小説 | ナノ


貴方の言葉はうそつき


「愛してる」


分かっていたの。貴方のその言葉は、私だけに向けられていないこと。
貴方は、その言葉を私だけじゃないすべてに向けているんでしょう?


「愛してるよ」

「うそつき」


“私は、愛していないくせに。”


「俺はちゃんと君のことを愛してるよ」

「私、じゃなくて“人間を”でしょう?」

髪を撫でる手も、慈愛に溢れた口付けも、私にではなく人間に向けた愛。

「確かに俺は人間を愛してる。でも、人間へ向けた愛と君に向けた愛を一緒にされるなんて、心外だな。況してや、うそつきなんてね」

「うそつきですよ、貴方は」

「そんなうそつきな人間なことが好きなのは誰だろうねぇ?」

「さぁ?貴方の信奉者とか?」

「分かってるくせに」

私はうそつきじゃない。この人のことは、本当に、本当に愛していない。こんな人のこと、愛してない。

「素直になりなよ、梓紗ちゃ〜ん」

「離れて下さい、臨也さん」

嫌だ。大嫌い、大嫌いこんな人。大嫌いな、はずなのに。なんで、

「嫌い、ですっ…臨也さ、ん…なんて…っ」

なんで、涙が出て来るの?

「はいはい。俺は梓紗ちゃんが大好きだよ、愛してる」

うそつき、うそつき、うそつき、うそつき。

「大嫌い…です…」

「愛してるよ、梓紗ちゃん」

愛していないくせに、貴方のキスはこんなにも優しい。



うそを紡ぐ唇
(嫌い、大嫌い、愛してない)(どうして、涙が流れるの?)

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