うのでは、という疑問は、持つ者がいなかった為に突っ込まれることはなかった。ぽすん、小柄な少女を再び腕のなかに収める。と、飛び蹴りを受けてげほげほ噎せていた男が復活した。そこはやはり門外顧問、なかなかタフだ。

「うう…ナツ、酷いじゃないか!?」
「恭弥さんを侮辱するからでしょ、自業自得。」
「小さい頃はパパのお嫁さんになるって言ったことに俺がしたじゃないかー!!!」
「捏造かよ!!!!!」

どうやら愛娘が己といちゃつく姿には早くも耐性が出来たらしく、家光は今にも男泣きし出しそうな勢いで奈都菜の足元に縋りついた。大の男が哀れなほど小さく見えて、娘に対する世の中の父親というのは皆こうなのだろうか。だとしたら所謂娘の父親離れも致し方ないのではなかろうか。

「俺は認めん…認めんぞう…。ナツ、何でよりにもよってそんな男を…。」
「じゃあ何。獄寺くんでも連れてくればよかったわけ?」
「スモーキン・ボムも敵かああああああ!!?」

最早半狂乱の男は、目の前の恭弥のことなどすっかり忘れてしまったようだった。相手にされても鬱陶しいので一向に構わないのだが、ヒートアップして論点がどんどんずれていくあたり、似ている親子だと思う。

「失礼な。オレは恭弥さんにぞっこんだし獄寺くんはツナにぞっこんだよ。」

やや古い表現を用いて奈都菜が鼻で笑った。こうして確かな言葉にされると面映ゆい。そもそもの性状自体は臆病で謙虚な小動物だと知っているだけに、恭弥への愛を声高に主張されると感慨深いものがある。

「そうか、それはよか…ツナにぞっこんだと…?」

その感慨も、盛大に誤解をして飛び出して行った男の背中に奈都菜がポカンとしたあと爆笑したことにより、すぐさま消え失せたが。
父親に対して余程フラストレーションが溜まっていたらしい。もしかしたら前世まで含めての。だとしても恭弥にとって悪いことではないので、それを咎めることはない。《沢田綱吉》が少なからず愛していたボンゴレから、奈都菜の心が離れるなら万々歳だ。

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