僕ときみのお家騒動のこと U 放課後、奈都菜を乗せて走らせたバイクで沢田家を訪れれば、件のアルコバレーノは予想していたとばかりに待ち構えていた。 「やあ赤ん坊。話は分かってるね?」 「…奈都菜のイタリア行きのことだろう。巻き込んですまねえな。電話で娘の近況を聞かれて、軽く答えたらこの様だった。」 「本当いい迷惑だよ。それで?断れるわけ?」 「今回は正式な文書で送ってきやがってるうえ、ボンゴレ側で『初代の血統である門外顧問の娘を招いてのパーティー』をすると既に公表している。移住とまでは言わんが、一度行くだけ行った方が角は立たねえだろうな。」 封筒を見れば、確かに同封されていたパーティー案内状には死炎が施されている。恭弥に膝抱っこされながら沈黙を貫いていた奈都菜が、すっと目を細めた。 「ボンゴレ燃やしてやろうか…。」 低い声で、誰もが膝を折りたくなる威圧感を出しながら唸る姿はさながらライオンだ。真っ正面からそれを受けたリボーンが一震えするが、恭弥にしてみればそんな彼女は拗ねた可愛い仔猫程度でしかなくて、宥めるように頭を撫でた。 「ねえ、これ、社交パーティーだよね。だったら、僕がこの子のパートナーとして出ても(こちら側には)問題ないよね?」 「そうだな、(こちら側には)一向に問題ないだろう。そういうことなら詫びとは言えないが俺からもボンゴレに手配しておくぞ。」 「頼むよ。…僕、風紀財団代表として出るから。奈都菜、僕の妻としてパーティーに出てくれるかい?」 「え?」 「プリーモの血統だとか門外顧問の娘だとかは嫌だ。気に食わない。僕の伴侶として出てよ。」 大きな蜂蜜色の目を丸くした彼女は、次の瞬間にはふわり、大輪の花が綻ぶように笑みを見せた。「はい!」その眩しさに思わず目を細めてしまう。かつては傍らに置くことさえ叶わなかった。 僕の天使、僕の唯一、僕の永遠。きみが傍で笑ってくれるなら何だってしてあげる。 アルコバレーノが呆れたように笑った気配がした。 「オメーら本当に…いや、何でもねえ。」 「珍しく歯切れが悪いね?」 「自ら馬に蹴られに行く馬鹿はいねえだろう。」 「それもそうだ。」 くすくす笑い合っていると、綱吉が帰ってきたのか、ぱたぱたと軽やかな足音が走る。明日から冬休み、浮かれているのだろう。彼が怯えるのに、わざわざ恭弥の訪問を知らせぬ方がよかろうと、早々に窓から失礼することにした。 「別に気にしなくていいのに。あれは、恐怖半分憧れ半分なんですから。」 《沢田綱吉》だっただけに、奈都菜の言葉には説得力があったが、それでも怯えさせるのは本意ではないので、丁重に断っておく。 「明日迎えに行くから。時間とか諸々はあとでメールするからそのつもりでね。」 「はあい。恭弥さん、お気をつけて。」 「ん。それじゃ、赤ん坊、よろしく。」 「おう。」 飛び降りながら、必要な準備を考える。今夜は忙しなくなりそうだと溜め息を吐きたくなったが、奈都菜とイタリア旅行に行くと考えればそんな苦労もなかったことになってしまうのだから、我ながら単純だなと思う。 [*前] | [目次] | [次#] |