◇月が冴える
「ふああ、なんだかやけに眩しいね」
白い息を吐き出しながらリリネットが空を見上げる。
空には月が煌々と輝いている。
「…ああ…そうだな…」
スタークも白い息を吐きだし空を見上げ返事をした。
あの白と黒の世界にも月があった。
だが、この冷え冷えとした空気まではあったか覚えがない。
「やぁ、月が冴えているねぇ…」
春水が徳利片手にふらりと縁側に佇んだ。
縁側でスタークとリリネットと二人並んで座って空を見上げていたので、誘われたように見上げて気が付いたのだ。
「月が、冴える?」
スタークが聞き慣れない言葉に首を傾げた。
「ん?言わない?冬になると空気が冷たくなって、空気が澄んで月が良く見えることを言うんだよ」
「ああ、それで良く見えるのか…」
「へー、夏と冬とで空気が違うんだぁ」
どういう原理かまでは解らずとも、確かに空気が澄んで綺麗に見えるのは解る。
「ほらほら、そんなところに薄着でいると冷えるわよ」
七緒が羽織を持ってきてリリネットの肩へと掛ける。
「ありがと!」
七緒を見上げ礼を言う。
「冬は、雪見もできるわよ」
「雪かぁ、それも楽しみだなぁ」
瀞霊廷に来て、スタークもリリネットもことのほか四季を心から楽しんでいた。
色が変わる様子が楽しくて仕方がない。
春水や七緒の影響もあるのだろうか、二人は季節に合わせた着物なども好んで着ることが多い。
そして、春水も七緒も奥ゆかしい、雅な言葉を使うこともある。
それがまた、ぴたりと当てはまる景色や心境で使ってくれるので、何と美しいのだろうと思い心に留めている。
虚になると、何もかもが虚しく感じることが無くなってしまう。虚無とは良く言ったものだと思う。
春水と七緒の子供の成長に触れ、四季を感じる毎日。
人であった頃にも感じていたはずの感情。
「……スターク」
「ん?」
リリネットがスタークを呼び擦り寄る。
「綺麗だな」
「ああ…そうだな…」
ふとリリネットの表情が何時になく大人びて見えた。
思わずスタークは首を傾けてそっと唇を重ねた。
春水と七緒は顔を見合わせ、黙ってその場を立ち去った。
残った二人は静かに唇を重ねたまま抱き合う。
もう一段階進めたら、二人の関係に変化があるかもしれない。
そんな予感がしたのだが、スタークは小さな変化を口には出さなかった。
今はまだ、このままゆっくりと時に身を任せていたいから。
もう少しゆっくりと時を感じていたいから。
20111201〜20111231
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