僕ときみのお家騒動のこと Y


風紀財団はメンバーの中心が中学生ということもあり、幹部の情報などは全てシャットアウトされていた為、有能でありながらも謎に包まれた組織として有名だった。特に、アニマルリングと匣兵器の研究開発に着手してからは、イタリアンマフィアの間でよく話題に上るようになり、風紀財団の代表は一体どんな人物なのかと常々噂されていた、らしい。
それが、突如ボンゴレ門外顧問の娘の伴侶として現れ、それもボンゴレ主催のパーティーに出席するというので、ボンゴレ内は勿論のこと、参加する同盟マフィアの大多数が何としてもコネクションを持ちたいと大騒ぎ。しかし恭弥と奈都菜はあくまでも一般人。オメルタもあるが、危険に晒すわけにはいかないので、余計な手出しをされぬようボンゴレの重要な賓客として扱うことにしたというのだ。

「まあ、こちらとしては都合がいいけれどね。」

都合が良すぎて、逆にきな臭いぐらいだ。恭弥が不快げに眉を顰める一方で、いつものごとく腕のなかの奈都菜の心はすっかり凪いでいるようだった。

「んー…でもたぶん、もう大丈夫ですよ。親父はどうか分かりませんけど、九代目がいますし。」

ボンゴレを継いだ者にしか分からない痛みを共有するふたりの大空には、言葉がなくとも通じるものがあるのか。出国前、手紙を受け取った時の怒りや不安など忘れたかのように彼女が笑った。だとしたら、それは恭弥にとって酷く癪なことだと思う。

「きみは、随分あの老人を信頼しているんだね。」

抱いた彼女の身体ごとベッドに倒れ込んで、その肢体の上にそっと覆い被さる。口にした言葉が、存外いじけたような響きになったのは仕方がないだろう。それが《沢田綱吉》の性状だと分かっていても、面白くないものは面白くないのだから。
男に押し倒されたというのに、警戒心の欠片も見せないのも、卑怯だと思う。ふにゃりと溢された、無防備な笑みが憎らしい。

「だって、もし裏切られても、恭弥さんがいるじゃないですか?…この世のどこかで、あなたさえ生きていてくれるなら、オレは負けない。」

ご存知でしょう?軽やかな口調で与えられた甘い言葉は、真綿のような柔らかさで恭弥を縛り付ける枷そのものだ。抵抗しないのは、まるで疑っていないからだろう、恭弥が彼女に無体を働かないことを。その様子にいつだったか、傍にいると安心するのだとはにかんだのを思い出した。超直感は言ってみれば警戒心と同じで、常に気を張り巡らせなければならないのを、恭弥の傍でだけは止められるのだと。

「…本当に、きみは。」

溜め息は甘く溶けた。
哀れで愛しい子供だ。恭弥がボンゴレ内の抗争で撃たれた彼を庇って死んだ前の世で、己を追って自殺したという。恭弥を殺した銃弾が特殊弾と知って、一縷の望みに手をかけて。僅かな希望の先に佇んでいる浮き雲ただひとりの為に、何より大切にしていた筈の右腕を仲間を部下を、置き去りにして彼女はこの世界に生まれた。
本当はちゃんと分かっている、綱吉だった頃も奈都菜になってからも、恭弥だけが一等に特別で、だからこの子はささやかな嫉妬すらさせてはくれない。

「ねえ、キスしていい?」
「それ以上も大歓迎ですよ?」
「馬鹿。それ以上はまだしないよ、僕だって怖いんだから。」
「え、あなたにも怖いものなんてあるんですか?」

元々真ん丸な目を更に丸くされた。心外だと思った。だって、恭弥は男で奈都菜は女の子だ。かつては同性同士だったから、同年代とは思えぬひょろい身体もまだ見れたが、今は勝手が違う。明らかに違う骨格に華奢な身体は、強引に触れでもすれば脆く壊してしまいそうで。未知の女性である彼女に、元々薄い欲望よりも恐怖の方が先立ってしまう。
「うそだあ」だの「ありえない」だの「オニのカクラン!…カクラン?」だの並べ立てて終いに首を傾げる奈都菜に、本当に鈍感で罪深い生き物だと、改めて思う。

「ああもう、黙りなよ。」

小さな唇をそっと塞いだ。
まだ重ねるだけのキスで、こんなにも満たされるのだ。そんな性急に事を進める理由もないだろうと思う。既成事実など到底望めないことはお互い分かっているのだし。…ちょっと、ヘタレとか思ってないだろうね。違うから。石橋を叩いて渡りたいだけだから。
思いながら、近づいてくる荒々しい気配に気づいて唇を離したところで、鍵をかけていた客室の扉が突然吹っ飛んだ。ボンゴレのセキュリティ甘いな、と内心で感想を述べる。

「ナツーっ無事かーっ!!?」

犯人は予想通り、非常に認めたくないが、恭弥の義父にあたる男だった。

- 13 -


[*前] | [目次] | [次#]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -