「うん、そうだよ。だから余計に、かな?」
「そうなんですか?だったら、ボクも女の子がええなぁ…乱菊そっくりな子やったら…」
 京楽父息子の会話にギンが笑みを浮かべながら、想像を膨らませる。
 一方で春水は少しだけ剣呑な目つきを見せた。女の子であまりに夢中になりすぎて、以前の二の舞にはならないだろうかと、一瞬過ったのだ。
 だが、ほんの一瞬の事であり、ギンは思いが赤ん坊の方へと向かっているため気がつかなかったが。

「更木隊長はどないだったんですか?」
「あ?俺はそこのバカみたいじゃねーよ」
「うそだぁ」
「うそです」
 剣八の否定の言葉に、あっさりと春水も一秋も否定した。
「ああ?てめー程、親馬鹿じゃねーよ!」
「確かに、親父程じゃないです。親父は度を越してますので」
「一秋君!ひどい!」
 剣八の抵抗に対して息子の肯定に、春水が嘆く。
「でも、親義父さんだって立派に親馬鹿でしょ。なんたって、八千代の事、一切否定や反対しませんからね。むしろ全力で肯定」
「あ、それは言える」
 一秋の言葉に今度は春水が賛同し、まだ事情を知らないギンが首を傾げる。

「例えば、どないな?」
「んー…ほら、昔もだけど、やちるちゃんが『あっち』っていったら、反対せずに進んだでしょ?」
「ありましたね。それも迷子の原因の一つになってはったようですが」
「でも、ほら、やちるちゃんの場合、旦那が大好きで大好きでたまらないから、やちるちゃんが先読みしたり、譲歩してる部分が大きいよね」
「あー…それは、言えますねぇ」
 春水の説明に昔の記憶を呼び起こしながら相槌を打つ。
「ところが八千代ちゃんは、両親の思いまでは汲み取らない。子供だからね。ただ、自分が好きな事をおねだりするんだよ。『あれして、これして』って。それを、更木君は一度も反対したことないんだから」
「そうそう」
 春水の説明に一秋が大きく頷く。
「例えば?」
「俺との付き合いとか、結婚が最たるものじゃないですか?親父なんか妹たちの時、猛反発しましたけど、親義父さんときたら、すっごいあっさりと認めてくれましたもん」
「おめー、それは…」
 剣八が反論しようと身を起こすが、春水とギンの視線にぶつかった。
「親馬鹿ですなぁ」
「うん、立派な親馬鹿だよ」

「だれが親馬鹿〜?」
 一秋の説明にギンと春水が大きく頷いた所へ、やちるが顔をのぞかせた。
「ん?更木君」
「あー、剣ちゃんかぁ」
 やちるが剣八の隣に座りながらもあっさりと認め頷く。
「何だよ」
「その通りだねって」
「ああ?おめーもそんなこと言うのかよ」
「え?剣ちゃん自覚ないの?」
 剣八の抵抗にやちるが驚き目を丸くする。
「十一番隊全員で八千代甘やかして、その筆頭が剣ちゃんのくせして何言ってんの」
「ぶはっ!」
 やちるの言いように思わず春水が吹きだす。
「くくく…やちるちゃんに言われちゃったらお終いだねぇ…」
 喉の奥で笑いながら指摘すると、剣八は憮然とした表情で盃に入っていた酒を一息に飲み干した。
「う〜ん、剣ちゃんって意外と自分を知らないからなぁ…」
 やちるが腕を組み唸る。
「まあ、それは確かに」
「あたしをちゃーんと護ってるのに、護ってないとか言っちゃったり。剣ちゃんて、戦いしか頭にないでしょ?だからそれ以外の感情を自分ではないって思いこんでるんだよね」
「ああ?何だよそれ」

「……男は鈍い生き物ってことっスよ。親義父さん」
 一秋が眠たげな視線を向け酒を飲みながら指摘する。
「ああ?」
「それも一理あるかもねぇ…」
 春水もギンも苦笑いで頷く。女を泣かせた事があるだけに、鈍いと言われるとその通りだと思えてくるのだ。
「ホンマ、若いのによう見てはるねぇ…」
「…そりゃあもう、小さい頃から隊長達を間近で見てきましたから」
 経験豊富な大人たちに囲まれて成長したため、京楽家の子供達は皆揃って観察眼に長けているのだ。


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