手伝ってやるからもう少しだけ頑張れよ
「クロウ、来たぞーってうわ…」
「おお!天の助け!」
手伝ってやるからもう少し頑張れよ
「まったく、どうしたらこんなに散らかるんだ」
「いやープリントがなくてよ」
どうやら学校で提出しなくてはならないプリントを無くしたらしいクロウは、あまりのみつからなさにリィンに助けを求めた。文字通り足の踏み場のない部屋にうわ、となったリィンに懇願するように頭を下げて、リィンはその樹海に足を踏み入れることとなった。
「なんで一ヵ所ずつやらないんだよ。どんどん悪化してるじゃないか。出す前に先にゴミといるものをわける!」
「へーい」
軽く頷くクロウにゴミ袋を投げる。何でこんなに汚くなるんだ。あっちこっちにプリントやらカードゲームやらチェス駒やらが落ちている。どれがいるプリントでどれが要らないプリントなのかわからないのでひとまず纏めることにした。
「うお、見ろよこれ懐かしくね!」
「クロウ、真面目に…」
「ほら!」
「んぶっ」
顔面に突きつけられたのは古びたアルバムだった。その中の一枚に幼いクロウとクロウの祖父、そしてリィンとその家族が写っているものがある。
エリゼとクロウと小さな手を繋いでリィンは真ん中で無邪気に笑っていた。隣でどや顔でピースしているクロウもまだあどけない。
「懐かしい…昔皆で撮ったやつか」
「そうそう。昔のお前はこーんなにちっこくてくろうおにいちゃんくろうおにいちゃんって後ついてきて可愛かったのになー」
「また昔の話を持ち出すのか」
「仕方ねーだろ記憶にこびりついてんだ」
わしわしとリィンの頭を混ぜながらクロウは言う。そして今でもあんまり変わらねーかと言って笑った。どういうことだろう。
「おにいちゃんって呼ばれたいならまずは部屋の片付けくらいちゃんとしてくれ」
「へーへー冷たい弟分だぜ」
「本当に冷たかったらそもそも手伝いに来てなんかやらない」
「お前なんでそうオレにばっかりツンデレなんだよ」
「ツンデレってなんだ」
「何でもねー。素直じゃねーやつ」
他の人間には無条件で優しいくせに、クロウにだけ素直にならない。特別なのだろう、彼にとって。それが自分の特別と同じであればこれ以上いいことはないのに。クロウはそんなことを思いながら片付けをした。
アルバムの中みたいに無邪気に手を繋げなくなったのは、いつからだっけ。
***
「ぷはー!片付け終わりの麦茶はうまい!」
「すごい疲れた…何で俺がこんなに疲れるんだ…」
「お前真面目だからなー」
よしよしと頭を撫でられて、それで少しだけ許してやろうと言う気になってしまうのが悔しい。結局昔から変わらずに、リィンは幼馴染みのこの手に弱かった。だって何度も何度も救われてきたのだから。
頭を撫でてくれる手に憧れて、幼い頃よくエリゼに兄ぶってやっていた。自分がされて嬉しかったから、それをわけてあげたくて。
そして気付けば撫でるのが癖になってしまっていたのだ。どうしてくれる。
『くろうおにいちゃん!みてみてゆきうさぎ!』
『おお、良くできたな。よしよし』
『えへへー』
『にいさまー!えりぜもできました!』
『わあすごい!えりぜ、よしよし』
『うふふ』
幼い頃の憧憬を引き摺ったままここまで来ている。ずっと目指しているその手のひらは、いまだ遠い。