「お帰り、剣ちゃん」
 やちるが笑顔で振り返る。
「おう」
 死覇装があちこち破れているが怪我はしていない様子だ。斬魄刀を肩に担ぐようにして立っている。二人とも剣八の霊圧を感じたからこそ、背後の虚に手を出さなかったのである。剣八が倒すと解っていたから。
「そっちは片ついたか?」
「へえ、先程」
 ギンが頷くと側に隊員が揃っていた。やちると会話をしながらも目を離さず指示を出していたのだ。その器用さに剣八は一瞥しただけで帰還を促した。
「じゃあ、帰るぞ」
 ギンが斬魄刀を抜き開門する。




 門を抜けると、隊員たちが揃って頭を下げていた。
「お帰りなさいやし、更木隊長!草鹿副隊長!」
 威勢の良い挨拶に一同頭が下がる。
「お帰りなさい、更木隊長。手ごたえはいかがで?」
 先に帰ってきていた一角も出迎えに来ていた。
「まあまあだな」
「編成組んでいかれたとか?数が多かったんですか?」
「ん〜一応?まあ、あれくらいなら、剣ちゃん一人でも良かったと思うんだけどなぁ?」
 弓親の問いにはやちるが答えるが、編成を組まされた意図がどうやら解っていないようだ。

「新人が入ってきましたから、更木隊長の戦い方でも見せようと、恒例行事でしょう。知っておかないと巻き込まれますし」
 これは一秋だ。どうやら彼は結局叩き起こされたようである。
「なんだ。オメー、帰ったんじゃねーのか?」
「親義父さんとお義母さんに、市丸さんまで出撃したって…うちの親父が八千代に報告したもんだから…ふああ…さっき八千代に叩き起こされました」
 欠伸をしながらも答えた内容に、早くも尻に敷かれているのかと思わず一同の頭に感想が過る。
「じゃあ、何で八千代がこねーんだ」
「だって、戦い終わったあとって汗臭いでしょ?皆が。まだ気分悪くなるようで」
 隊員達を振り返れば皆埃まみれでもある。納得できる説明だ。
「無事だって解りきってはいるんですが、えっと何ていったかな、マタニティブルー…だったかな?妊娠中不安になりやすいらしいんですよ」
「何だそりゃ」
「うーんと、妊娠してる最中は、感情の浮き沈みが激しくなりやすいらしいんです。突然泣きたくなったり、怒りっぽくなったり」
「あー…そんなことあったような」
 一秋の説明にやちるが我が身を思い出す。
「で、八千代はどーも、沈みやすい傾向にあるようで…。まあ、俺が報告して気分が良くなるんだったら」
「じゃ、後で遊びに行くよ」
「そうして下さると嬉しいです」
 やちるが少しでも娘の不安が取れるのならばと提案すると、一秋は笑顔で頷き、ふと思い出したようにギンに向き笑顔で促した。

「あ、松本副隊長の元にも早く来てくださいね」
「へ?十番隊まだボク出入り禁止やから行けへんよ?」
 今の時間はまだまだ仕事中である。今乱菊の元へ向かうとなると十番隊になるはずである。何を言っているのだろうと首を傾げる。
「今、松本副隊長、八番隊に来てるんですよ。家なら大丈夫だろうって、ですからご一緒にどうぞ」
 先程から私用の言葉づかいをしているなと思ったのだが、どうやらここに理由があったらしい。
 普段は他の隊員がいる場所では、一隊員として会話をするのだが、今は完全に素であった。そもそも一秋は死覇装を着ていない。着流しで来ているのだ。いかにも寝起きといった風情そのままで。
 一角も弓親も制す事をしないので、事情を先に聞いていたのだと思われる。

「俺も後で、八千代の所へ行くか」
「是非」
 一秋が笑顔で頷き帰って行くと、三人は揃って八番隊へと向かうことにした。

 軽く汗を風呂で流し、八番隊へ娘の見舞いに行くのだからと私服に着替える。
 ギンも一秋が私服だった事を思い出し、私服に着替えていた。



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