◇慣れ


「あれ?京楽隊長」
 乱菊がギンを連れて梅の木の元へと来た。

「やあ、乱菊ちゃん、市丸君。一杯どうだい?」
 春水が徳利を掲げて誘う。
「いっただきまーす」
 乱菊は嬉しそうに直ぐ側に座って、盃を手にして酒を待つ。
「はい」
 春水が酒を注ぎ、ギンへも盃を渡す。
「…いただきます」
 ギンは元気がない。
 それもそのはず。ここへ乱菊を誘って二人きりでデートと洒落こもうとしたのに、先客がいたのだから。
 しかも春水だけならともかく、小さな子供や、スタークにリリネットまでいる。

「市丸君。ほら、ぐっと飲んで」
 春水の勧めに苦笑いを浮かべて一息に飲み干した。
「…ん…なんです?これ。えっらい強い…」
 眉間に皺を寄せて思わず口元を拭う。
「ん?吟醸だけど?」
「そう?美味しいじゃない?」
「ボク、今酒弱いんよ」
「何でよ」
 乱菊は今度は手酌で注ぎ飲む。こちらはいつも酒と共にあったので、すっかりざるである。

「まず、あそこでは酒は一滴もでえへんかったし…。十一番隊でも、今はあんま飲まへんようにしてるんよ」
「なんで?あそこ飲み助ばっかりじゃない」
「下っ端は後片付け専門。ボクがつぶれる訳にはいかへんでしょ?」
「ふふ、それもそうだねぇ…」
 春水が面白そうに笑う。何せ、自分の息子も相当行ける口だと知っているだけに、ギンの苦労も目に浮かぶというものだ。
「へえ?」
 これには乱菊の方が悪戯っぽい目つきに変わった。
「飲めっ、飲みなさい、ギン!!」
「乱菊、面白がってはるやろ」
「当然!飲みつぶれるあんたなんて、そうそう見られるもんじゃなかったからねぇ」
「はあ…飲みつぶれるより、もっとええことしたかったのに…」
 ギンは溜息を吐きだしながらも盃を差し出した。乱菊に逆らう気力は全くないのだ。


 春水は辺りを見渡し笑みを深めた。
「次は桜かな?」



20110303〜0406

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