「……ご免な…」
「謝って済む問題じゃないでしょ!!」
「うん」
 大きな豊かな胸に顔を押し付けられ、滑らかで温かな肌に、早鐘のような鼓動に触れる。

 ようやく触れることのできた温もりに、乱菊が生きていることの喜びが勝る。
「…乱菊、顔見して」
「嫌」
「なして?」
「嫌よ、今ブスだもの」
 頭上から鼻を啜る音が聞こえ、彼女が泣いているのだと解った。
「…泣かせた、なかったのに」
「バカ…」
「うん」
 何を言われても仕方がない。それでも今は乱菊が生きていてる事が何よりも嬉しくて笑顔になってしまう。

「…なあ、乱菊」
「ぐす…何よ」
「…京楽隊長の子供さん、何人おるん?」
「…一秋一人じゃないって解る訳?」
「…ん、なんか、よーけおるような気がする」
 話題をあえて変えてみると、乱菊が反応を返してくれた。それが嬉しくて思わず話題を続けることにした。
「本人に聞けば?」
 乱菊が涙をぬぐいながら一秋を見る。
「えっと、今の所、七人兄弟です。俺が長男で一番上です」
 一秋は苦笑いで肩を竦めつつも会話に加わった。
「わあ、子だくさんやねぇ」
 素直に驚きの声を上げる。

「でね、秋君はー、あたしと剣ちゃんの子と恋愛中なのよー」
「………へ?」
 やちるが続けた説明に、ギンが思わず間抜けな声でやちるの方へと向いた。
「あたしと、剣ちゃんの間に娘が一人いるの。秋君はうちの娘と恋愛中」
 笑顔でのやちるの説明に、ギンは口をぽかんと開けて見返すばかりだ。
「なによー」
「…いや、やちるちゃん…子供産んだん?」
「産んだよー」
 どうやら、成長したやちるは認められても、子供を産んだ母には見えなかったようだ。
「世間は変わったんやねぇ…」
 茫然と呟く。何せやちるが小さかった頃しか見ていないのだ。成長したと解っても、とても子持ちの母には見えない。
「いっぱい変わったよー」
「なんか、やちるちゃんが母親っての想像できへんけど、更木隊長が父親ってのも想像できへんわぁ」
「そっかなぁ?剣ちゃん結構面倒見いいんだよ?」
「そりゃね、あんたが赤ん坊のころから一緒なんでしょ?」
「うん」
 乱菊とやちるが軽くやり取りをしていたが、ふと思い立つと乱菊はギンを睨んだ。

「あんた。十番隊には来ないでよ」
「ああ…日番谷隊長だから?」
「そうよ。雛森と結婚してるの。あんたが顔出せば嫌なことばっかり思い出すでしょ。 あの二人やっと落ち着いたんだから」
「…そっか」
 二人を思いやるような乱菊の口調に、ギンは微笑を浮かべた。ギンにしてみれば乱菊が大切なだけだ。乱菊が嫌な思いをするのならば、しないに限る。
 心ない謝罪は二人を更に傷つけるだけだ。長い年月で納得し落ち着いたとしても。

 かつての部下達、三番隊の隊員達にも同様である。
 イヅルにしても合わせる顔がない。
「しばらく、十一番隊でじっとしてなさい」
「うん」
 乱菊に言われ、ギンは素直に頷いた。


 ギンと乱菊を部屋へと残し、やちると共に隊首室へと向かうと、そこには剣八と一角、弓親が揃っていた。更には先程会話に出てきた八千代までいた。
 八千代は純粋なヤジ馬だ。
「どうだった?」
 一角が一秋に尋ねる。
「えっと、落ち着いてます。松本副隊長もいらしたので」
「ふーん」
 そっけない一角の返事に、一秋が首を傾げる。
「それだけですか?」


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