小説 | ナノ


果て無き世界で悶え苦しむ


“果て”を見るのが好きだった。一つに限らず、ただ果てを見るのが好きだった。
それは世界の果てだったり、命の果てだったり。
どれほど残酷でも、どんなにむなしくとも、どれだけ悲しかったとしても。
“果て”が好きだった。とても大きくて、だけど時折小さな果て。
小さい頃からの夢だった。「沢山の果てを知りたい」
どれほど大きくても小さくても、どんなものでもいい、“果てを知りたい”。

「ねぇ、ウルキオラ。この世界に、“果て”はあるの?」

藍染様から頂いた書物に目を落としているウルキオラの背に、寄り掛かるように背を預ける。呟きの答えは返って来ない。それもそうだろう。
以前から同じことを呟いては問いかけたが、後ろの彼から答えが返ってきたことはない。答える気はないのか、はたまた聞いているのかどうかも分からない。表情を見ても、元から無に等しい彼の表情から読み取れるものは何もないのだけれど。

「ウルキオラ。私は、果てが好き。変かもしれないけど、昔から色々な果てを見るのが好きだった。誰とも遊ばないで、毎日果てばかりを捜してた。でも、ちっぽけな存在である私が見れる果てはほんの少しだけ。世界の果ても、広い空の果ても海の果ても。大き過ぎて、私には見れない」

どれだけ手を伸ばしても、どれだけ強く焦がれても。まるで私を嘲笑うかのように――。

「お前には記憶が残っているのか?」

「!珍しい…ウルキオラが喋るなんて」

「答えろ。お前には記憶が残っているのか」

「記憶って…人間だった頃の?」

「果てを見るのが好きだと言ったな。昔から、ということは現世での記憶が多少残っているのだろう?」

「…まさか」

“果てが好き”。それは本当だ。だけど、それが生きていた頃からなのかは分からない。
“小さい頃”、と言っても、それはただ気がするだけで。世界の果ても空の果ても海の果ても、現世に行って、そう感じただけで。

「記憶なんてない。私がそう感じるだけで、仮に残っていてもザエルアポロに頼んで消して貰ってるわ。生きていた頃の記憶なんて、気持ち悪いだけだもの」

そう――私は空っぽな存在。空っぽで、ちっぽけな存在。だから私は果てを見る。私よりもちっぽけで、空っぽな存在を見つける為にも。

世界(ここ)は、私には大き過ぎる…捜さなきゃいけないのよ、私よりも小さな存在を」

「下らん、己より劣る存在を捜してどうする。お前自身がそれまでに愚かな考えをしている限り、お前より劣る存在など現れるものか」

「分かってるわよ」

背から離れていく、温かいとは言えない温もり。それでも、その温もりが消えていくのが苦しくて。

「でも、仕方ないでしょ…?」



私は貴方になれない
(空っぽで小さくて、愚かな私なの)

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