僕ときみのお家騒動のこと V


それに、と懐の案内状を見て、家光からの手紙を見て、にやりと口の端を上げる。ただでさえボンゴレ初代の血統で、弟は次期十代目ドン・ボンゴレ(確定)だ。彼女に正面から婚姻を申し出る者がいれば、手段を選ばぬ不埒者もいるだろう。
沢田奈都菜が誰のものなのか、はっきり知らしめるには都合がいい。もう他の何にも、あの子供を譲るつもりはないのだから。
そうと決まればあとで彼女と打ち合わせようと、恭弥はバイクを力強く走らせた。


翌朝、沢田家までタクシーを走らせ奈都菜を迎えに行き、その足で指定されていた空港へ向かえば、プライベートジェットが用意されていたのに、ふたり顔を見合わせる。誰の計らいか知らないが、熱心なことだ。

「ボンゴレは欲張りだね。沢田綱吉だけじゃ飽き足らず、きみにまで手を伸ばすなんて。」
「どうせ、血だけですよ。」

つんと顔を反らした奈都菜を横抱きにして、突然のことに驚いた彼女の額に額を合わせる。

「でも、その血の一滴まで、きみは僕にくれるんでしょう?」
「…恭弥さんが望んで下さるなら。」
「当然。」

吐息のかかる距離で愛を囁けば、はにかみながら返される睦言が愛しい。蕩けた蜂蜜色に、桜色の唇が酷く扇情的で、ここが外でなく、傍らでいたたまれなさそうにしているボンゴレの黒服達がいなければ、今にも吐息ごと唇を奪ってしまいそうだ。

「お嬢様、雲雀様、そろそろ搭乗して頂けませんか…。」

ひとりの黒服は既に涙声だった。時間的にもそろそろ危ういか、と恭弥は奈都菜を抱え直して、素直に従ってやることにする。ほっと安堵の声が周囲から聴こえるが、門外顧問の部下だと名乗った男だけは変わらず所在なさげだった。家光の愛娘に対する溺愛ぶりを知っている彼は、奈都菜が並盛の籍においては既に恭弥の妻となっていること、目の前の明らかな相思相愛っぷりに、どう報告すべきか頭を悩ませていたのだ。しかも、聞けばお相手の少年は最近表社会でも裏社会でも台頭してきたあの風紀財団の代表ときて、他の仲間達は「流石は門外顧問のお嬢様、よい殿方をお選びになる」とすっかり歓迎ムード。機内でも仲睦まじく見目麗しいふたりの様を見守る姿勢で、外堀から埋まってしまいそうだ。
それこそが恭弥の狙いだったのだが。

「恭弥さん、はい、あーん。」
「ん、なかなかいいね。」
「ここら辺は腐ってもボンゴレですよね。」

やや失礼なことを言いながらも至極楽しそうに恭弥の口へ料理を運ぶ奈都菜が、いかに恭弥に夢中なのか。彼女にされるがまま、大人しく口を開ける恭弥が、いかに奈都菜に溺れているのか。見せつけるなら徹底的に、手始めは末端から。彼らはボンゴレ城に帰れば噂するに違いない、門外顧問の娘とその恋人である風紀財団代表の熱愛ぶりを。そうしていつか噂は身を結び、これが当たり前になる。そうなれば、ボンゴレが婚約者を用意するなどという面倒な可能性は殆どなくなるし、少なくとも彼女がボンゴレに傷つけられることはない。
食べ終えた皿を下げて貰い、一息吐く。

「さて、あとはきみの父親だけかな?」
「ですかね?結構思い通りに受け取って貰えましたもんね。」

ことり、首を傾げた奈都菜が悪戯っぽく笑う。恭弥の企みを聞いた時は「恥ずかしい」とまともに取り合わなかったのに、やってみれば結構ノリノリで意外だった。それを指摘してみれば、だって、と笑みが深まる。

「恭弥さん自慢してると思ったら楽しくなってきちゃって。」
「自慢?」
「この綺麗で可愛いひとはオレのなんですよーって、自慢してたつもりだったんです。ほら、皆さん凄く恭弥さんのこと見てたから。」

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