◇耳と尻尾・1


「何それ!いいなー!」

 部屋に飛び込んできたリリネットの声に、部屋の主が振り返った。
「やあ、リリネットちゃん。どうしたの?このにゃんこの耳がいいのかい?」
 笑顔でのんびりとした口調で返しながらも、その頬にはくっきりと引っかき傷がある。

「……奥さん押し倒すのに、何でそんなになってんの?」
 首を傾げ不思議そうな問いかけに、よくぞ聞いてくれたと七緒が厳しい口調で説明をした。
「仕事中に、またこんな薬を飲ませてさぼろうとしたんですよ」
 そう憤る七緒の耳には黒猫の耳や尻尾が生えている。

「そりゃいけないね」
 リリネットが七緒の言い分が正しいと頷いた。
「おっさん、ダメだよ。奥さんといちゃつきたいなら仕事しなくちゃ」
「うう…」
 子供に諭されてしまっては春水も言い逃れしようもない。がっくりと肩を落とす。

「…まあ、奥さん好きなのは解るけど…って、そうそう、それなに?」
 リリネットは瞳を輝かせて七緒の耳と尻尾を見つめる。
「……ちょっとしたお遊び用と言えばいいのかしら…。アニマル*キャンディって言うの」
 今やすっかり商品となっている件の薬の名前を告げる。
「最もあまり一般販売はしていないのよ。まれに変な作用が出るから、一応十二番に名前を登録して買うと言う形になってるの」
 ソウル*キャンディの場合、あくまでも儀骸で使用することを前提に作られているので、死神の身体に直接影響はないのだが、こちらの薬は直接摂取するため影響がでないとは言い切れないし、隊長や副隊長のみの特別注文としてちょっとオプションを付けることも可能なのだ。一例として猫語や爪や牙などなど。

「へえー」
 七緒の側に寄りまじまじと見つめる。
「触って良い?」
「良いわよ」
 尻尾を撫でその毛並みに感嘆の声を上げる。
「わあ!すごいちゃんと体温もある!感情にも?」
「ええ、左右されるわね。犬だと尻尾で感情が顕著になるわね」
「犬あるの!?狼は?」
 七緒の説明に更に期待に瞳が輝く。

「ああ…そうか、君達の帰刃は狼だったねぇ…」
 リリネットの様子にやけに執着している理由に、思い当たった。
「うん!スタークの分と二人分欲しいなぁ」
「ふふ、良いわよ手に入れてあげる」
「やったあ!」
 大喜びのリリネットを微笑ましく見ながらも、春水は自分の分まで手に入れられないようにと願うばかりだった。

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