1
「死覇装も久しぶりやわぁ…」
死覇装に袖を通し呟きながら身なりを整えると、男は看守へと一礼した。
「…あなたのしたことを許されることではありませんでした」
「……」
「そのことを肝に銘じておくように」
「はい」
建物の外へ出てから看守が滔々と告げると、男は黙って聞き返事をし頭を下げた。
長く暗い場所にいたため、外の光が眩しくてたまらない。額に左手をかざし影を作って目を細めて門を見る。
門の外には、特徴ある髪型の十一隊の隊長が副隊長を伴って迎えに来ていた。
「ギンちゃん!!お帰りっ!」
「……やちるちゃん?わあ、大きゅうなって」
明るく声を掛けた女性の髪の色から判断し、ギンは驚きに思わず目を見張った。
「いくぜ」
剣八はぶっきらぼうに一言だけ。挨拶も何もないのは剣八らしい。
「ふふ、ギンちゃんが部下なんてへーんな感じ」
「はは。しゃーないわ。ボクを受け入れるような隊なんてあらへんもん」
弾むような足取りでギンに向いたり、剣八の方へと駆け寄ったりと忙しく動きながら問い掛ける。
ギンは苦笑いを浮かべる事しかできない。己のしでかしたことには自覚と責任を持っている。
そう。ギンはかつて藍染惣右介と共に瀞霊廷…王族に剣を向ける真似をしたのだ。
本人に謀反の気はなくとも、惣右介と共に行動を共にした時点で立派な反逆罪だ。
本心は惣右介を討つことあったということでギリギリ情けを掛けられた。
だが、簡単に許される訳もなく、長い長い年月を独居房――光も何もない――での反省を促されることとなった。
それでも尚、こうして表に出ることを許されたのは、かつての仲間達から、長きに渡り諦めることなく、嘆願の声が届いたからでもある。
死刑を言い渡されてもおかしくはなかったが、隊長としての力量を惜しまれたのもその一つの理由だ。
剣八のような粗野な男でも隊長を許されるくらいに、力は惜しい。
また、本来ならまだ解放されることはなかったのだが、恩赦がでて表へ出ることが許された。
「それにしても、らんらんに迎えに来て貰わなくってよかったの?」
今では事情を知っているやちるは、首を傾げ問いかけた。
「ん〜…面会にも来てくれへんかったし、怒ってはるんやろねぇ…」
「…ふうん」
複雑な男女関係の心のやり取りなどやちるには解らない。何せやちるも剣八も己の感情にはただ素直なのだから。
「それにしても、更木隊長はやちるちゃんと結婚しはったんだって?驚いたわぁ」
独居房に入ると情報は全く入らない。面会と先ほど口にはしたものの、基本的に面会は許されなかったので、情報は皆無である。
出所する直前にざっと与えられた情報があるのみだ。しかも、己の所属する隊のみ。
「ふふ、あたしたちだけじゃないよ?みんなも!きっと驚くよ〜」
「楽しみやわぁ」
やちるの笑顔にギンは眩しそうに見返し頷いた。
さて、十一番隊へと到着すると、一同道場に集まっていた。
「市丸ギンです。よろしゅうに」
軽く頭を下げ挨拶をする。そのしおらしい姿に、かつての隊長としての姿を知る者は苦笑いや、ふてぶてしい笑みを向けるか、睨みつけるばかりだ。
「隊長、市丸た…ええと、市丸さんは何席になるんで?」
以前から知る弓親が剣八に確認をする。
隊員達は何も知らされていないのだ。ただ、市丸ギンが十一番隊所属になるとだけ伝えられ集められた。
「席はなし。平隊員だ」
「へえ…」
「昇格は?」
「当分なしだ」
「そうなんですね」
それも当然の措置であろうと思われた。
「でもまあ、隊長の書類仕事なんかはできるだろうから、回してやれ」
「わ、ラッキー」
「そうだよな」
「うわぁ」
素直に弓親と一角は喜んだ。
何せ書類仕事をするくらいなら、稽古でもしていたいと思うからだ。
ギンは文句を言わず苦笑いで驚いて見せるだけだ。
[*前] | [次#]
[表紙へ]