◇色彩


「うわぁ」
 リリネットは口を大きく開けて、目の前に広がる色鮮やかな光景に驚いていた。
「……すごいな…」
「うん、すっげー…」
 京楽家の小さな子供達は駆け出してはしゃぎまわっている。夏七はしゃがみこみ地面に落ちた花ビラを、せっせと集め始めた。

「これ、何?」
 あんぐりと口を開けて見上げる様子に、春水は袖の中で腕を組み笑みを浮かべて答えた。
「梅の木。この花の後に実が成って、梅干しとかもできるんだよ」
「うめ…すげーな…」
「梅もすごいけれど、桜も見ごたえがあるよ。近いうちには見られるから楽しみにしておいで」
「うん」
 瞳を煌めかせて素直に頷く様子に、春水の笑みが深くなる。すっかり自分の子供たちと似たような扱いだ。


「良かった、綺麗な花が好きって感性が変わらなくって安心したよ…どうも」
 笠を掲げるように持って梅の木を見上げる。
「……ああ…あちらには色がなかったからな…本当にここは眩しい程だ」
 目を細めて辺りを見渡すスタークの様子に、春水は笑みを浮かべた。

「いつでも、来ると良いよ」
「…ああ…」
 男の子たちと、美しい梅の木の下で走り回るリリネットを見つめ頷く。

「こらまてっ!」
「へへーん、ここまでおいでー」
 六冬が生意気に挑発する。梅の木は登りやすいので手や足を掛けて軽々と登っていく。
「いったなー、待ってろよ!」
 リリネットも手と足を枝に掛けて登り始めた。
 彼女は活発な男の子と遊ぶ事が多いので袴をはいている。お陰で軽々と登っていくことができるのだ。

「ね、スタークも遊ぼっ」
「…ああ」
 秋五が誘いに来た。

 春水はと言うと、着物を地面へと敷いてそこへ座り酒を取り出した。


「七緒ちゃんがいたら、完璧だね…ふふ…」
 七緒は八千代の面倒をみるために、家にとどまっているのだ。

 近い将来に増える家族に、春水は笑みを浮かべて酒を静かに重ねたのでした。

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