「一秋っ」
「はいっ」
「市丸を案内してやれ」
「はいっ、は?俺がですか?」
「おう。オメーが一番いいだろ」
「…そうなんですか?隊長がそうおっしゃるなら…」
 一秋は首を傾げつつも頷き、立ちあがった。
「えっと、市丸さん。こちらにどうぞ」
「おおきに」

 一秋は先に立ってギンを案内することになった。

 寮の方向へと向かい部屋へと案内する。
「ええと、特別に一人部屋です」
 何もない、ただ添えつけの机や押し入れや長持があるだけだ。
 以前の隊長として持っていた荷物など押収され、持ち出しは禁止だ。
 もっとも当時も、未練などないよう、荷物は持たないようにしていたのだが。
「そう。おおきに」
「……」
「…何?」
 直ぐに立ち去ろうとしない一秋に、ギンは首を傾げた。

「…あの、松本副隊長に、ご連絡は?」
 一秋がおずおずと申し出ると、ギンは笑みを深くした。
「君がどうして?」
「…両親から、聞いておりますし、その、松本副隊長にも…」
「…君どこの子?」
 乱菊とは周知の仲であるかのような言い回しに、ギンは首を傾げ微笑を見せた。
「あ、申し遅れました。第六席、京楽一秋です」
「…京楽隊長の?」
「はい」
 名字でさすがに一秋の正体が解った。
 道理で剣八が案内に指名するわけである。旧知の仲の一角や弓親では気まずいだろうが、遥かに年下で事件を聞いただけのような間柄では互いに遠慮し合うだけで済むからだ。

「そうなんやねぇ」
 ギンの笑みがますます深くなった。
 成程、父親が京楽春水であれば母は伊勢七緒であろうと簡単に想像ができた。
 何より良く顔を見れば二人の面影がある。
 猛者の集まりである十一番隊に、弓親と並び珍しく整った顔立ちに、丁寧な言葉遣いからも二人の子供であると解る。
 春水も七緒も乱菊と親しい仲である。二人から聞かされていて、恐らく乱菊ともそれなりに親しくしているであろうと思われた。
 それにしても、こんなに大きくなり、しかも十一番隊において六席にまで昇りつめていることからも、相当自分は長く隔離されていたのだなとしみじみ感じる。
 独居房では時間の感覚はほとんどない。定時で出される食事や休む時間など告げられ、朝昼晩が解るくらいだったからだ。
 今が何年でどれくらいの月日が経ったかも、知らないままでいる。

「…乱菊、怒ってはった?」
「うーん…怒っている、と、思います」
 そっと尋ねてくるギンの様子に、思わず一秋は苦笑いになった。
 大それた事をした人のはずなのに、どうにも可愛らしい。
 まるで子供のまま大人になったような、そんな雰囲気を持ち合わせている。
「謝って、許してくれへんよね?」
「…ずっと会わないおつもりなんですか?」
 ずっと年下の自分に何て相談をしているんだろうと、一秋は目を丸くした。


 そんな会話をしていた時だった。
「ギン!!」
 大きな声で廊下を踏みならし乗り込んできた人物があった。
 背後にはやちるは笑顔で手を振っている。どうやら、やちるが知らせたようだ。
「うわ、まだ心の準備してへんのに…」
「この、大馬鹿者っ!!」
 手がしなり、ぱあんと大きな音が響き渡る。

 思わず一秋もやちるも、肩をすくめてしまう程の音だった。

「痛たたた…」
 ギンの頬にはくっきりと赤い掌の痕が残っている。
「バカッ!バカバカバカっ!」
 乱菊がギンを抱きしめる。長きに渡る独居房生活で、以前よりもやせ細ったギンの体が嫌でも感じ取れる。


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