「…父ちゃん、おんぶ」
「あ?何だ?」
 八千代が甘えるように手を伸ばす。
「八番隊、送ってって」
「ああ、別にいいけどよ」
「荷物は、一秋持つし、ね?」
「ん。そうだね」
 剣八が八千代を背中におんぶすると、一秋が荷物をまとめて持ってくる。
 やちるも一緒について行く気満々で、手荷物をいくつか手にした。
「走っちゃやだよ?気持ち悪くなるから」
「あ?めんどくせーなぁ」
 そう言いつつも気を使ってゆっくりと歩いているし、珍しく背中に手を回して八千代の体を支え持っている。
「えへへ〜」



 四人が八番隊へ到着したころには、八千代は眠りについていた。
「眠くなるのも、妊娠の特徴よ。さ、お布団敷いて寝せてあげなさい」
 七緒が息子に命ずると、一秋は布団を敷きに向かった。剣八達もゆっくりと後をついて行く。

 いざ下ろそうとすると、八千代の手がしっかりと羽織を握っていて離さない。剣八は羽織を脱いで握らせたまま布団へと横たえた。
「ふふ、赤ちゃんの頃思い出すなぁ…剣ちゃんから離れたがらなくって」
「そうだったな」
 そんな娘が今度は赤ん坊を産むと言う。ますます不思議な気分になってくるというものだ。
「八千代ちゃんが来たって?」
「しーっ」
 顔を見せた春水にやちるが静かにするように唇に人差し指をあてれば、剣八も春水を睨みつける。
「おやおや」
 やっと親の自覚が出てきたのかと、春水が面白そうな表情になった。

「一秋さん」
 七緒がそっと呼び、春水とともに執務室へと向かうと、部屋に入るなり一秋が口を開いた。
「今更嫁にやりたくないってことはないよなぁ…」
 ちょっと不安そうに呟く。
「それはないでしょう、ちょっと昔を思い出しただけだよ。孫が生まれれば、また気持ちは変わるんじゃないかな?」
 春水が苦笑いで心配を払拭する。
「…変わると思う?」
「思うわよ」
「思うねぇ」
「……そんなに、子供と孫への気持ちって違うもの?」
 両親が口を揃えて肯定する。
「子供と孫の可愛さは別物なのよ」
「そっかぁ…じゃあ、大丈夫かなぁ」
「堂々としてればいいんだよ。籍も式も後からだけれど、事実上もう夫婦なんだし、ボクらも更木君たちももう認めているんだから。そもそも、認めてなきゃ八番隊へ来るの許すわけもないでしょう?」
「…ん、そうだね」
 春水の説明に納得したかのように頷くと、八千代の元へと向かった。

 すると、そこには八千代を挟んで何時の間にか川の字に並んで眠っている剣八とやちるの姿があった。
「…案外、まだ子離れしてないのかもな」
 一秋は苦笑い気味に呟くと、押し入れから毛布を取り出して二人にもそっと掛けて部屋を出た。


 今度は自分と八千代で川の字を作るのだと思うと、熱い気持ちが込み上げてくる。
「もう少し、先輩方の話を聞いておこうかな」
 子供への心構えを聞くべく、一秋は両親の元へと再び足を向けたのでした。


おしまい。

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