穿界門を通り抜け指定された区域へと到着すると、そこは虚の群れがいた。
「ほう…」
 剣八の口端が嬉しそうに吊り上がっていく。
「俺が行く。やちると市丸はここに居ろ」
「はーい」
 やちるは元気よく返事をしたが、ギンは苦笑いを浮かべて首を傾げた。

「編成の意味、ありませんなぁ…」
「あるよー、剣ちゃんがあっちで暴れるから、こっちのお片づけ。ギンちゃんだってわかってて新人ばっか連れてきたんでしょ」
 やちるが指さした先にも、別の群れがいた。無論ギンも気づいているし、指示書には二組の群れがいることが書いてあったのだから。ただ、もう一つの群れは貧弱と言っても良い。剣八が向かおうとしているのは、明らかに大物が揃っている群れなのだ。
 新人に弱い虚をあてがうというよりも、剣八が強い虚を求めていっただけなのだが、結果として丁度いい。

「まあ、そうでしょうね」
「ギンちゃんは指示してね?」
「はい」
 やちるとギンが頷くと、剣八は走りだした。
 虚の群れを目指して。


 ギンは編成した面々に指示して虚を片づけて行くが、やちるはそちらを見ていない。剣八が虚を倒す度に立ち上る土煙などを楽しそうに眺めている。
「…や…草鹿副隊長、見てるだけでええの?」
「ふふ、やちるでいーよ?呼びにくいでしょ?」
「ん〜一応、他の隊員も居る手前…」
「そう?ねえ、ギンちゃん」
「ん?何?」
 うっかり素で返事をしてしまい、しまったという表情を見せるとやちるは面白そうに笑った。
「あははっ、無理しなくっていいよ」
「すんません…。じゃあ、やちるちゃんは、いかへんでええの?」
「ん。行くと邪魔になっちゃうもん」
「まあ、更木隊長は周り見えへんようになるもんねぇ」
「そゆこと」
「あのね、ギンちゃん。剣ちゃんは死にたくないんだよ」
「……」
「楽しいことまだまだいっーっぱいあるかもしれないのに、もっと強い相手がいるかもしれないのに。死んじゃったら戦えないでしょ?だから、苦戦はしても死にたいとは思わないんだよ」
「……まあ、そうやろうけれど」
「あたしも一緒。剣ちゃんとまだまだずーっとずーっと一緒に居たいから、死にたいとは思わない。だから、強くなるんだよ。弱いと死んじゃうかもしれないでしょ?強かったら死なないから」
 やちるが笑顔を見せながらも抜刀すると一振りする。
 何時の間にか横に来ていた虚が塵となって消えていく。
 ギンも何時の間にか刀を抜いていて、背後を刺していた。
 こちらも同時に虚が塵となって消えていった。

「でもね、らんらんは一時死にたがりになってたの」
「……ボクのせいや」
「そう。ギンちゃんのせい」
 やちるの言葉にギンが自分の過ちを認めると、やちるはあっさりと頷く。
「だからね、らんらんは絶対ギンちゃんの為には死なないよ。ひっつんとか部下とか人間守る為に死ぬかもしれないけれど、ギンちゃんの為には死なないよ」
「そら本望や。ボクのために死んだらあかん」
 乱菊の為に、死してまで藍染を討とうとしたギンの言葉には説得力がある。
「でも、ギンちゃんの子供のためには死ぬかもしれない」
「それはあかん。お母はんおらんで、子供は育てへん」
「あたしも母親なんて知らない。けど、剣ちゃんがいたから」
 やちるの言葉には真実と言う重みがある。ギンは思わず押し黙った。自分も乱菊も親に育てられた記憶はとうにない。気づけば自分も乱菊も一人ぼっちで、お互い出会ったのだ。
 だが、死神の仕事は過酷であることと、流魂街出身者も多いため、両親揃っているところは少ない者が多い。
 逆に、だからこそ、両親がいたらと強く願っての言葉とも言える。

「だからね、ギンちゃんは死んだらだめだからね」
「やちるちゃん…」
「ふふ、あたしの側にいると死なないよ。護ってあげるし、剣ちゃんも護っててくれるから」
 二人の背後から大きな音を立てて何かが崩れる音がした。


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