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「…まあ、俺らは直接あの人と戦りあってねぇからなぁ。十刃とは戦ったけど」
「あ、そうだったんですね」
両親や他の者からちらほら聞くことはあったが、詳しくは知らない。
誰が誰と戦ったなどとは聞いてはいないのだ。
「まあ、一番遺恨があるのは、日番谷隊長じゃねぇのか?吉良や恋次もちょっと複雑らしいけどよ」
「そうなんですか」
曖昧な説明に、一秋も曖昧にしか相槌の打ちようがない。
そもそも、十一番隊の面々に遺恨などなく、対峙してもいないのだから、曖昧になって当然と言えよう。
何せ隊長の剣八からして、戦いを楽しみ、楽しい戦いができた相手には恨みは全くない。寧ろ楽しい戦いをありがとうと礼を言うほどなのだ。
だからこそ、唯一ギンを受け入れられる隊であったとも言える。
隊員同士の喧嘩すらも日常茶飯事なのだから。
「そういえば、平隊員となると、稽古も普通に参加することになるんでしょうか?」
「…そうだな。元隊長格なんだよなぁ」
一秋の指摘に剣八の口端が吊りあがっていく。部下なら稽古と称して戦えるのではないかと考えたのだ。
「良いっスねぇ…。あの人と手合わせしたことないんスよねぇ」
一角も楽しそうに笑顔になる。
「俺も稽古お願いしてみたいです」
一秋も思わず笑顔になったのは、すっかり十一番隊に染まっていると言えよう。
「おやおや」
弓親も笑顔でそんな三人を眺めるばかりだ。
もっとも剣八の言う戦いはできないであろう。よほどの事がない限りギンに帯刀は許されないからだ。それこそ木刀での稽古が関の山だ。
木刀でも、ギン程の実力者であれば十分殺傷能力はあるのだが、当然のことながら、彼には様々な枷がある。鬼道が最小限しか使えないように封じられてもいる。
「そうだ。ギンちゃんに聞くことがあったんだっけ」
部屋へ向かおうとするやちるを、一秋が慌てて止める。
「草鹿副隊長!今は行かないほうが」
「何で?」
「いや、何でって…今頃は、布団引っ張り出してると思います」
きょとんとして尋ね返すやちるに、一秋は頬をほんのりと染めながらも説明をした。
「…布団…ああ!そっかそういうことか。じゃあ、邪魔しちゃ悪いね」
一瞬意味が解らずにいたが、やちるには何とか伝わった。一秋がもっと具体的に言わずに済んだと胸を撫で下ろす。
何せ八千代とその両親という微妙な相手に、はっきりと物事を言いにくい。
「まあ、数百年越しですからねぇ」
弓親もしみじみと頷く。長く逢えなかった時間を埋め合わせるのには、言葉よりも一番早い方法だ。
今夜いっぱいは邪魔しない方が良さそうだと、一同納得したのだった。
その頃、一秋の指摘通り、布団を敷いて死覇装を脱ぎ裸で横たわる二人の姿があった。
「…痩せたわね」
「しゃーないわ。何もしてへんかったし」
「そう」
独居房での事をギンは一言で済ます。実際、何もしていないのだ。手枷足枷だけでなく、目も口も塞がれただそこにあっただけなのだから。己のことながら、良くぞ発狂せずこうしてまともな会話ができているものだと思う。
乱菊もあえて聞き出そうとはしない。
食事をし、稽古していけば程なく体力などは戻ってくるだろう。
ギンは慈しむかのように、左手で乱菊の肌を撫で、味わうかのように優しく舌を這わせ唇を落とす。
乱菊はギンの好きに触らせることにし、さらさらの髪を撫でている。
「…乱菊…もうひとつ謝らなあかんことがあるんやけれど…」
「何?」
弱々しく後ろめたそうな声音に、乱菊はギンを見つめた。
「…そのう…今はまだ…勃たへんのや…」
「………」
乱菊は無言でギンを頭の天辺から足の先までをじっくりと眺めた。
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