「リサちゃん、いい加減外してくれないかなぁ?もうお仕事終わったからいいでしょう?」
 春水が椅子を揺らして言葉だけでなく、音を立てて懇願する。
 先程ようやく書類全てに目を通し終わったところなのだ。椅子に縛り付けられたままでは部屋へ戻る事も出来ない。
「全く、いっつもいっつも逃げ回ってばっかだからや」
 溜息とぼやきを口にしつつも、縄を解く。
「それはそうと、後一日あるのに今日は強引だったねぇ?」
「そらそうや、明日はあたしが休みやからな。終わらせとかんと、一日の七緒との約束が守れへん」
「月末に休み?あ、ああ、今日拳西君の誕生日だったっけ」
 男の誕生日など覚えたくはないのだが、毎年リサが同じことを繰り返すので嫌でも思い出す羽目になる。

 今晩はたっぷりと拳西と褥を共にするのだろう。その為に明日は身体を休めるのだ。
 毎月一日は、八番隊の一番若い隊員である伊勢七緒との読書会がある。読書している最中に眠ってしまったり、読書会を休みにしてしまうというのはリサにとって考えられないことらしい。

「…健気やろ?」
「…自分で言うかねぇ」
 リサがふんぞり返って言った台詞に、春水が苦笑いになる。
「さっさと行ったらどうだい?待ってるんじゃないの?」
「ん?あいつが誕生日だからって、仕事を休みにするように見えるか?」
「……寧ろ無関心だろうね?」
「そうや。だから、急ぐ必要はないんや」
 全く無愛想ながらも、よく気が効くものである。
 リサは書類を抱え上げると、春水に向いた。
「お疲れ」
「ん、お疲れ様。ゆっくり楽しんでおいで」
「ああ、そうする」
 リサの後姿を見送ると、春水は身体を解すように立ち上がり肩を回した。
「…やれやれ…今回随分きつく縛られたと思ったら、そう言うことだったか…参ったねぇ…どうも」
 痛む程に縛りつけられたのは、春水に逃げられまいと思っての事だろう。死覇装の下にはしばらく縄の痕が残っているだろうから、痕が消えるまでは温泉に行けやしない。
「今晩は、軽く汗を流して一杯ひっかけるとしますかね…」
 肩を竦め呟き笠を被ると、痛む場所を軽く擦りながらゆっくりと部屋を出た。明日はリサの監視がない分のんびりと休めるのだから。



 書類を提出し終えたリサは、汗を流し浴衣に着替えると九番隊へと向かった。
 ただし、こっそりと忍びこむ形で。
 塀を乗り越え、拳西の部屋へ向かう。

 勝手知ったる何とやら。押し入れから布団を出し敷いてしまうと、リサは浴衣を脱いで裸になり布団に潜り込んでしまい、そのまま目蓋を閉じ眠りについてしまった。


「ふう…やれやれ…」
 部屋に戻る前に食事と風呂を済ませてきた拳西は自室の障子を開けたところで、入口で立ち止まった。
 布団が敷かれ、女物の浴衣が落ちている。
「…何だ、今回は早かったな」
 自分の方が仕事が遅くまでかかっていたことに思わず驚き呟く。部下達から誕生日のお祝いの言葉を掛けられていたのでリサが来ることは予測できたのだが、自分が部屋に戻るより先にいることに素直に驚いたのだ。

「リサ、飯は食ったのか?」
 ゆり起して声を掛ける。
「ん…食べてきた」
「そうか」
 どちらも誕生日など関係なく仕事をするので、時間がどれくらいになるか見当もつかない。急の出撃もあるから尚更だ。
 だから、暗黙の了解で食事や風呂は済ませてくることになっていた。
 拳西は頷き返しながら死覇装を脱ぎ、珍しく床に投げ放った。
「なんや?待ちきれへんのか?」
「そりゃあな、準備万端で待ってられたら、待たせちゃ悪いと思うもんだろ」
 上掛けを捲り布団に潜り込むと、リサに圧し掛かり手を滑らせて秘密の場所を探る。
「ん、準備万端か」
「ん…ふ…はよ、きてや…」
「おう…」


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